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本編 EP2.「デリヘルさんはパコれない。」

現世のゆるーいお話。

本編 EP2.「デリヘルさんはパコれない。」


ふぅ、食後の煙草とコーヒーは旨いね。

やぁ、邇摩さんじゃ。

今日のランチはいつも通りのカツ丼やち、

文句ある?有るなら地球滅ぼすでぇ?


宙に浮いた『ちきう』と書いた地球儀から出る紐に手を伸ばす。

何度も気分で滅ぼしてるが、バックアップ取ってるので

神界の本部から苦情が来るだけだ。


缶コーヒーの一本で許される事案だ。


さて、本日は人間に面白い奴が居たので、その話をしよか。

人間のオスは孤独やと金を払って温もりを買う連中も居る。

これはもう数千年変わらん性質やち。


んで、この業界に伝説とも言われる指名率を持つ女が居る。


名波 奈々(ななみ なな)(仮名)

年齢・・・・35歳。

独身かつ処女おとめ。この業界においては特異かつ異常な存在やち。


彼女は指名率もリピート率も驚異の好成績だが欠陥が有る。

業界内では伝説の超有名人だが、本人は全く解っていない。

顔に至っては典型的な眼鏡のモブ顔で無愛想で胸なんかも平らで寸胴、

ましてやトークが巧い訳でもなければ、夜の技術が高い訳でもない。

しかも彼女に同情する者こそあれど、僻み羨望する者は居ない。


器用貧乏で、何でもできるが

彼女がどう足掻いても「男と交わる機会」を破壊されるのだ。

ましてや、全く無関係の案件で不意に突然呼ばれては

常人なら苦悩して拒否する案件でも「器用」にこなしてしまう。

本人の絶対目標かつ目的を無視する方向で絶大な支持を得ている。

それは異常な数の奇妙な偶然からの『支持』である。


陰では口を揃えて言われておる程だ。


「無いわぁ。」と


では、本編どうぞ。



 ==============================================


13:00 K県のとある河川敷の草野球場。


「おい!どういう事だよ君ぃ!」

「すいません課長!予定してた鈴木さん急にお母さんが危篤になったみたいで。」

「もうこれで危篤10回目だよ!どんだけ体調悪いんだよ、日常生活どうしてんの?!」

「す、すみません、すぐに代役用意しますので。」

「そんな簡単に経験者くるわけないでしょ!」

「すみません!すみません!」

「あぁ~、負けたらあのイヤミな営業課にま~たネチネチ言われるんだよ。」

「今度こそは我々広報課の時代かと思ったのによ。」

「最悪、鈴木マジ最悪、ウチらがとばっちり受けるじゃん。」


とある大手の企業の草野球チームは殺伐としていた、『親睦会』名目の定期行事だ。

勝敗で社内のマウントが取れる為に、社員達、主に管理職は必死である。

それより重要なのは・・・


野球大好きの社長と会長が見に来ている。


これだけでも十分に胃薬フラグなのに追加で有望なバッターの鈴木が急にドタキャン。

広報課は未曾有の危機に直面していた。


(どうする・・・居ないのか?誰でも良い、取り敢えず誰か数合わせに呼ばないと。)


ん・・・・?

 

ブロック塀に無造作に張ってある広告に目が止まる。


『デリバリー専門 ぷにぷにくらぶ』

  

(いや、待て俺・・・早まるな、落ちちけ・・・誰でもとは・・・だが他に選択肢は)


すぐに数合わせの人材が来る、何でも屋なんて物は昔は有ったが今は稀有な存在だ。

知人に数件あたってはみたものの、誰も来れない状況、何より時間が無い。


(あぁ、もうこの際誰でも良い、頼む、来てくれ!!)


焦ったサラリーマンの男性は、一枚の広告に祈りを込めて番号にかける。


プルルル・・・・ガチャ


『お電話ありがとう御座います、ぷにぷにくらぶです。』

「急ぎなんだけど誰か来れますか?!」

『あぁ、少々おまちください。』


何か空気を読んだオペレーターの女性がナナに電話して話し掛ける。


「ナナちゃん、急なんだけど行ける?」

『行けます。(っしゃあ!パコりチャーンス到来!)』


親指をグッと立てたナナちゃんは戦闘モードに着替え、メイクと髪をチェックする。

送迎の車内で彼女は試合前のボクサーの様にイメージトレーニングを繰り返し

ハァハァと顔を赤らめて発情モードに入っていた。

苦節35年、ようやくパコれる。この日の為に徹底して学習して鍛錬を繰り返してきたのだ。

映像で学習し、男性のツボなども研究し、カーマスートラから48の技まで学んだ。

一人で悶々と。彼女には絶望的に相手が居ないのだから。


(念願の熱い棒と玉を、うひ、うひひひひひ・・・・)


余談だが、それ系のビデオの会社にも動画の会社にも面接不採用で不発に終わった。

誰とでもヤるという男の噂を聞いて接触するも不発、結婚詐欺にも速攻で逮捕されて不発。

なら同性ならイケると企むも不発、逆ナンを試みるも「宗教の勧誘ですか?」以外の返答無く不発。

送り狼を期待していたが、それすらも「すいません、ナナさんは無理です。」と笑顔で不発。

婚活アプリも出会い系アプリも全て不発で、結婚相談所の怪しい外国人にもNOと言われる。

悲しい事にヒモ男すら居ない、気付けば年も35になり焦りに焦っている。

20代の頃はせめてアフリカならと行ってみたものの相手にすらされなかった。

もう、オスなら何でもいいやと思い、大型犬を買ってみたが全く懐く様子が無い。

正直言って同僚の女の子が憎くてしょうがない。


『テメーらばっかパコりやがって』


そんな彼女だったが今回こそはと期待に胸を膨らませていた。

急いでヤりたいほどに客はビンビンでギンギンに違いない。


(今度こそ、今度こそはパコれる!)


