レイニーデイ
「あめあめふれふれかあさんが──」
できるだけ楽しげに歌おう。
雨降りの日はなんだか、心まで雨降りになってしまいそうだから。
マヨネーズ断ちをして、はや一週間。
……ううん、はや、じゃないね。
マヨネーズをガマンして過ごす日々の、一日一日の長いこと。
鏡で見るわたしは、少し頬の丸みが減ってキューピーちゃんから遠ざかった気がする。
マヨネーズがなくてもご飯は美味しい。
元々食べることが大好きなわたしは、どんな状態の時でも食欲がなくなることはない。
だけど、マヨネーズがある時の〝あともう一口〟が、なくなっていた。
実はわたしは図書委員。
この日は先輩委員の急な思い付きで、図書室の本の配置変えをやらされた。
お家に帰っても特に予定はなかったから別にいいんだけど、空模様があやしくなってきたのがちょっと気掛かり。
傘を持ってきてなかった。
朝の天気予報では雨は降らないと言ってたから。
雨が降り出しちゃう前に終わらせようと張り切ったんだけど、けっきょく図書室を出る頃にはポツポツと降りはじめていた。
学校で貸してくれる置き傘もあるんだけど、家の遠い人たちに譲ってたら、けっきょくわたしの分が残らなかった。
まあウチは近いんだし、少々濡れるぐらいはいっか。
そう思って歩き出したんだけど、雨はみるみる強くなってった。
ポツポツ
パラパラ
サーサー
ザーザー
これ、ゲリラ豪雨ってやつだね。
あっという間に髪も制服もべしゃべしゃになっちゃった。
口も開けてられないから、あめあめふれふれーってのも歌えない。
ここ数日は少し涼しくはなってきてたけど、まだ寒いってほどじゃない。
思いっきり濡れて帰るのもたまになら面白い、かも。
だけど、おでこを伝って流れ落ちる水が、目の端っこに入ってくるのが、なんだか泣いてるみたいでイヤだな。
目に水が入らないように目を伏せて、うつむき加減で歩くことにした。
小さな交差点だった。
道路を渡ろうとしたわたしの目の間に飛び出してきた黒い影。
「きゃっ!!」
それは前を横切った自転車だった。
そうと気付いた時には、わたしは転んで尻もちをついてた。
目の端っこに見える信号は赤。
わたし、うつむいて歩いてて信号見てなかったんだ……。
「ごめんなさい」
「大丈夫か!?」
「え!?」
自転車を止めて駆け寄って来る人を見てわたしは驚いた。
「……高山リカ?」
「たつきクン……?」
傘を差し掛けて、心配げにわたしを覗き込むのはたつきクンだった。
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