流れ星とひみつの散歩
初投稿作品です。お手柔らかにお願いします。
12月になった。
寒さで耳や鼻をまっかにして、白い息をはきながら学校へむかうタカヤは、今朝のニュースを思い出していた。
『今夜はよく晴れて、ふたご座流星群が観測できそうです。』
タカヤのお気にいりのお天気おねえさんが、にこにこ笑ってそういっていた。
去年も、その前も、次の日は学校があるし、まだ妹が小さいから夜にでかけることはできないとおかあさんに言われ、くやしい思いをした。
今年はいけるかなと期待しておかあさんに聞いてみたけれど、きのうから妹がカゼで熱を出しているからダメといわれた。
それならばとおとうさんに聞いたら、今日は会社の忘年会があるからごめんな、といわれた。
おかあさんもおとうさんも、ひどい。2年まえからずっといっていたのに、ちっとも連れていってくれない。
こうなったら、じぶんでなんとかするしかない。
「今年こそは、なんとしても、流星群を見にいくんだ。」
タカヤは、ひそかに決意した。
その日の夜。
タカヤはこども部屋の窓からこっそりぬけだした。オヤツとレジャーシートを入れたリュックを背負い、右手に懐中電灯を持って、音をたてないようにそぉっと。
ベッドには、タカヤのかわりにクマのぬいぐるみを寝かせてきた。ふとんを頭までかけてきたから、チラッとみただけではバレないだろう。
「たのんだぞ、クマスケ。」
幼稚園の頃からずっと一緒にねむっている、こげちゃいろのくまのぬいぐるみを思いうかべ、タカヤはひとりつぶやいた。
夜のまちは、風もないのにすごく寒い。コートとマフラーと毛糸のぼうしで寒さ対策はバッチリだと思ったけれど、てぶくろもあったほうがよかったかなぁと、ちょっぴり後悔した。
でも、こんなことではくじけないぞ。僕はもう小学三年生なんだから、がんばるんだ。
タカヤはじぶんでじぶんをはげましながら、学校のうらにある小高い丘を目指した。
毎日学校へいくときに通る道だけれど、暗いからいつもと違う道みたいで、ちょっぴりこころぼそい。そして、街路樹の影がオバケみたいに見えてちょっぴり不気味だ。
不思議なもので、いちどオバケみたいだと思ってしまうと、もうそれはオバケにしか見えなくて。こわくて動けなくなる前に影からサッと目をそらすと、タカヤは思いっきり走った。
走って
走って
走って
いきが苦しくてもう走れなくなって立ち止まると、学校うらの丘の下に着いていた。
めざすはこの丘の頂上。
目的地まであと少しだ。
タカヤは懐中電灯をぎゅっとにぎりしめて気合を入れ直した。
「はぁ、…ついた。」
頂上についたときには、ちょっといきが上がっていた。呼吸をととのえながら、辺りを懐中電灯で照らしてみる。
ぽつぽつと樹木がうえてある見晴らしのよい丘の上は、ちょっとした広場のようになっている。登ってきたのとは反対側の端には柵があって、その少し手前にベンチがある。柵の先、ずっと下の方にはまちの灯が見える。
「レジャーシート、いらなかったな。」
だれに聞かせるでもなくつぶやいた声は、暗闇に吸い込まれるように消えていった。しゃべっていないとタカヤまで暗闇に吸い込まれてしまうんじゃないかと、急に不安に襲われた。
不安な気持ちを振りほどくように頭をふると、柵の方へ歩き出した。ベンチに座るとすごくつめたくて、おしりがヒヤッとした。そのつめたさにびっくりしておしりが少し浮いたけれど、しばらくするとそのつめたさにもなれた。
背中のリュックをひざにおろして、あめ玉をとりだして口にポイッと入れる。くたびれた心とからだにあめ玉のあまさがしみて、ちょっとこころぼそいのもおちついた。
『疲れたときは甘いものに限るわー』
っておかあさんがよくいうけれど、なるほどこういうことかと、タカヤは納得した。
口の中のあめ玉がぜんぶとけて気持ちがおちついたところで、タカヤは今日の目的を思い出した。
「そうだ、流星群。」
バッと空を見上げたちょうどそのとき、ななめ右側からこちらへひとつ、光が動いたのが見えた。
「っ?! 流れ星だ!」
初めて見る流れ星にタカヤは目を大きく開けて、思わず立ち上がった。目をこらしてじっとそちらを見ていると、ひとつ、またひとつと、流れ星が降ってきた。
「わぁあー、すごいや。きれいだなぁ。」
もっとよく見てみようと数歩前に出たところで、きらきら光る流れ星がひとつこちらに向かって降ってくるのに気づいた。
タカヤはびっくりしすぎて足が動かなかった。思わずぎゅっとめをつむったそのとき、タカヤのすぐそばでドサっと音がした。
おそるおそる目を開けて見ていくと、まぶしい光が目にはいってきた。灯りはタカヤの持っている懐中電灯しかなかったのに。まぶしさに顔をしかめながら光の正体をよく見てみると、そこには全身がキラキラ光る子どもが倒れていた。
ふんわりとした金色の髪の毛は、ちょっと眩しいくらいに光っていて、顔やからだはほわっと光をまとっている。
「いててててー。失敗失敗。ちょっとスピード出しすぎちゃったかなぁ。」
