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たうらす☆まっしゅ EP4.「剛腕事務、派手に砕け散る。」

魂の記憶。

=奇魂課=


カタカタカタカタ・・・・・


「フヒッ・・・フヒヒヒヒ・・・」


(誰も解るまいよ、気付くまいよ・・))


カタカタカタカタ・・・・


モニターに映る数字の羅列が眼鏡のグラスに反射して怪しく映る。

簡略化に簡略化を重ね、指定範囲内乱数で運命を構成し

ヒトの運命推測を安易に演算可能なシステム。


バイナリエディタ


普通にフリーウェアでニンゲンが落とせるアレだ。

アレで奇魂課の魂は演算され、ISOファイル化して管理される。

運命は一定の絞られたパターニングから乱数抽選されて演算される。


そう、文字通り『神のみぞ知る。』だ。


薄暗い部屋で女神は一人笑いながらキーを入力していく。


命、魂達が必死に生きる生き様も全ては掌の中。

そう思うと愉快で楽しくて仕方がない。

それを奴らが知らずに必死で生きる様を眺めるのが実に楽しい。


だが、1兆分の1のイレギュラーなんて事は

此処では結構起きるもので、彼女はその未来までは推測できない。

ただ、在るべき可能性は熟知している。


ただし、無い物に関しての対処法には疎かった。

それは全知全能の神でも推測していなかった事態である。

どんな一流のデバッガーでも見落としは有る。


魂とは深く解析していくと、根源に行きつく。

彼女は開けてはいけない箱を一つ開けてしまった。

その中には旧いモノ、皆が忘れていたモノ

そんなものが一つ、魂の根幹として在った。

神々は時折「魂の檻」という牢獄を作る。

中には何かが幽閉されて眠り、潜在している。


そう、我が国日本ではそれを『お手付き)』という。


「いや・・・嘘やろ、これ。」


崩壊地球再構成3周目ぶりくらいに驚いた。

冷静に確認しながら手を止めて魂を分析する。

女神が咥えていた棒キャンディーは床に落ち、砕けた。


 ==============================================


たうらす☆まっしゅ EP4.「剛腕事務、派手に砕け散る。」


その男は『バケモノ(MONSTER)』と呼ばれていた。

異常に再生能力が高く、異常に速く、異常に打たれ強かった。

だが、彼は力を振るう事無く、静かに余生を過ごしていた。

どれだけ虐げられても力振るう事無く。

ただ、耐えるのみ。

どれだけ蔑まれても憤慨する事無く。

ただ、耐えるのみ。

 