だが、着いた先は草野球場だった。


(屋外で集団プレイか・・・?イケる、これはアツイ。)


「お待たせしました、ナナです!」

「よ・・良かった、間に合った!じゃあ急いでこれ着て!」


男性に投げ渡されたのは野球のユニフォームだった。


(コスチュームプレイか、アリだな。)


違う方向で想像を膨らませながら河川敷のトイレで一人ユニフォームに着替える。


「お待たせしました。」

「はい!じゃあコレ持って!」


今度はバットを渡される。


(ん?何に使うの?入れるの?)


「野球の経験は?」

「はぁ、ソフトならやってましたけど・・・」

「よし、じゃあお願いね!」

「えっ?」


(確かに棒と玉の遊びだが、コレジャナイ、これはちゃうねん。)


『4番、バッター鈴木君に代わりまして、バッター、デリヘル、デリヘル』


「頼むぞー、デリヘル!」

「行けー!デリヘル!」


(え?ちょ・・いやいやいやいや!聞いてないんですけど!?)


突然呼び出されてバッターボックスに立たされ、声援を送られている。

それ以前に、デリヘル連呼するのが腹が立ってしょうがない。

確かに自分はデリヘルでは有るんだが、一応はお客様では有るんだが


『Hが【homebase】と【homerun】のHじゃねーか」と

内心ツッコミを入れながら混乱している自分がいる。

半端に4大卒で高IQな自分が悲しい。

それ以前にHしたいという理由だけで入社したのに出来ない自分が居る。


「お前ら・・・」

「頼むぞー!デリヘル!」


「ふっざ・・・・」

「行けー!デリヘルー!」


「けんじゃ・・・・」

「かっ飛ばせー!デリヘルー!」


「ねぇー!!!!!!!」

「っしゃああああ!!!!!」


「ホームラン!!!」


ワァァァァァァ!!!!


腹の立つアナウンスと共に大歓声が沸き起こる。

意味の解らない感動で課長と会長と社長が涙を流している。


「最高の、最高のスイングじゃった・・・見事なデリヘルじゃあ。」

「あぁ、これで、これでマウント取られない、イヤミ言われない、有難うデリヘル。」

「感動した、うちの実業団にスカウトしたい、当社に来ないか?デリヘル君。」


(だから、デリヘルデリヘル言うなっての・・・デリヘルなんだけどさぁ)


「あのー、この後ホテルとかですか?」

「有難う、本当に有難う、これお礼ね。もう帰って良いよ。」

「えっ?!(いや、Hは?)」


帰りの送迎で渡された封筒の中の札束を見ながら悩む。

複雑な心境だ、目標が全く達成されていない。

だけどあんなに感謝されて自分を認めてくれる人には会えている。

いつもそうだ。


(今回も駄目だったよ、パコれなかったよ。)


試合後に燃え尽きたボクサーの様に真っ白に燃え尽きた。

送迎車の足元のシートに札束をパサッと落としながらナナちゃん(35)は真っ白に燃え尽きた。

真っ白にな。


 ==============================================


「プッ・・・・おか・・・おかえりなさい。」


ぷるぷるぷる・・・・


事務所に戻るや早々、オペの女子が笑いを堪えて顔をプルプルさせている。

毎回の事だが、ナナを直視出来ない。

結果は想像していたが一番Hしたくてやる気満々で就業している彼女に失礼なので

極力、目を合わせない様に努力している。

意外だが、此処はカタギで本職の入らない健全営業で通している。

ただでさえ風俗業に締め付けがきついので細心の注意を払って営業している。

法的な云々よりもスタッフの管理の方が大変だ。


顔バレが街での世間的な死に繋がるので各自遠くの街から出勤し、此処に在籍している。

この業界は大ぴらにやる業種でもないスキマ産業なので隠蔽が何より重視される。

彼女達の普段の日常をキープするのも事務所の腕に掛かっている。

その苦労が無いのもナナの特異な才能で、全く目立たないので顔バレが無い。

街を歩いていても驚愕のステルス性能で周囲に溶け込んで存在感が無い。

事務所の負担にならずに稼ぎ続ける彼女は割と大事に扱われている。

別事業で「何でも屋」でもやるかと提案が有ったが、ナナが大反対した過去も有る。

第一、彼女はHがしたいだけで此処にいるが


無駄に優秀で高スペックで万能なのだ。


逆に言えば、何故こんな業種に居るのかと疑いの目も時折向けられる。

潜入した調査員では?と疑いの目を向けられるが、それは大体不毛な疑いに終わる。

彼女が悲惨なくらいに男運が無いからだ。


呼ばれては複雑な顔で帰ってくる。

いつもの事だ。


「前半で上がる?後半もいける?」

「続行で。」


(今度こそは、今度こそは)


 ==============================================


数カ月後、何故か突然年下のアイドルの男性と彼女は結婚したらしい。


「次のニュースです、タレントの〇〇さんが一般女性と電撃入籍したとの情報です。」


縁結びの豊玉姫の神社に彼女は来ていた。

モニターで散々色々笑わせてくれた神々の褒美だったそうだ。

神は運命なんか弄ってない、ただ作り、ただ眺めてるだけ。

それでも真剣な願いと祈りなら聞くだけは聞いてやる。

叶うかどうかは本人の普段の在り方次第だ。


現世なんか本人の問題だからね。


『人間って面白いわ、嫌いだけど』


カツ丼片手に今日も女神はデスクで仕事する。




                                    Next Ep

無いわー。

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