ぬれねずみ
「お前なにやってんの?
なんで傘持ってないんだ??」
「き、急に降り出したから……」
「赤信号でとび出して来るなんて危ないじゃないか」
「ごめんなさい、ちょっとボーッとしてたみたいで」
「チャリだったからまだいいけど、車だったらお前死んでんだぞ」
「ごめんなさい」
たつきクンとっても怒ってる。
こんな雨の中でぶつかりそうになったんだから、そりゃ当然か。
見ると、たつきクンの自転車はオジサンが乗るような古びたヤツだった。
前カゴと後ろカゴにはいっぱいになった買い物袋が乗ってる。
「たつきクンは……お買い物……?」
「ばーか、買い出しだよ。
急にコースのお客さんが入って、色々足りない物買いに行ってたんだ」
買い出しとか、お客さんとかいう言葉で、たつきクンが別の世界に生きてる人なんだなと感じた。
わたしなんて、お母さんのお使いに行くこともほとんどないのに。
「あ、急いでるトコごめんね。
わたしなら大丈夫だから」
言いながら慌てて立ち上がる。
水溜まりにはまってたらしく、スカートも靴も全部がぐっしょり濡れていた。
たつきクンがわたしの姿を見てちょっとびっくりした顔をしてる。
「ぬ、濡れてたのも元々だし」
たつきクンははあと大きなため息を吐いた。
「ホントに大丈夫か?
ケガとかはねえ?
後になってから、ここケガしてたとかいわれても知らねえぞ?」
「ホントに大丈夫。
さ、行って行って」
「ああ。
ケガないんだったらちょっと急いでくれるか?
つっても、店もうすぐそこだけどさ」
「え?
お店って、たつきクンのおうち?」
「ほら、早く来いよ。
傘ぐらい貸してやるよ」
「え、いいよ、大丈夫」
「オレが大丈夫じゃないんだよ」
「え」
「んと……
自転車で人はねかけて、そのまま行っちまったなんてウワサが広がりでもしたら、店に迷惑かけるからな」
「ああ、うん」
見た感じ、周りには人は一人もいなさそうだけど。
そこまで言ってくれるのなら、断るのもかえって申し訳ないような気もしたし、けっきょくわたしはたつきクンに付いて行くことにした。
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