ただ、寡黙を貫き『全てを無言で呪っていた。』

疫病神、悪魔、鬼と言われようと何もする事無く。 


己より弱い羽虫には目も向ける事無く、拳も振るわない。

避けられているのだから、避ける。

それだけの簡単な事だ。


彼は完全に人間を捨てていた。

夢といえば『躯の山の頂で一服して笑う。』この程度だ。

機会が有れば死滅させたい程に人類を憎んでいた。


法と秩序が有るから、ただ何もしなかった。

それが無い世界なら躯の山を大量に築いていただろう。


すれ違う視界の人間全てを

『俺ならこの手法で〇秒以内に始末できる。』と

脳内で視界に有る人間を駆除していく。


『やろうと思えばいつでも殺れる』という思想が有ると

バケモノでも現代社会に溶け込んで人間様のフリは出来るものだ。

彼はそのカテゴリーに該当する。


サイコパスの上を行く狂人だ、人ですらない。

無害では有るがバケモノ以外の何物でもない。

その自覚がある故に、彼は何者にも干渉する事は無かった。


「死んで良いクズは、ブン殴る。」


降りかかる火の粉が有るなら、快く愛を持って殲滅する。

彼はそういう部類の人間であった。


憎悪する者は憎悪する者同士、同志となる事が有る。

これが俗にいう『悪友』という奴だ。

バカでクレイジーなガキが数人集まれば小さなグループが出来る。

彼はそのグループのリーダーとして君臨していた。


ギャングといえど何か世間様に迷惑を掛けるワケではない。

人間様の居ない場所で気の合うバカどもとバカをやるだけだ。

社会は理解力に実に乏しく、無害な人間を無駄に危険視する。

虐げられて、追い詰められて、行き場を失った群れを認めない。

そんな世界全てが憎かった、人間全てが憎かった。


愛も夢も希望も未来も無かった。


彼は降りかかる火の粉を払うだけだった。

バケモノの群れの中で生き、日々人間様のフリをして耐えるだけの生活。

この世界を地獄以外の何と呼ぶのか理解が出来なかった。


彼らにとってのバケモノとは周囲の世界全てだ。


理解もする気が無ければ、話し合いすら拒否する会話の成立しないバケモノだ。

自分が正しいと思っている人間達ほど狂っていた。

だから、そうならぬ様に自分達だけは正しく綺麗事だけで生きていた。

荒れていると思われていたが、真逆だ。極度に冷静に世界を見ていた。


そうしていつからか大人になった彼らは散り散りにそれぞれの道を歩く。


同じバケモノを救う為に警官になった奴も居れば

同じバケモノを人間様にする為に教師になった奴も居れば

バケモノの逃げ場所を作る為に市役所に努めた奴も居る。


そして彼は何故か大嫌いな人間様を救う医療事務に居た。

誰か助かる度に反吐が出る、少しでも多く逝けば良いのに。


何より耐え難いのは「礼を言われる事だ。」


金さえ払ってさっさと帰ればいいものの

苦痛から解放されると掌を返したように礼を言う。

本当に虫唾が走る。毎日殺意以外の何の感情も沸かない。

死を楽しむ為に入ったというのに運命はそれを許さない。

 

葬儀屋にでもなった方がまだ楽しめただろう。


だが、血が見たかった彼はその場所を選んだ。

人間様の血を見ると、「あぁ、こいつも生きているのか」と感慨深くなる。

苦痛に歪む顔を眺めるのも実に良い、心が癒される。

自分の手でミンチに出来ないのが残念でならない。法がそれを許さないのだから。

それ以外の者は自動稼働するNPC程度でしか認識できない。


彼は徹底して「敵(ENEMY)」だった。

それ以外の何物でもない。

信じる者は自分と現金のみ、起つ物は中指のみだった。


瞳は常に憎悪と呪いを含め、演じる笑顔はバケモノの笑み。

この世界に守られて生きている事を感謝して生きると良い。

我々は死と絶望の蔓延しか望んでいないのだから。


日々、死んで良いクズを待つ日々

死ぬ時は戦って死にたかった、だがこの国は平和過ぎる。

我々の望む死の蔓延には実に程遠い。


故に世界の厄災と災害を楽しみ、死を楽しむ。

この仕事に就いてから彼は学習する。


『何もしなくても人間様はポンポン死ぬ。』


彼は面白くなかった、その神の定義が。

だから逆らう事にした。


救うのでは無い、神の仕事を捻じ曲げるのだ。

この思想は我々バケモノでも楽しく仕事が出来る。

定義・運命に逆らい、本来の結果とは別物に変える。

奴らへの嫌がらせだ、実に滑稽じゃないか。


全速力で対応し、人間様のリスクを極限まで軽減させてみた。

礼は言われるが、それよりも奴らの思惑が外れた事が大きい。


そうして結果を捻じ曲げて楽しんでいる内に事が起こった。


少女達を使い、アダルト動画とウリと薬で稼いでいるクズどもの噂を聞く。

彼は実に心が躍った。


「あぁ、やっと闘れる。」


この醜い世界には理由が無い、だから理由さえあれば我々は楽しめるわけだ。

素晴らしいじゃないか、苦痛と悲鳴と嗚咽のハーモニー。


そして彼の耳に「妹が拉致られてる。」と福音の如く素晴らしい単語が耳に入る。

さて、パーティーの時間だ、遅れては先方に失礼だろう。

友人に「ワシ、パーティーいかなあかんね~ん♪」と場所を探る。


「一応言っておくけどよ、応援来るから殺るなよ?」

「まぁ、鈍ってるだろうし大丈夫だろ、肉片ぐらいは残しといてやるよ。」

「おい!おま・・・」


ツーツー・・・


久々の暴虐のパーティーだ、バケモノ同士存分に殺し合おうじゃないか?

歯を砕き、顎を砕き、指を折り、腕を折り、足を折り、膀胱を踏み砕いて破裂させて

鼻を引き千切り、耳を引き千切り、目玉をえぐり取って食わせてやろう。


生かしたままな。


きっと楽しいぞ~?


