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たうらす☆まっしゅ EP3.「狂乱侍女、主を煽り騙す。」

王女が仕事と称して彼ピッピのわんこ(人狼族)とニャンニャン(模擬戦)して

イチャついてる中、タウラス国では大きな変化が有った。


此処は神界、神々や天使、神獣や聖獣、天女が住む世界。

だけどちょっと違うのは・・・・どう見ても市役所って事。


天使も神も天女もスーツとパンツスタイルで電話対応しながらデスクワークしている。

科目ごとに部署が別れ、フロアにはプレートで科目表示され、みな其処で仕事をする。


ガシャ・・・


タイムカードを差して彼ら彼女らの一日が始まる、定時まで。


=奇魂課=

文字通り扱いにくい魂を扱う部署で、面倒な魂は全て此処の部署に押し付けられる。

今年から此処の部署に回されたのは女神である日本支部の海洋竜神の姫「豊玉姫」。

兎達を使役し、業務を黙々と処理している。

実際は黙々と言うよりも、モグモグと遂行している。


ヘッドホンで軽快なEUROBEAT音楽を聴きながら緑髪の緑のパンツスーツを着たOLが座っている。

常にダウナーで眠そうな顔をし、イカれた仕事量で半ギレ防止の為に

大好物のカツ丼を食べながら、大好きなEUROBEATを聞いている。

前任者はノイローゼでダウンし、長期休暇の絶対安静で休職している。


本名を明かすのを好まない性分か「Nima Isonade」と記されたプレートがデスクにある。

和名で『礒撫 邇摩いそなでにま』洋名では『ニーマ=アイソネーデ』と読む。

読んで名の如しの不愛想な女性で、人間があまり好きではない。

指には結婚指輪が有るが、放任主義で旅好きの為に夫と子を社に置いて好きに生きている。

放任主義ではあるが、夫にはベタ惚れで、スマホの壁紙には夫の写真が有り

偶に見ながら『フヒヒ』と笑う。

夫の火遠理のホオリノカミの事は『ほーりん』と呼んでいる。


昔、別居時代が有った頃、エジプトに滞在してた時代があり、セベクの育児休暇中の

代役として業務をこなし、腐れ縁で女神ハトホル、神獣バステトとも交流が深い。

ランスロットの妻である水精の女王ウンディーネとの付き合いも長く、旅仲間で

一緒に世界中の海を数千年旅した仲でもある。

ニマは陸ではワニになり、海ではサメや龍にもなる。

父の大綿津見神は海神ポセイドンとは飲み友達で仲が良い。

そんなエリート中のエリートの彼女だが、重大な欠陥が有る。


とんでもなくサボり癖が有って、飽き易くダウナーで集中力が無い。のである。

様々な部署を経験してはいるが、飽きては辞めて放浪の旅に出てしまう為に

別界の世界管理神を一つ任されついでに、面倒な魂の処理を押し付けられている。

数千年サボったツケだから仕方ないね。


スーツを着た兎の一人がお茶をくんで一礼してデスクに置く。


「あんがとさん。」


気怠そうに茶を受け取ると一気に飲み干して、デスクに湯飲みを置く。

曇った眼鏡を眼鏡拭きで拭き取り、早いBPMの曲に切り替えエンジンを掛ける。

超高速の動体視力で書類の内容を分析し、デスクのPC端末にデータベースを入力していく。

電子化した魂はISOファイルに変換圧縮し、CDRに変換して焼かれていく。

魂の一生分の履歴、記憶、経験、傾向などを簡略化して圧縮した一枚だ。

後でまとめて面談して対応する為に神々はこの方式を採っている。

理由は2つ、時間が無駄だし、定時に帰りたいからだ。

雑多に焼いたCDRは部屋中の棚に収められ、『応対日』に対応される。

今日は『転記日』で運ばれた魂を分析して圧縮する日だ。


(そういやぁ、面白い魂居たな・・・どれやったっけ?・・・・忘れた。)


魂の転記を人知を超えた速度で入力する女神の口元はニヤっと笑っていた。


(ほう、こいつもオモロイやんけ。)


口元には龍特有の鋭い牙が光っていた。

娯楽の少ないこの無機質な部屋の楽しみである、ハイライトシーンの様に

魂の記憶が鮮明に記録されていく。

これは後で『爆笑、オモシロ映像』の様にバラエティ番組方式で神の娯楽になる。

これもまた、ニマの仕事である。


鼻歌まじりにノリノリで女神はキーを打ち込んでいく・・・・。


(うーん、思い出せんなぁ、どっかで見た顔やち思たんやけど。)


