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83話:闇市に行きました

 イザークが店に来た用件は治験を持ちかけた薬について。

 結果的に会頭さんのほうが先手を打っている。


 だから薬を渡すことはできないんだけど、何故そんなにこの薬を欲しがるんだろう?

 あと、研究家パーティの三人もなんで乗り気?

 そのせいで私はイザークに案内されて今、闇ギルドの開く闇市に向かっていた。


「え、えー? あれ? 私、次のダンジョンのための真剣な打ち合わせをしていたはず…………」

「そんなに真剣な話ししてた?」

「まだ触りだな」

「あ、そうです。次に行くのは鉱床地帯と呼ばれるエリアです」


 困惑する私にオリガさんが首を傾げる。

 薬屋さんが本題に入ってさえいないというと、ここでソフィアさんが行先を教えてくれた。


 そんな私たちを振り返ってイザークが口角を下げる。


「お前ら、本当に余計なことは言うな、するな、手を出すな。いいな?」

「「「はーい」」」


 軽い返事にイザークは顔を歪めた。

 私も不安になる返事だと思う。


 ここはテーセの北西、聞くと倉庫街と呼ばれる辺りらしい。


「あまり治安のよろしくない場所で取り締まる先から鼠のように湧くのだよ」

「そこに闇ギルドと闇市がドーンと居座った感じだね」


 腐す薬屋さんにオリガさんが他人ごとな様子で説明する。

 ソフィアさんだけは困った顔でフォローをした。


「もちろん取り締まりはしていますが、悪漢のまとめ役と言いますか、即座に排除しては善良な人々が不利益を被ると言いますか」

「わかります。バラバラよりまとまってくれてるほうが警戒もしやすいし動きも把握しやすいって。ラスペンケル本家もそんなものだと両親が言ってました」


 今思うと、私とクライスを産む前に本家に対して嫌がらせ紛いの妨害工作してたからだろうな。

 知るまではクライスの安否確認のための方便だと思ってた。


 闇市に辿り着くまでの門番と話をつけていたイザークが振り返る。


「呪文屋からも碌な話は聞かなかったが、魔女の本家は身内からも嫌われてるのか?」

「碌な者じゃないってことしか聞いたことないし、私も会った感想は百害あって一利なしのすごい我儘な人たちってことかな」


 視界の端で薬屋さんが一つ確かに頷いているのが見えた。


「別の魔女系統から聞くとラスペンケルはましって聞くけどね。なんだっけ、国の決まりは表面上守って悪事をするからって」

「先生、それでは闇ギルドとあまり変わりないです」


 身もふたもないオリガさんにソフィアさんが指摘する。


「こっちだってメンツが大事だから荒事もイカサマも遠慮することはない。だが、魔女と同じっていうのは、違うと言いたいぞ」


 イザークもイメージが悪いのかそんなことを言う。


「そんなことより闇市だ。いったいいつまで待たせるのかね。君が大見栄を切って通行証と言っていたのはなんだったのかね? それとも実はそこまでの影響力もなくそれこそイカサマ的な手法でもって手に入れたパチものかな?」


 薬屋さんが急かすとイザークは嫌な顔をする上に、門番も表情を硬くした。


「ともかくお前は黙れ。もう一度言うぞ? 余計なことを言うな、するな、手を出すな」

「「「はーい」」」


 門番が明らかに渋い顔をして首を横に振る。

 それをイザークはなんとか説得するようだ。

 つまり出禁にされている研究家パーティを入れるのは、闇ギルドの一端を担うイザークでも難しいらしい。


 そんなイザークの頑張りで、私たちは狭い建物の中へとようやく入ることが許された。

 そこは細長い廊下で、先に一つ扉があるだけの場所。


「え、下りの階段?」


 扉の先にはいかず、突然イザークが消えた。

 よく見れば目立たない柱の裏の壁に階段が設けられている。


 イザークが下る後を追うと、地下通路に辿り着いた。

 通路の伸びる方向から、狭い建物の範囲をすぐに超える。

 そして登りの階段の先には目隠しのされた小部屋に通じていた。

 そこを出ると倉庫らしい広い空間に、予想以上の数の人々がいた。


「うわ、本当に市場だ」


 通路を作って露店が並び、売る者たちは商品を挟んで客と交渉に勤しんでいる。

 一見するとただの市場だけれど、売られている物がすでに怪しい。


「冥府の恵みが、もう…………?」


 しかも見るからに状態の悪いものを高額で売っている。

 ただそれはまだいい。


 薬屋さんが懸念したように偽物がすでに出ていることに私は驚いた。

 しかも一度見ただけの私でもわかる偽物が。


「イザーク、あれいいの?」

「基本的にここは売るも買うも自己責任。刃傷沙汰は止めるが騙されることも込みでの商売だ」


 商売というには厳しい言い方だ。


 と思ったら、イザークが私を振り返る。


「お前のその目もやめろ。知ってる奴は呪文屋の審美眼を知ってる。因縁つけられて追い出されるぞ」

「は、はい」

「離れるなよ」


 そう言って闇市に踏み込むイザーク。

 私はその後をついて歩く。


 闇市なんて来たことないし、あからさまに堅気じゃない人たちの視線にさらされ緊張してしまう。

 けど研究家パーティはまったく気にしていない。

 どころかオリガさんたちの姿に闇市がざわついた。


「「「「「げ!?」」」」」

「今、げって言われて…………」

「以前の行いの悪さだ」


 イザークがすごく嫌そうに答えた。

 そして言いつけを守って静かな研究家パーティを振り返る。


 私も倣って振り返ると、三人はそれぞれ無言で売り物を凝視していた。

 その姿を見て、商談していた客がそそくさと買うつもりでいた品を置いて去る。

 そちらに足を向けようとしていた者が方向を変える。


「「「「「営業妨害だ!」」」」」


 もちろん闇市の商人からは文句が叫ばれた。


「えー、何も言うなって言われたから言ってないのに」

「何もするなとも言われたからただ見ていただけなのだがね?」

「手を出すなとも言われましたので、良心の呵責を押さえ込んでいたのですが」


 もうそれだけで眺めていた商品が碌でもないと言い当てている。

 それにイザークの言うとおり、闇市の人たちは研究家パーティの以前の行いを覚えていた。

 だから三人が目をつけたものは偽物と言わずもがなで営業妨害扱いだ。


「おい! 若衆の!」


 一人がイザークに文句の矛先を向けた。

 けれどイザークも取り仕切る側だからか、弱みなんて見せず退かない。


「うるせぇ。客選びたいなら商業ギルドにいけ。そいつらは価値があると思えば金に糸目はつけねぇんだ。やられてばかりの自分の腕のなさを恥じろ」


 強気に言い返して睨みつけることまでする。

 その低い声には脅しの雰囲気がありありと含まれていた。

 これ以上煩くするなら力尽くで黙らせると言っているようなものだ。


 うーん、やっぱりそういう人なんだ。

 ここに来るまでに会頭さんに声かける暇与えてくれなかったし、話を聞いた研究家パーティも一緒になってここに連れて来られたし。

 もう少し警戒心持たないといけないんだろうけど、最初に美味しい物教えてくれた人の良さが印象付けられててなかなか。


「行くぞ。お前らは前見て歩け」

「「「…………」」」

「返事」

「「「はーい」」」


 イザークは研究家パーティに鋭く言いつけて闇市の中を歩いた。


隔日更新

次回:街でもスライムです

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