スキップでバケモノは単車にまたがり、アジトへ向かう。


道中でふと思う。


『素晴らしい、これは神に感謝しなくてはならないな。』


距離で10km少しの山間に有る塗装会社に着く。

人気は全くない場所だ。


「ここが会場か。」


無造作に事務所の窓ガラスを一撃で蹴破って中に突入する。

中には少女が8名程と同類さんが10名程いらっしゃる。

床には使用済みの注射器や錠剤のケースが散乱していた。

スマホで見慣れた顔を確認したので連絡を入れる。


「よぉ佐島ぁ、無事っちゃあ無事だ。手足生えとるしな。ダルマにはされてねぇわ。」

「されてたまるかボケ!妹と代われよ!」


プツ・・・・


「つーわけだ、さっさ女返せや、プリン頭。」

「あぁ・・?誰だオッサン?」

「俺か?元、罵威尊バイソンの初代総長の田浦様じゃ。」


ゴキッゴギッ・・・


拳を鳴らす田浦は満面の笑みだ。

開口一番に背後から数十台の武装したバイカーが集まってくる。


ヴォンヴォンヴォンヴォン!!!!

ヴォーヴォーヴォヴォヴォヴォヴォン!!


「こんな要らんわ、阿呆が。呼び過ぎじゃ!」

「初代お久しぶりです!自分5代目総長張らせて頂いております!葉山と申します!」

「挨拶はえぇから、其処でパト入らん様に張っとけや!」

「押忍!!!!」


言うが早く、無言で金髪のプリン頭に盛大に鉄拳を打ち込む。

衝撃で下顎が砕けて、顎が外れて口が開いている。。

倒れた男の足の関節を踏み砕き、今度は腕にアームロックを掛けてそのままへし折る。

そして、股間から血が噴き出すまで踏み砕き、男は喋る気力もなく泡を吹いて痙攣していた。、

この動作を一瞬でこなす。


生ける伝説の戦いぶりに後輩達は歓喜する。


「す・・・スゲェ。」


背後からマチェットを持った男が入ってくるが、これを笑いながらかわし

安全靴で握っている腕ごと蹴り返す。落ちた刃を股間に押し当てミンチの様にねじ込んでいく。

男が激痛で絶叫するが、拳で全ての歯を砕き黙らせる。


「まず2匹。」


シュボッ・・・・フゥー


愛用のジッポで煙草に火をつけて片隅で怯える少女達に話し掛ける。


「お嬢ちゃん、ここもう無うなるから帰ってえぇよ?」


(解り易いバカだな、この女どもは。考える力が無い。)


そして田浦は外の舎弟に合図を出す。


「おう!ボサっと見とらんと早よ送ったれや!怖がっとるやないかい!」

「ウッス!」


(半分自業自得やけどな。)


佐島の妹と他7名の少女を救出し、舎弟に送らせて田浦は続きを楽しむ。


「オラァ!さっさ出てこいや!食い足りんわ!」


半グレグループの男達が10名程奥から武器を持って出てくる。


「何してくれてんのオッサン?死んじゃうよ?」

「少ないのぅ、オモんないわ。」


鼻をほじりながらタバコの火をプリン頭の舌に焼き付けてねじ消す。

男は声にならない悲鳴を上げながら絶叫する。


「おい兄ちゃん。もっと使える兵隊準備しちょけや、ゴミやでこれ。」


そう言うと、今度は手の指をへし折って笑って見せる。


ゴリュッ・・


「アアアァッァ!!!」」


虫の息になった男の足を掴み、集団を『ヒト』でブン殴っていく。


「アハハハハ!!おもろいやろ?あ、焼きプリン壊れてもうたか?」


ポイと放り投げて、床で呻いている別の男の股間を踏み砕いて足を掴む。


「次、これな、オラァァァァァ!!!!」


ゴキャァァァァ!!!