定時になると彼女は気心の知れた友人達と人化して現世の居酒屋に飲みに行く。

それは彼女たちに限らず、ストレスの多い神々が人化しては地球内に遊びに来ている。

それは時にロンドンのパブであったり、日本の居酒屋であったり、スペインのバルだったり。

そして現世の自宅の端末からヘルヘイム(地獄)を渡り歩いて、遊ぶ。

彼女に気付く者は居ない。


 ==============================================


たうらす☆まっしゅ EP3.「狂乱侍女、主を煽り騙す。」


マリウス王女にどつき回されて気絶していたミリアスは自室のベッドの上に居た。

寝慣れたベッド、見慣れた天井・・・見慣れた・・・メイド?

王子の横にはメイドが顔を覗き込んでいた。


(痛ぇな、あのクソ姉貴、加減しろってんだよ。)


脇腹に鈍痛がし、手元サイドテーブルにある牛乳を飲む。

『優しき豊穣神の慈悲バストエリクサー』ミリアスのバフスキル、という名の自分の母乳だ。

不動のミリアスの称号もこうして永久回復しつつ鉄壁の防御をもつ故にある。

ただし、こうして女性相手にはボロクソに負けているのだが男相手ならこうはいかない。

 

「お目覚めですか?ミリアス様」

 

束ねた深紫の髪に黄金色に輝く瞳、出る所は出ている良いスタイルを

ヴィクトリア調メイド服が包む、メイド長であり元乳母のセルマンだ。

武闘派魔族で武骨なタウラス家唯一の華ともいえるミルタウラスメイドの纏め役かつ教育係。

ミリアスよりは年上で、生誕の際からの付き合いと言っても過言ではない。

種族は上級悪魔グレーターデーモンの雑種だ。

大昔、王妃に拾われて以来、マスタング家に絶対忠誠を誓い家事全般から

身辺警護までこなし、屋敷内の全ての業務を管理している。


『んっ・・・・』


唐突に侍女を抱き寄せて当然の様に侍女とキスをする。彼女も快く受け入れている。

ぼんやりと目覚める王子の柔らかい唇とセルマンの唇が重なる。

魔界中の女性に極端に避けられるミリアスだが、セルマンだけは彼を心酔し愛していた。

口内で舌を絡め合い、服の上からではあるが抱きしめた侍女の体温と口内の温もりを感じる。

服に手を掛けようとする王子の手を侍女はそっと制止する。

我が国の法令上、交わりは相互同意で入籍した者のみに許される。

魔界全体で貞操に異常に厳しくなったのは、とある事件が切っ掛けであり

その事件の産物の一つにセルマンが関係している。


「殿下、この先は・・・」

「解ってるよ・・・ハァ。」


深く王子は溜息をつく、我が国では法令により身分の違う者との交わりと婚姻は厳禁である。

故にミリアスはタウラス国を早く出て、自分の国を作り正室にセルマンを置きたかったが

何度誘っても彼女は王子を愛してはいるが、王妃様を裏切る事は出来ない。と首を横に振るばかり

キスと抱擁だけならと、人目を忍んでは密会してはいるが毎度の如くの生殺しだ。

王子もお年頃で、発情しては国外で側室候補を探し回ってはいるが毎度の御破談と拒否。

正直言って、この世界と国に嫌気がさし始めて来ている。


「セルマン、俺はどうすればいい?どうするべきなんだ?」


ベッドの上で傍らにセルマンを腕枕にし、掌を天井にかざして王子は呟く。

そんな悩める若き王子の横顔を笑顔で彼女は眺めていた。


「殿下のお好きになされば宜しいかと。」

「好きに・・・ねぇ。」


侍女は慎重に言葉を選んでいる。

幼少期より現在に至るまで彼を見続けているのだから、彼の考えは言わずとも読める。

だから、王子には自分の生きたい様に生きて欲しいと笑顔で見守っている。


「いっそ・・・国でも作っちまうか?」

「悪くありませんわね。」


そして顔を見合わせてハハハと笑う。


(汝、欲するなら己で動け、か。悪くないな。)


