87話:寝込みを襲われました
闇ギルドでは、結局アダルブレヒトさんはイザーク伝いにお礼だけで直接話すことはなかった。
「直接会って君に悪評がつくのを避けてくれたんだよ」
「あとは子飼いを貼りつかせての試薬狙いだろう」
「ルールは守るべきで、罪とされたからにはあまりお付き合いをすべきではない方です。けれど呪いはやりすぎという声は今も根強くあります」
研究家パーティにそう説明され、私の試薬に対して商業ギルドのアンドレアさんが心配そうだった理由がようやくわかった。
そして会頭さんが何度も需要はあると繰り返していた理由も。
「結局ダンジョン行きの相談はできなかったな」
一人店に帰って私は、夕暮れに染まった窓の外を見る。
研究家パーティはオリガさんとソフィアさんが住む研究所にラグーンスライムを搬送するため別れた。
薬屋さんも手伝いで狩りだされている。
炊事のみならず掃除も苦手らしく、ラグーンスライムの巨体を運び込むため研究所にスペースを作るのが薬屋さんの役割だそうだ。
「確かに自炊って大変だよね。闇ギルドで包んでもらって良かった」
闇ギルドで振る舞われたごちそうの残りは私の晩御飯だ。
これも私を取り込むための手だとしたら、正直効く。
なんて思いながらも晩御飯が豪華になってほくほくしてるんだから、私は警戒心が足りなすぎるんだろう。
それでも言い訳させてもらえるなら、この街には美味しい物も珍しい物もあるから食事が楽しみになったのが大きい。
「あ、『自動書記ペン』のこと忘れてた」
店に戻って様子を見るとビューロの中からこちらを見てる。
恨みがましく感じるのは気のせいであってほしい。
「ごめん、明日すぐにダンジョンになっちゃったから、試薬の改良とかはその後で」
ペンは不服そうにコツコツと音を立てる。
けど急いだほうがいいと研究家パーティが言ってくれたんだ。
そして不機嫌かと思っていた『自動書記ペン』は、軽快に跳んでアイテム図鑑を開く。
「うん? このページの挿絵って、地底湖の冥府の恵みだよね?」
見たことがあるページだ。
そこを叩いてペンが何かを伝えようとする。
「…………あぁ! 何処へ行くか聞いてるの?」
ペンが頷くように前後に揺れた。
「なんだっけ? 鉱床地帯?」
そう言った途端、ペンが猛然とページを捲り出した。
開いたのは鉱石の載ったページ。
採取場所として鉱床地帯の名前がある。
「何? 水晶が欲しいの? なんの薬に? 違う?」
そんなやり取りの末、今の杖にさらに組み込む素材として推していることがわかった。
「完成形にさらに? 理論上できるはずだけど、触媒の杖にそこまでの余剰ある? 素材だって無限に組み合わせられるんじゃないんだから」
ペンは忙しなく跳びはねて魔術書を開くと、素材任せの呪文を叩く。
「もしかして何処まで素材任せか調べるの? 素材自体が欠損するか、余剰がなければ失敗して現状維持か。最悪杖自体使えなくなるけど?」
明日ダンジョンに行くと言っている現状を忘れた提案に非難を込めて確認すると、ペンも考えこむ様子を見せた。
「やりたいことはわかった。けど、それをするなら余剰をちゃんと残した状態で。私が見る限り、この三叉の杖はもういっぱいだよ。最初から失敗の可能性高いのにやるなんて無駄でしょ。杖はもう一本あるしあれ借りよう」
私の提案に『自動書記ペン』が跳ねる。
そしてまたアイテム図鑑へ戻って行った。
「…………で? 今度は何取って来いって?」
結局私は、クライスの残したアイテムと一緒にダンジョン行きの話し合いをすることになった。
そして夜。
寝ていると突然目が覚める。
「…………魔法が発動してる」
眼鏡をかけずに辺りを見回せば、呪文発動を報せる情報が頭の中に浮かんだ。
これはクライスが自衛でかけていたものだ。
「つまり、一階に泥棒?」
私は杖を握って耳を澄ます。
階下からは人の動く音。
何かと戦っている。
いや、押さえ込もうと床を転がってるような引き摺る音だ。
「何がなんて考えなくても、たぶん、あの骨だよね」
店の入り口の上に飾られている番犬ならぬ、番骨。
あれは就寝前に起動させることで、侵入者に反応して襲いかかる魔法だ。
それを押さえ込もうとしてる物音がするのなら、それは私に気づかないよう奮闘している誰かがいるということ。
「クライスだったら襲いかかるわけないし、うん? 妙な匂いが…………。あ、誘眠剤みたいなの撒かれてる」
自分の手を見て状態を把握すると、どうやら室内にまず薬を撒いてからの侵入であるらしい。
「嫌だなぁ。手慣れてる感が」
だからってクライスに預けられてる店を荒らされるわけにはいかない。
それに一階には魔術書もある。
私とクライス以外使えないとは言え、盗まれたら困るんだ。
「うーん、『自動書記ペン』には悪いけど、ビューロの鍵はちゃんと閉めるようにしよう」
私は音を立てないようにベッド代わりにしていたソファから起き上がる。
「一階の罠を発動させて捕まえきれなかったら二階に逃げて、階段上って来る相手に狙い撃ちで…………」
私は段取りを呟きながら、下の物音に紛れて小声で呪文を仕かけて行く。
どうやら泥棒に魔法使い系統はいないらしく気づかれた様子はない。
準備を終えて階段に足を乗せる。
一階が見渡せる所まで降りても相手は気づかなかった。
「この…………!」
「大人しくして!」
「…………面倒」
いるのは女性三人。
けど全員が覆面で顔を隠し、悪意ある侵入であることがわかる。
予想どおり骨の犬と格闘して床を転がってた。
縛っても骨をばらして縛られたところのみ残し再構築をする。
床に押さえつけても関節を外して立ちあがる。
危険な牙や爪を封じても骨自体が動いてこん棒のように殴打を見舞う。
「うわ…………、動いてるところ初めて見たけどすごい倒しにくいんだ」
思わず漏れた感想。
ダンジョンに入るようになったせいか、自然とどうすれば逃げられるか無力化できるかを考えてしまう。
さすがに声を出したことで、賊の三人が私に気づいた。
同時に私も気づく。
目があったことで、覆面程度では防げない魔眼が情報を読み取った。
「えぇ…………? トリィ?」
目のあった一人。
それは食堂で声をかけて来た偽吟遊詩人のお姉さんだった。
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