98話:闇市で買い物です
私は成り行きでサザンクロスと和解して美味しいお菓子とお茶のお店を幾つも教えてもらった。
さらには呪文作りの依頼を一から受けることにもなっている。
どうやら研究家パーティの魔法を見て呪文作りに興味が出たらしい。
「褒められてまんざらでもなかったけど、私ってやっぱり危機感ないのかな?」
煙のように消えたいとか、影に潜りたいとか、皮一枚めくるような手軽さで変装したいとか。
だいぶ無理言われてるんだけど、両親は変装を魔法で補っていた節がある。
子供として親ができることをできませんとは言いたくない。
なので、まずはお試しで煙を出す魔法、影のように黒くなる魔法、髪の色を変える魔法を作ることにした。
一番安い素材でのお試しなのでこの辺りが限度だ。
そしてその素材を求めて私は闇市にまた来ていた。
「えっと、笊売りのスライムの核片は…………」
首を振って辺りを見渡す。
というのも顔を隠す布を頭から被っているせいで視界が狭い。
闇市に入るための建物にいる番人の人から渡された物だ。
アダルブレヒトさんから気にかけるよう言われたそうで、私の髪は目立つので隠せと忠告をしてくれた。
布もほつれがあって売り物にならないものなので、このまま持って帰っていいそうだ。
「あ、ここだ。これください」
「それは…………あんたか、ち。前と同じ値段でいい」
顔見て舌打ちされたぁ。
いや、被った布の間から見える髪の色で特定されたのかもしれない。
けどお蔭で吹っ掛けられもせずスライムの核片を買うことができる。
買ったスライムの核片を笊から持ってきた袋へ移し、私はここに来た目的を果たした。
けど闇市を見るため歩き出す。
ラグーンスライムを相手にするため使った杖は返したので、あの手の杖を参考までに見ておきたかった。
「デザインはともかくいいものだったし。できれば調べたいけど」
調べるには私が目で見ればいい。
ちょっと申し訳ないけど、私は顔を隠したまま杖などの魔法使いが使える武器のある店を回る。
前回は使ってすぐ返した後歓迎を受けていたため、見る暇がなかったんだ。
あの対人特化ってどうやるんだろう?
見ただけで全てはわからないけど、術式でも魔眼で見られれば再現のとっかかりになると思う。
「うわ、意外とあるな、武器」
見て回るとやっぱり闇市は物騒だった。
嘘か本当か一刺しで必殺の短剣、片腕に装着するだけで火炎放射を放てる籠手、自立して敵を襲う人形、殴るだけで呪いを付与する長杖。
魔眼で見る限り、誇大表現が多い。
けど中には本当に扱いが危なそうな物も混じっている。
言うとおりの効果はあるけど、同時に使用者の腕が吹っ飛びそうな物とか、たぶん商業ギルドを通したら売れない。
「あっぶなぁ…………」
こんな物が売ってあるとトリィたちが言っていた与太話に信憑性を感じる。
商業ギルドの会頭さんが破壊兵器を購入したとかいう、与太話に。
裏ルートの情報でサザンクロスがテーセに来たのは、その破壊兵器が魔女由来だったからだとか。
そして調べたら会頭さんと懇意にしてたクライスが浮上した。
さらに街ぐるみで使途不明金があるということで、狙いを定めて行動を起こしたそうだ。
「結果、私が襲われてなんの情報もないんだからすごい無駄骨」
やはり与太話だろう。
会頭さんが破壊兵器なんて手に入れて何に使うのか想像もできない。
必要性がなさすぎる。
「けど、本当に武器多すぎない? ダンジョン近いから?」
私は闇市をひと回りして、首を傾げた。
それでもお蔭で、新しい杖の構想が思い浮かんだ。
相手を特定しての効果を絞る方法は、例えばスライム限定で効果を発揮する武器なんかも作れる。
そうでなくても力の無駄な放射を抑えて、威力を上げることにも応用できるかも。
「特定モンスター特化は、あんがい需要があるかもしれない」
構想を頭の中で考えつつ、帰ろうとしたところで気になる声が聞こえた。
「本当に本物の冥府の恵みなんだろうな?」
「もちろん。見てくれが悪いせいで並ばないだけで、正真正銘あの薬草ですよ」