「しばらく預けるぞ、待ってろよ。絶対に迎えに来る。お前は俺のモノだ、セルマン。」

「えぇ、殿下。お待ちしております。」


言うが早いが、侍女を帰して身支度を整える。

母乳パッド付の牛柄のスポブラに牛柄のトランクスを履き、白いYシャツに黒のジーンズを履き

黒い軍靴の紐をきつく縛り、黒い軍帽とトゥーフロックを羽織って鏡を見る。

プロテクターはホワイトラミア社製の特級品で、白くて尋常ではない強度の軽い一枚鱗で製造され

腕部と脚部、胸部のダメージを最大限に防ぐ代物だ。何より綺麗な蛇女さんの脱皮した鱗だ。

それもあってか幅広い意味合いで各魔界の軍部からモテモテのホワイトラミア社であり

社長が美人で有名な軍事防具専門企業でもある。彼女にビジネスを教えたのはミリアスだ。


(っと得物(武器)も忘れてんな・・・)


ゴドン!!!


ベッドの下から白い超重量級の大斧を取り出しバックパックのホルスターにぶら下げる。

これがミリアスが考案した有事の際のタウラス軍の正装で、非常に機能的で動き易く

軽装ながら長期決戦にも耐えうる仕様で、何より糧食の大量携帯やツールも携行できる。


大きく胸元が開いたYシャツは胸が入りきらないミルタウルス種には愛用されており。

要塞内や都市部の民間人にも使用されている。

一般兵士たちに採用されているのは牛柄のカーキカモフラージュ仕様の軍服と軍帽で

タウラス軍は階級により、制服も異なっている。階級章のシステムも王子の考案だ。

王子が生まれて以来、タウラス国は軍事面、生活面でも大きく発展し、国は変貌を遂げた。 

普段はバカそうにしているが、国の発展と市民の生活水準の向上、国民からの熱烈な支持もある。

男性ミノタウロスからはアイドル的な支持があるが、変態なので女性ウケは正直良くない。

それを含めても国民からは愛すべきバカとして、国の重要魔族として扱われていた。


その彼が国を去った。

王国内からは灯りが一つ消えた、そんな雰囲気になったのは数日で。

細かい事を気にしないタウラス達はあっさり忘れた。


そして数日が経ち、マリウス率いる使節団一行がタウラス国に帰投する。

衛兵からミリアスが国を出たと聞き、姉のマリウスは目をパチパチしながら耳を疑った。


「ん・・?済まないがもう一度言ってくれるか?何かおかしな事が聞こえたんだ。」

「ミリアス様なら国出て行ったっすよー。」


(うん、いったん落ち着こうか。あの変態が野放しになって世界中で何するか判らない。

 それだけよ、大丈夫、何も心配ないわ。)


「って心配しか無いわボケェ!!」


鉄拳王女は帰国早々、兜を床に叩き付けて叫んだという。


ツカツカツカ・・・・


城内の回廊を急ぎ足で歩き、王女は『彼女』を探していた。


「セルマン!!セルマンは何処だ!」


(クソッ、奴が居ながら何故この様な状況に・・・国の恥が外に・・あぁ、悪夢だ、夢なら覚めて)


回廊を歩く王女は頭を抱えて困惑し、憤慨していた。


バーン!!


玉座の間の大門を拳で弾き飛ばし、王女は叫ぶ。

「セルマン!何処だ!状況を説明せよ!」


大魔王軍総大将のマスタング王は遠征中で、王の間には王妃ミルセスカと、傍らには『彼女』。

「あら、おかえりなさい、マリちゃん。ダメよぉ、ドアは丁寧に開けないと。」

「くっ・・失礼・・・、母上、マリウスただいま帰投致しました。」


王妃の御前につき、膝をついて一礼する。


「公務お疲れ様で御座います、マリウス王女殿下。」


侍女のセルマンが表情一つ変えずにそう話す。


(ふん・・・心にも無い事をいけしゃあしゃあと、女狐め・・。)


「して、我が愚弟の姿が見当たらないのですが・・・?」

「あぁ、あの子ならお外に遊びに行ったわよぉ~。何か『国を作る』とか言ってたわぁ~。」


(あんのバカ、何考えてんのよ!国ぃ?意味判んないんだけど?)


「王女殿下ご安心を、悪い虫が付かぬ様に細工はいつも通りに」


(いやいやいや、悪い虫付いてくれないと私が困るっつの、というか私が国から出れないのよ!)


困惑しながらも王女はふと、我に返る。


(え?・・・いつも通り?)