「ぐぁああああ!!!」

「い・・イカレてやがる、何なんだよコイツ!」」


物でも振回すかのように片手で人間を持ち上げて武器代わりにぶつけていく。

内部に在る骨の強度と衝撃に激痛で次々と倒れていく。

味方は殴れないのか、仲間を振回すバケモノに近寄る事も出来ない。


「おい・・・まさかコイツ・・・狂牛の田浦じゃ・・」

「はぁ?誰だよ知らねぇし。」

「じゃあ、覚えろや。」


バリケードで逃げていた青年に向けて片手で机を投げてドロップキックで飛ばす。

ポンポンと椅子を放り投げてはソバットで飛ばしていく。


「ゴハァ!!」


壁と机で挟まれた青年達が倒れ、顔面に安全靴の蹴りが入り歯が全て砕けていく。

そしてついでに両足を踏み砕く。

髪を掴んでゆっくりと持ち上げ、バケモノは笑う。


「お兄ちゃん、覚えた?」

「は・・・はひぃ」

「ちゃんと喋らんかいボケェ!お爺ちゃんかお前は!」


顔面を更に殴打して拳で鼻を砕き潰す。

青年の目には絶望しか無かった。

目前にはバケモノが居る、今までのワルとは格の違う暴力。

悪の最上位に等しい理不尽な暴力が其処に有った。


「ひぃ・・・ひいいいい。ほへんははい、ほへんははい。」」

「残り何処おんねん?食い足りんわ、ハッピーなパーテーじゃ。」

「ひ、ひひゃ、ひはひひはふ。」

「あー、多分地下やなぁ、あんがと・・・さん!!」


ゴシャ!!


「いやぁ、最高に楽しいなぁ、神様有難うさん。」


地下にはたった一人だけ残っており、其処には本職っぽいのが居た。

上の様子をカメラでチェックしていたらしく状況は理解している。


(あぁ、バックはこいつらか。つかバッジぐらい外せよ阿呆。)


「おい、オッサン。ようも人のシノギ滅茶苦茶にしてくれたのう?」

「いんや、この後ガサ入るからもっとヒデェ事になるぜ?パーマ?」

「上等じゃ、道連れにしたるわ!」

「見直したぜ!掛かって来いやぁ!」」


パスン・・・・


(ん~?チャカか、結構痛いな、痛み・・・久々だねぇ)


撃たれても臆する事無く、むしろ暴力を楽しむ。

ゴミを見下すように彼は不敵に笑う。


「死にさらせや!こんバカガキが!!」

「効くかボケェ!楽しくなってきたぜ!」


(あぁ、楽しい!最高だ!俺に向けられる殺意、敵意、この高揚!)


拳と蹴りを数十発撃ち込み、銃弾とドスを数十か所体に受ける。

文字通りの蜂の巣だが、互いに虫の息で意識が遠のきつつある。

パーマの男は頭の上部をむしり取られてサザ〇さんヘアになっている。


ゴリュッ・・・・


ヘッドロックからパンチの首をへし折った所で事切れた。


「・・・・ザマァ見ろ、クソ・・・が・・・・。」


彼は中指を立てたまま息を引き取った。

今までにない満足そうな顔で。


一つ害悪を破壊した代償は大きいが、彼は最後に満足して逝った。


  ==============================================


ジジジ・・・ジジッ・・・

蛍光灯が鳴る様な音に俺は目を覚ます。


「うーん。やっぱ解らん。」

「俺も解らん、主にこの状況が。」

「うぉ?!いきなり起きるのやめっち、驚くやないの。」


俺は起きて早々ベルトに縛られて手術台の上に居る。

目の前には緑髪にヘッドホン付けた姉ちゃんが一人、そんだけだ。

何というか雑居ビルの中みたいだが、助かったのだろうか?