キラキラの子はそうつぶやきながらムクっと起きあがり、土で汚れたからだをはたいている。
「……だい、じょうぶ?」
タカヤはキラキラの子に恐る恐る声をかけた。すると、キラキラのまつげがいっぱいの大きな目で見つめてきたので、タカヤはちょっとドキドキした。
「見てた?わー、恥ずかしいなぁ。ぼく飛ぶの初めてだったから。」
へへへ、と頬をかいてはにかむキラキラの子は、とても可愛い笑顔でタカヤを見上げた。
「そこに座ってると汚れちゃうから、こっちにおいでよ。」
タカヤはキラキラの子に手を差しのべて立ち上でがるのを手伝うと、手を繋いだままベンチまで案内して二人で座った。
「ねぇ、君はどうやってここまできたの? まさか……落ちて、きたの?」
タカヤがそうたずねると、キラキラの子は「そうだよ。びっくりしたよねー。」と笑って返事をした。
じぶんは星の子どもなのだと、キラキラの子、ヒカリは言った。沢山のきょうだい達と一緒に空を飛んでいたが、コントロールミスで落ちてしまったらしい。
「月が天辺にのぼる頃には、みんなのところに帰らないといけないんだけどね。でもタカヤとまだおしゃべりしたいから、もう少しここにいる。」
ヒカリはタカヤの手をぎゅっとにぎりしめて、にっこり笑った。
それから二人でたくさんおしゃべりをした。タカヤの学校のことや、小さい妹のこと。ヒカリのきょうだい達や流れ星のこと。タカヤが何を話してもヒカリはにこにこ笑って聞いてくれるし、ヒカリの話もとても面白かった。
時間を忘れて、ふたりでたくさんたくさんおしゃべりをして。ふっと空を見上げると、月がもう少しで天辺にくるところだった。
「ぼく、そろそろ帰らなきゃ。ありがとう、タカヤ。とっても楽しかった。」
「僕も楽しかった。ヒカリとおしゃべりして、なかよしになれて、うれしかった。」
「ふふふ。じゃあ、なかよしのしるしに、空の散歩に連れてってあげる。」
ヒカリはタカヤの両手を取って立ち上がると、タカヤを引っぱって数歩進んでから止まった。
「いい?ぼくと一緒にジャンプしてね。」
そういうと、ヒカリはタカヤの手をぎゅっと掴んでぐぐっとかがんだ。タカヤもそれにあわせてぐぐぐっとかがんだ。
それから、いち、にの、さーん、で思いっきりジャンプした。
ふたりはまるでロケットのようにびゅんと空に飛び出した。ぐんぐんのぼっていく感覚に、タカヤは怖くてぎゅっと目を閉じた。
「タカヤ、目を開けてみて。」
そうヒカリにいわれて恐る恐る目を開けると、地面からずっと高いところで、二人手を繋いで空を飛んでいた。
「うわぁあ!すごいすごい!」
それはまるで、星の海に飛び込んだような景色だった。丘の上にいるときよりも星が近くて、ずっと下の方には町の明かりがキラキラと星のように輝いていた。
「ヒカリはこんな景色を見ていたんだね。」
タカヤは目をキラキラ輝かせてヒカリを見つめた。ヒカリは相変わらずキラキラ光りながら、とびきりきれいな笑顔をしていた。
「人が流れ星に向かって何かを願う時、願い事が光の粒になってぼくたちに届くんだ。やさしい願いであればキラキラとした澄んだ光が、意地悪な願いであればチクチクとしたにぶい光が届くんだよ。」
ほら、とヒカリが指差した先を見ると、小さな光の粒がゆっくりと空に登っていた。金色にキラキラ光るものと、暗い色でにぶく光るもの。
「キラキラが沢山のとき、ぼく達流れ星は長く光って飛んでいられるけれど、チクチクが沢山になったら、落っこちて地面に穴を開けてしまうんだ。そうなれば、もう、…飛べない。」
そう言って、ヒカリは苦しそうな、悲しそうな顔になった。そんなヒカリの顔をみると、タカヤの胸はぎゅっと苦しくなって、ヒカリにはいつも笑っていてほしいと思った。
「だから、やさしいお願いごとをしてね。」
やくそくだよ。と差し出された小指に、タカヤはじぶんの小指を絡めてうなづいた。
「うん、やくそくする。」
タカヤの返事を聞いて、ヒカリはとっても綺麗に笑った。
「それじゃあ、ぼく、帰るね。」
手をつないだまま地上に降りてくると、ヒカリはそう言った。タカヤはちょっとさみしくなって、ヒカリをぎゅっと抱きしめてサヨナラのあいさつをした。
「さよなら、ヒカリ。とっても楽しかったよ。」
「うん、ぼくも楽しかった。ありがとう、タカヤ。」
ヒカリは跳ねるように数歩離れると、ぐぐっとかがんでジャンプして空に帰っていった。
タカヤはヒカリの光が見えなくなるまで、ずっと空を見つめていた。ちょっぴり出ていた涙は、コートのそででそっと拭いた。
家に帰ったタカヤはもうクタクタで、着替えもせずにクマスケを抱きしめて眠った。
翌朝起こしに来たおかあさんにその格好を見られてしまったので、夜にこっそり出かけていたのがバレて、すごく怒られた。
でも、タカヤがおかあさん話したのは、一人で流星群を見に行ったことだけ。
ヒカリと過ごしたこの夜の不思議な出来事は、タカヤとヒカリふたりだけの秘密。
おしまい。