冥府の恵みという最近他人ごとではなくなった薬草の名前に足を止める。
見ると若い青年が真剣に吟味し、売ろうとする商人も真剣な顔をしていた。
けど、手に持ってる薬草は冥府の恵みに似ているけど違う物だ。
「薬屋なんかでの鑑定はお勧めしませんよ。今、薬屋は商業ギルドと組んで薬草の独占をしてるんで。持ってると知られれば無理やりにでも奪われてしまう」
「それはさせない。だが、本物ならこの値段は安過ぎはしないか。今、高騰しているはずだ」
「だからこそ、今の内に売りたいんです。普通なら見てくれ悪くて売れない、けど高騰だから今が売り時。ただ表に出すと売るどころか奪われる。だからここで普通の値段にここの場所代の色を乗せたこの価格でこれなんですよ」
聞くだけなら真面目な商売人っぽいけれど、どう見ても偽物なんだよな。
眼鏡ずらして見ても、うん、違う。
そして買おうとする青年に見覚えがあった。
「イーサン、やめておいたほうがいいよ、それ」
「あん? なんだお前?」
止めに入ると商売人のほうがすぐさま噛みついてくる。
イーサンは顔を隠した私が誰なのかすぐわからない様子で眉を顰めた。
少し布をずらして顔を見せると湖で出会ったことを思い出したようだ。
「君は、エイダ。どうしてこんな所に?」
「それはこっちの台詞だけど、それ、薬草だと思って買うならやめたほうがいい」
「おうおう! いちゃもんか!?」
商売人がすごんできて、さっきまでの真面目そうな様子はなくなる。
その騒ぎに周りは見て見ぬふりだ。
そういうところな上に、その商売人の護衛みたいな人が立ちあがってこっちを睨んできた。
「人の商売にケチつけるだけの覚悟があるんだろうな!?」
「ケチつけられて騒ぐだけなら邪魔だ。静かにしてろ」
乱暴な声が後ろから飛んだ。
振り返ると闇ギルドのまとめ役、イザークが渋い顔をして商売人を見据えている。
目が合うと、私のほうにも非難の目を向けられてしまったけど。
「余計なことは言うな、するな、手を出すなと言っていただろう」
「知った人だったから、つい。えっと、湖で会った虫嫌いの人でね」
この話は一度したことがある。
イザークが欲しがる試薬の発端だと匂わせると、溜め息を吐かれた。
そのあとは追い払うように手を振られる。
「買い物したならもう帰れ。ついでにその世間知らずと一緒にな」
「うん、ごめん。…………イーサン、行こう」
「し、しかし…………」
「あれ、冥府の恵みじゃないから。似てる、いや、あんまり似てない偽物だし、鮮度も悪い。本物持ってても扱う技術のない人だから普通に表で買ったほうが薬効は確実だよ」
「この野郎!?」
「余計なこと言うなと言ってるだろ」
商売人とイザークの両方に怒られた。
「ごめんなさーい!」
私は謝ってイーサンの手を掴むと、一目散に闇市の出入り口に向かう。
そのまま倉庫街からも離れて道の広い北門のほうへ歩いた。
「エイダ、その、手を…………」
イーサンに言われて、私はようやく掴んでいた手を放して足を止める。
「あ、ごめん。それに、買い物の邪魔してごめんなさい」
「いや、偽物という疑惑は捨てきれなかったんだ。けれど欲に負けそうになっていた」
悄然してしまうイーサンを改めて見ると、金髪碧眼の貴公子風の人物だ。
南の城砦は国のものと聞いたから、きっと周辺住民じゃなくいい家の人が務めてる。
乗り掛かった舟だし、誰かを思って薬草を求めたのは見てわかる。
私は元気づけたい一心で聞いてみた。
「お昼食べた? 一緒にどう? 近くに美味しいところあるんだ」
「いや…………」
断りの雰囲気に、私は言葉選びを間違ったらしいと落胆する。
けれどイーサンは少し考えて前言を翻した。
「ありがとう。ご一緒しても?」
「うん、それじゃこっち」
気を使わせてしまったようだ。
けれど私も気を取り直して、北門に向かう道から職人通りへと行先を変えた。
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