デスクの上にはどんぶりが乱雑に重ねられ、

壁には炭で描かれたカツ丼の墨絵と無駄に達筆な筆でカツ丼命と書いた絵が

額に入れて飾られている。


この女は頭がおかしいから宇宙人に違いない。


「これアレか?キャトルなんちゃらか?スゲェな!」」

「あんな謎のハゲと一緒にすんなち、ウチはニマ、で、お前は田浦な。」」

「やっぱり俺のアンダーの毛は剃られたのか?」

「いやいや、盲腸手術じゃねーから。アンタどうもおかしいのよねぇ」

「頭が?」

「それもだけど、・・・って何でそんな冷静やのん?普通説明求めん?」

「そうか、要するに改造人間に。」

「いや、良いから話聞けっちメンドイなぁ、もう。」」

「スマンな、可愛い女子と話すの久々でな。」

「じゃ、手短に話すで。」


『死んだ、好きにしろ、以上。』


「手短過ぎる!」

「それとアンタに質問が有る。」

「何だ?」

「アンタさぁ、何か儀式やってない?例えば悪魔呼んだりとか。」

「そういや、ガキの頃やったな、供物が無いから鳥の胸肉使って。」

「あぁ、だからかぁ・・・アンタ、モテなかったっしょ?」

「非モテ銀河系代表は自負出来るぜ!」

「うわぁ・・・重症やねぇ、これはな『お手付き』やち。」

「何だそれは?」

「神や悪魔、妖怪から獣霊、悪霊のどれかから愛されててキープされちょる。」

「・・・・・は?」

「何も起きなかったし、何も出てこなかったべ?」


人生を思い返すと、物凄く思い当たる節が多過ぎる。

産まれてこの方、浮いた話の一つもなく人生を送り、そんな機会も妙な形で終わる。

おかしいのは自覚していたが、おれだけ幽霊からも怯えられ避けられていたし。

事故物件のボロアパートに住んでたけど、俺が来たら何も起きなかった。

疫病神、死神、悪魔と人間には恐れられて避けられていたし異常に勘が良かった。

大量死案件レベルの事故でも常に俺だけ無事で終わって周りは普通に死んだ。

俺の中の何かが全てを理解していて、俺にだけは常に『警告』が有ったからな。

それと、常人にあるはずの『恐怖』が徹底して欠如していたんだ。

その代わりに有ったのは『破壊・殺戮衝動』による『快楽』、故にバケモノ扱い。

誰に話しても信じないし、理解されない、そんな40年だった。


何より、俺だけこの世界に違和感と不自然さを感じながら生きていたんだよな。


「しかし面白い、実に希少な事例で驚いてる。面白い『魂』やち。」

「で?何が憑いてたか聞いても良いのか?」

「え、何?知りたいの?」


ニヤニヤしながらフヒヒと笑う。

一部の、ごく一部、数億分の一とも言えるブラックボックスを持つ魂。

この遭遇の瞬間に女神は心踊っていた。


「このまま混ざってても、面白かったんだけど?切り離しちゃう?」

「混ざる?切り離す?何を言って・・・・」


俺が知らない、俺の知っているモノ。バケモノの原因と正体。

半分知りたくもあり、半分は知りたくなかった。

いや、俺は自覚して認識はしていたが認めたくなかった。

こいつを認めてしまうと『何かが壊れて終わる』


「いやぁ、凄いよアンタ、人の身でありながら『共存』しちょったんだから。

常人なら壊れて意識と魂、存在ごと持ってかれて消滅してるはずやち。

クローリー君も関心レベルだろう、在り得んよ。さて、御対面だ。」

「待て!言うな!黙れ、おい!」


ノートPCからバイナリをドラッグすると

俺の周囲にドス黒いもやが立ち、俺の腹から何かが出てくるのが解る。

俺の知らないはずの俺の知っている存在が少しずつ姿を現していく。

これは確実に人智の外にあるもので、俺達人類が知覚するべきではない。

それが、この中身だと『警告』が頭の中で鳴り響く。


≪解放≫


ズズズズゾゾゾゾ・・・・


腹の内側から出てくる奇妙な感覚が急激に全身を襲っていく。


「おい!姉ちゃん!待て待て待て!!辞めろ!」

「フヒヒヒヒ!!箱の中身はなんちゃらぷー♪」


ポフン!