「我が【嫉妬深き冥府の女王ジェラシークイーン】が有る限りは何も起きませんわ。」


その性質は、一度口づけした相手に寄る全ての女性に寒気と恐怖と嫌悪感を与え

デバフ対象から逃走する最悪のスキルである。上級魔族が浮気防止に使うとか使わないとか。

ちなみにこの世界の地獄の女王ヘルも相当嫉妬深くて有名であり、加護と効力は跳ね上がる。


「あの、それって昔からやってたのか?」

「えぇ、私の可愛いミリアス様に触れる者等、万死に値しますもの。」

「だから、大丈夫よマリちゃん。」


(全然大丈夫じゃねぇ・・・って昔からあんなデバフ掛けられて生活してたのアイツ?!)


王女は流石にちょっとだけ同情した、確かに際限の無い色ボケの愚弟ではあるが

ナンパの度にゴミを見る様な目で見られて、話し掛けようとしただけで地面に唾を吐かれる。

そんな女子から全魔界一最低の扱いを受けても懲りずに側室探しをする王子も大概ではある。


その原因がこの女だった。


(まさか私の筋肉体質とか、アニキ呼ばわりもこいつのせいじゃ・・・)


考えたくもない可能性に背筋に寒気を覚える、昔からだ、昔からこの女は苦手だ。

絶対に敵に回してはいけない。


「ところで・・・マリウス様?」

「何だ?セルマン。」

「また、ミリアス様をお殴りになったそうで・・・・?」


冷笑するメイド長に冷や汗をかいて怯える王女が其処に居た。


ゴゴゴゴ・・・・・


「き・・気のせいであろう。」


笑顔の威圧に耐え切れずに王女は目を反らす。


(ヤバイ・・・殺られる。)


一つ溜息をして、一旦は鞘に納める。

何より王妃の御前で血祭りにするワケにもいかない。こんな筋肉でも一応は御息女なのだから。


「そういう事にしておきますわ。」


(た・・・助かった。母上居なかったら全治1か月コースだよ、母上様万歳だよ。)


武勇も優れたマリウス王女だが拷問官も暗殺者も務めるセルマン相手など考えたくもない。

ましてやミリアス居ないのに大怪我など負った日には致命的も良い所だ。


「では、失礼する。」

「後でお土産話聞かせてねぇ~、マリちゃん。」


笑顔で手を振る王妃に一礼し、玉座の間を後にする。

不安で一杯の内心を押し殺し、王女は自室へそそくさと退散していった。


(あぁ、婚期が遠のく。国の恥が世界中にバラ撒かれる。)


「アハハハハ・・・・胃が痛いや。」


鉄拳王女の悩みの種がまた一つ増えたという。


(それにしても・・・あんな女の何処が良いんだかね。)


セルマンの冷笑を思い出し、再び寒気を覚える。


今日のスープには何も入ってませんように、主に毒が。


そして、ミリアスのベッドの上には身分を示す国章と階級章が置かれていた。

彼はもう、この国を捨てたサインが其処には置かれていた。

愛しそうにベッドを撫でるセルマンだけは気付いていた。


「お待ちしてますわ、いつまでも・・・」


  ==============================================


一方その頃、王子ミリアスはホワイトラミア社を目指してニンフの住む森を進んでいた。

何か国家樹立のヒントになればと、賢者でもあり女王でもあるラミアに会いに行くのだ。

此処の森に棲むニンフ(木精)達は非常に性格が悪い事が有名で、逸話が幾つも有る。


≪男は金も精も絞られて干物同然で森を出る。≫だの

≪魔界の闇が其処に有る、決して入ってはいけない≫だの

≪それでも懲りずに森へと通う様になる≫だのと

怪談の如く、黒い逸話がある曰く付きの森がこの森なのである。

近道になるからと、入り込んだものの、此処にはミリアスも入ったことが無い。


「あの森には行っちゃダメよぉ、ミリちゃん。」

と、王妃にも制止されてはいるが理由までは聞かされていない。

森の深部に進んでいく内に灯りが見え始めた。


(この光は・・・・魔力灯か?)


