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8話:鑑定してみました

 包み焼きの人に教えられたとおりに歩いて行くと、見上げるほどに高い屋根のある通りに行き当たった。


「これが、アーケード街?」


 あ、文字の書かれた石がある。何なに?

 テーセが街として作られる際に商業ギルドに加盟する店が象徴的な場所にしようと、うんぬん。


「なるほどー」


 こういう最新の商業建築が別の大都市にあって、それを真似したということらしい。


 通りの左手には商店の入り口が並び、商店の入り口に面した歩道を広く取ってある。

 車道との間に建物に連なる柱を立てて屋根をかぶせ、天気が悪くても良すぎても買い物客は快適に歩けるようになっているそうだ。


「うん、山では絶対見ない建物」


 なんかよくわからないけどおしゃれな気がする。ザ・都会というか。

 ここに来るまでに聞いたテーセの評価は、田舎にしては都会、田舎にしては発展してるという枕詞がついたけど。

 お父さんとお母さんに手紙でこういうのがあるって書きたいな。

 あ、封筒もどうにかしないと。

 やっぱり店を任されるなら先達の知識の詰まった魔術書欲しい。


「けどその前にやることやらないとね。えっと、商業ギルドは…………」


 私はアーケード街をきょろきょろしながら歩く。

 並ぶお店は露店や市場とは比べ物にならないお上品さが入り口からにじみ出てる。


 ほぼ旅装のまま来ちゃったけど、もしかして私浮いてる?

 恥ずかしい。


「あ、あった。こ、こ…………?」


 また見たことない形の建物だ。

 入り口からは天上の高いホールが見えるし、その奥に綺麗な女の人たちが並ぶ受付がある。

 さらに奥には忙しく働く人が見えるし、正直入りづらい。


 それで一つの建物っぽいのに同じ建物の規格の左隣には天井の高い通路があった。

 奥にはなんか大きな螺旋階段が見えるぅ。


「で、さらに隣も同じ建物の建材で…………商業ギルド直営店?」


 何がどうなっているのやら。


「おや、その髪の色。エイダくんかな?」


 上から声をかけられて見上げれば、二階の窓に知った顔があった。


「あ、会頭さん」

「やぁやぁ、ちょっと待っておいで。すぐに人をやろう」


 会頭さんの言葉どおり、ほどなくきっちり髪をまとめた女性が螺旋階段のある通路から現れる。


「お待たせいたしました。わたくしギルド長秘書のアンドレアと申します。ギルド長がお待ちです。こちらへどうぞ」


 うわぁ、綺麗な人。

 なんか目がすごく光った気がするけどなんだろう?


 案内されて螺旋階段から二階へ行くと、なんか赤いじゅうたんの敷かれた階段ホールに出た。

 そして会頭さんが声をかけてくれた二階の部屋へ案内される。


「こっちから君の所へ行くべきだったが、すまないね。朝一の会議があったもので」

「いえ、よろしくお願いします」


 どうやらここは会頭さんの執務室らしい。

 書類の積まれた机の手前に応接用のイスとテーブルがあった。


 勧められて座ると、アンドレアさんが会頭さんに何やら耳うちしてる。

 えーと、なんか会頭さんの目も光った気がしたなぁ。


「エイダくん、そのポケットから出ているのは杖かね?」

「え? あ、持ってきちゃった」


 朝作った杖だ。

 『自動書記ペン』に驚いて適当に突っ込んだまま来てしまっていた。


「色々規約やら契約やらと話さなければいけないのだが、まぁ、商業ギルドに所属することで良いこともあると、一つ宣伝をさせてもらおう」

「宣伝ですか?」

「鑑定というものを知っているかね? 商業ギルドは新たに発明された物、開発された薬などを客観的に評価し、その価値を認めて世に送り出すこともするのだよ」

「はぁ」

「やってみるのが早いだろう。どうだね、その杖を鑑定させてみないか?」

「これですか? けど、これ今朝やっつけで作ってみただけで」

「やっつけ!?」


 うわ、びっくりした。

 アンドレアさんがいきなり大声出した。


「どう見てもこれはCランクの杖で…………!」

「待て待て、アン」

「あ、失礼しました」


 冷静そうだと思ったら案外熱い女性のようだ。

 うーん、だからこそがっかり情報はしっかり伝えておこう。


「杖自体はなんの変哲もないトネリコです。ただ素材としてアイシクルスライムの核片という珍しい物を使っているので、すごく思えるかもしれません。でも使った呪文には志向性も条件付けもしてないので、ひたすら素材の力量に頼っただけの物ですよ」

「ん、スライムの?」


 あれ? 会頭さんの顔が曇った。


 目が合うと取り繕われる。


「アイシクルスライムというのは聞いたことがないね」

「あ、たぶん住んでた山の固有種です。しかも冬にしか出てこないスノースライムの上位亜種なので、地元でも珍しかったです」

「ほう、そんなスライムがいるのかい? 変異の激しい魔物とは言え、国内のスライムは調べ尽したと思ったんだが」

「スライムを? えっと、硬いスライムって珍しいって聞きますし。アイシクルスライムはその名の通り氷のように硬いんです」


 私の説明にまたアンドレアさんが前のめりになった。


「そうなると、素材自体がSランクの可能性も?」

「ランクはよくわからないですけど、これ地元に来る商人相手に一番高い値がついてましたね」


 ここに来るまでの路銀が足りなくなったら売ろうと思ってたものだ。

 年一回会うかどうかのスライムなので、たぶん他でも珍しいんじゃないかなぁって。


 私の言葉でアンドレアさんの目に火が付いた。


「どうか、鑑定させてください!」

「え、あ、はい」

「では、失礼して!」


 アンドレアさんが服の内側から魔法陣の書かれた布を出す。

 真剣な表情で杖を魔法陣に置いて魔法を発動した。


 熱意に戸惑って会頭さん見ると謝るような目をされる。


「…………ふぅ、おっしゃるとおりのものでした。杖としての評価としてはCマイナス。氷属性に対する高位の補助機能を持っていますが、道具としての質がいまいち。なるほど、確かに杖に付随させるよりも、核片自体を加工して魔法触媒にするほうが効率的な道具だったでしょう」

「ですよね。トネリコの杖の包容力あってこその形でもありますから」


 私が同意すると、なんでかアンドレアさんは困ったような顔になった。


「推察するに、エイダさん。あなた、クライスくんよりも観察眼が優れているようですね」

「おや、クライスも鑑定の能力はないのに目がいいと悔しがっていたのに。エイダくんはそれを越えると?」

「ギルド長…………。えぇ、はい」


 アンドレアさんが責めるように会頭さんに頷く。


 観察眼っていうか、魔眼なんだけど。

 クライスが言ってないなら言わないほうがいいかな?


「こほん、ま、まぁ、ともかくエイダくんはやっつけでもCランクの道具を作れるほどの腕前だとわかったんだ。これは一つ君に仕事を任せる上での指標になる」


 会頭さんがアンドレアさんのじっとりとした視線を受けて話を逸らす。

 うーん、鑑定に対してアンドレアさんは自負するところがあるようだ。

 今後、鑑定をお願いする時があったら私は口を挟まないほうがいいだろう。

 今は『ラスペンケル呪文店』について話す会頭さんの声に耳を傾けよう。


 そしてそこから丁寧に、わかりやすく、長い話が始まった。


隔日更新

次回:お昼奢ってもらいました

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