「ぺオちゃんですっ!イエイ☆」


気の抜ける音と共に現れたのはボロ布に巻かれた牛角の女性が一人。

テヘペロ横ピースでドヤァと爆誕する。


「んな?!・・・ななななな・・・・」

「だから、辞めろって言ったのに、ハァ。」


俺の意識を共有しているのか、俺の口を介して女性が話す。

俺の知っている、俺の知らないモノの正体がコレだ。


≪古神バアル=ペオル≫


現人類のほぼ全てに忘却され、知覚されず、崇拝もされずに姿を変貌させた旧女神だ。

豊穣神であり、人類の増殖と繁栄の為に定期的に古祭(乱交)を行っていたところ。

別の神の逆鱗に触れて、不浄と姦淫の悪魔として貶められた旧女神である。

ペオルも含めて、現人類の知覚する『悪魔』とは本来悪魔などではない。

力を持つ悪魔程、本来の名と正体とは『忘れられた異教の神々』である。


そして、この女神の現世での名は『ベルフェゴール』と呼ばれている。


「何やってんすか!ペオル先輩?!」

「あれ、トヨちゃん?久しぶり~。」

「な、ななななな・・・何万年仕事ほっぽってんすか!?」


思いっきり知人が出てきて女神は混乱していた。

ベルフェゴールとは悪魔において、人間の研究者であり「幸福な婚姻」の研究者だ。

もう貶められては人界に何度も降りて人間に紛れて可能性を研究し続けていたが

飽きて来たのか悪魔に化けるのも忘れて、割とタイプだった田浦に憑いて共生した。

儀式で偶然呼び出され、運命の出会いとして魂の根幹に憑依していた。


「ススムちゃん、初めまして~。」

「ういっす。」


豊満な胸の美女に抱き着かれるのは嬉しいが、自分に抱かれてる様で何の感覚も沸かない。

服装こそボロボロだが、ぽややんとして美しい部類の女神だ。

美しいのは良いが、自覚も知覚もしている。


『こいつが俺を現世社会で遮断させて生かした張本人』だと。


「こうして直で会うのも良いわねぇ、パコる?」

「自分と寝たかねぇな。」


普通の男なら大喜びのお誘いだろうが、こいつは『俺』だ。

もう何十年も気配だけで視覚化は出来ていないが共存してきた『相棒』でもある。

家族みたいなもんで、俺をこの世で一番理解している『俺の一部』だ。

見えないが内側から俺を守り、俺を愛した最愛の女だとは理解している。


「見つけた以上は仕事して貰いますからね、先輩。支部は・・・中東かな?」

「やだ、トヨちゃんこわーい。」。

「ハァ・・この結果は流石に想像できなかったわ、いや、したくなかった。」

「だろ?だから辞めろっつたのよ、俺は。」


田浦に限らず、人間は何かが付いていて何かに守られ、何かが混ざっている。

それは第二人格として特徴が出たり、不意に現れる事が有るがヒトは知覚出来ない。

ごくごく、簡単な理由だ。


『自分の内側に在るから』


「んじゃ、切り離すわね。」


チョキッ・・・


「あ。」

「えっ?」


あっさりと縁が切られて、ペオルは中東支部に転送されていった。

俺はポカーンと口を開けて呆然とする。

儀式から30年の歴史が一瞬でパーだ。


「と、いうわけで・・・この後のアンタの事だけど。」

「いや待て、勝手にヒトの嫁切り離しやがって」

「嫁ちゃうて、あんなん憑いてたら転生できねっての。」

「名残惜しすぎる。」

「でしょうね、まぁ長い付き合いだろうし。」

「あぁ~、あんな美人でおっぱいの大きい嫁さん欲しかったなぁ。」

「ふむ。」

「流石にもう一緒に暴れられねぇと思うと悔いが残るぜ。」

「ふむふむ。」


(しかし、カルマの高い事高い事、天界行きが妥当かねぇ・・・。

これで自覚無いから本当に面白い逸材だわ。)


何かにピンと来て、ニマは地球儀の様な球体を眺める。

そしてフヒヒと笑い始めた。


「ねぇ、一仕事しない?ものっそ楽しいお仕事なんだけど?」

「もう色々疲れたよ、好きにしろ。さっさと地獄にでも落としてくれ。」


俺は人間が心底嫌いだ、あんな世界に戻るのは御免だ。

なら、地獄で痛め付けられてた方が100倍マシだ。


灰皿を部屋に見つけて、借りて良いか聞く。

「どうぞ。」と言われ、ジッポで煙草に火を付けて二人で一服する。


「んで?何しろってんだ?」

「むふふぅ、それはねぇ・・・」


球体をポンポンと叩く。


「此処で好きに暴れて良いし、内容次第ではご褒美もあげるよ。」


(計算通りなら面白くなるはず・・・フヒッ、フヒヒヒヒヒ・・・)


確実に裏が有りそうなのは明白だが俺は乗る事にした。


そして俺は記憶全てを消され、御望み通りのヘルヘイム(地獄)へ

放り込まれる事になった、新しい生命として。





「夢を叶えなさいな、躯の山の頂で一服する夢を。」



ザザッ・・・・

ザーーーーー・・・・





                                    Next Ep

寒い、鍋が美味しい季節になりました。

おでんも美味しいです、要するに太る季節です。

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