魔力を属性ごとに違う色彩で発光する電球の様なものだ、派手好きな大魔王様のお気に入り。

何故にこんな辺鄙な森の中にその様な物が有るのか悩んだが、面白そうなので

王子は灯りを目指して歩みを進めていく。その先には物凄く見慣れた建物が視界に入った。


【クラブ=ドライアド】


(・・・って、キャバクラじゃねーか・・・・)


女好きの王子では有るが、例外もある。


『巻き髪の女には気を付けろ』だ。


自前に持ち出した資金源の純金や換金用の財宝なども持ち歩いているが

全くと言って良いほどに立ち寄る気にならない。10000%ぼったくられる。

この店はバカが入る所と魂が認識している。理由は判らないが危険信号以外の何も無い。

此処は巻き毛の巣窟に違いない、その直感を信じて見なかった事にする。


「きゃーーー!!お客様お辞めください!!」

「うるせぇ!クソボッタ女が!誰が払えるかこんなもん!5000ガルスポッキリだろが!」


ハイオークの青年がスケベ心出して入ったらボラれた、という状況だろう。

ボーイのウッドゴーレムに羽交い絞めにされながらもニンフの胸倉を掴みジタバタと喚いている。


(うわぁ、解り易いバカが居たよ、やっぱ巻き髪はヤバイな。自業自得だ。)


「誰かぁー!誰か助けてぇ!」

「こんな森に誰も来ねえよ!覚悟しろ性悪ニンフどもが!」


こちらに気付いたのか巻き髪のニンフがこちらをチラチラと見てくる。

関わりたくないので目を反らすが、指を三本立ててサインを出している。

遊び人なら解るが、これは奴ら巻き髪が『金払うから助けろ』のサインだ。

王子はもの凄く嫌そうな顔でふざけて両手で指を10本立てる。

それでもニンフは指を4本立てて返す、商魂逞しい事だ。

背を向けようとすると、慌てて両手で10のサインを出す。


(まぁ、貸しにしといてやるか・・)


「さっきからコソコソ何やってんだテメェは!」

「イヤァ!手籠めにされるぅ!」

「誰がするか!魔王軍に突き出して営業停止だバカヤロー!」


何かハイオークが可哀そうではあるが、嫌々ながら王子は仲裁に入る。


「おい、おとこが弱い女怒鳴りつけてんじゃねぇよ、タマ付いてんのか?」

「あぁ?!何だテメェは?宿でヒーヒー言わされてぇのか?」

「そんな粗末なモンじゃイケねぇよ、豚野郎。」

「上等だ!死にたいらしいなぁ!牛女風情が!」

「ゴタクは良いからさっさと掛かって来いよ、ポークビ〇ツが」

「んだとこらぁ!!」


喧嘩慣れしたストリートのガンの飛ばし合いの果てにハイオークが先行して拳を振るう。

巻き髪のニンフが『ひっ!』と殴られた衝撃波に驚き声を出す。

ミリアスは微動だにせずにゴミでも眺めるように見下して挑発する。


ぷにゅん。


「あぁん?」


ハイオークは困惑していた、認識の外にある異常な感触を今、自分の拳に感じている。


(何だ・・何だこの感触は?や・・・柔らかくて暖かいじゃねぇか・・・。)


傷一つ無く、微動だにせず腕組のまま仁王立ちでハイオークの重拳を正面から受け止める。

鼻でフンと笑う胸の大きな牛魔族の美人と呆然とするハイオーク、そしてニンフ。

三人の魔族の空気と時間は一瞬停止した。


「どうした?もう終わりか?」


楽しみながら品定めする様に見下すミリアスはウシシシと不敵に笑う。


(あれ?俺は何をやってるんだ?帰ってチビ達に土産でも買わないと。)


ハイオークは無言で背を向けて深い森の闇へと進んでいった。戻る素振りも無い。

その背中を見送ったのを確認すると巻き髪のニンフが安堵の息を漏らす。


「助かったよぉ、ありがとね牛のお姉さん。」


(お兄さんだけどな。)


「礼は良い、この森は知らんのでな、道案内をしてもらおうか。」

「そのぐらいならお安い御用だよ。それよりぃ、御礼も兼ねて中で一杯どう?」


指でクイッと飲むサインに苦笑しながらミリアスは断る。


「フッ・・・・誰が入るかよ。」


案内役のニンフを連れてミリアスは森を進み、再び蛇魔界のホワイトラミア本社を目指す。

旅はまだ始まったばかりだが、牛の王子はウエディングドレス姿のセルマンと横に立つ自分を

目指しているのだから希望は有れど、苦難と思う事は無い。

ただし、国を作るという事を除けばの話だが。


ジュー・・・ゴクゴク、プハァ

唐突に喉が渇いたミリアスは歩きながら自分の乳を搾って飲み始める。


「そ・・・それ自分で飲むの?!」

「何か問題でも?」

「い、いやぁ個人の自由だけど。」

「お前も飲むか?」

「いらないわよ!」


二人は森の更に先を進んでいく。


「ほれ、一本やるよ。」

「だからいらないっての!」




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俺、牛乳あんま好きじゃないんだよね。

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