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75話:大きな被害です

 私たちは衛兵によって追い出されるようにお風呂屋へ行くよう指示された。


「あんなに雑に水かけなくても…………」

「脱ぐのを待ってくれただけ我慢したほうかもしれませんよ」

「スライムって、慣れると可愛いんだけどね」


 女湯の脱衣所でそう言い合うのはワンダとオリガさん。

 もちろんトビアスとダニエルは男湯に行った。


 砦で雑にスライムのついた服に水をかけて洗われ、水を吸って重くなった服を抱えてここまで来たんだ。


「私、服は洗濯に出すけど。二人はどうするかな?」

「洗濯?」


 私は意味が分からずオリガさんにオウム返しに聞いた。

 するとワンダが脱衣所の一角を差して教えてくれる。


「ここは洗濯場もあるんです。あちらの休憩スペースにいらっしゃる洗濯担当の方にお願いするんですよ。そうするとお風呂に入っている間に洗濯をしてくれるんです」


 脱衣所より高くしてある板間に薄着の女性たちがたむろしてた。

 エリーに誘われてマッサージの時声をかけたのもあそこだ。

 どうやらここで働く女性たちらしい。


「ってことは料金かかるよね。スライムの汚れって擦ればとれるし。あ、でも泥が染みちゃってるか」

「いえ、そちらはお貸しした物なので教会で洗濯いたしますから」

「けど、重ね履きで借りた靴下とか酷い状態だし。ここでお願いしないにしても手伝うよ」

「そんな。今回のこともあるのにこれ以上エイダさんの手を煩わせるなんて」

「いや、私はクライスと違って生活に使える呪文のほうが多いから。厚手の服でも乾かせる呪文あるんだよ」


 そんなに手間じゃない。

 そう言おうとした途端、背後から肩を掴まれた。


「ちょいと! 今のほんとかい!?」

「うわぁ!?」

「はは、私が洗濯頼むって聞いてあっちから来てくれたみたいだね」

「それはともかく、あんた! なんとかって魔法使いの家の、呪文がどうとかって」

「あ、はい。『ラスペンケル呪文店』の者です」


 声をかけて来たのは、どうやらオリガさんの洗濯を請け負うつもりの女性。

 ただその人の勢いを見て、他の人たちも休憩スペースからこっちに来てる。


「それって慰杯を型押しで作れるようにしたっていう? 魔法使えない奴にでもできるんじゃなかったかい!」

「おや、それじゃここにもその洗濯物乾かす魔法設置してくれたらいいね! 定額なんだろ?」

「慰杯やってる親父さんに聞いたけど、設備とかで出した分の金、取り戻せる算段ついてるそうだよ」

「ちょっと! 生活に使えるって言ってなかったかい?」

「あ! 洗濯自体を済ませられる魔法ってのはあるんじゃないの!?」

「え、えぇ、えっと」


 うわぁ、どんどん来る。

 しかもそれなりに逞しい女性たちだから圧がすごい。


 さらには眼鏡外してたせいで、中に元冒険者らしき人まで混じってるのがわかる。

 そういう人は何処かしら回復の難しい傷病を負っているようだ。


「擦りは手でしないといけないですけど、すすぎと乾燥は魔法でできます。設備さえ作れるなら」

「「「「「よし!」」」」」

「すぐに上と交渉だ! あ、あんたらの脱いだのはこの籠に全部入れておきな! サービスだよ!」


 私の答えを聞くとすぐに動き出す女性たち。


「い、いいのかな?」

「私もでしょうか?」

「ここはお言葉に甘えよう」


 戸惑う私とワンダに、オリガさんは笑顔で籠に洗濯物を入れ始める。

 どうやらオリガさんは相当強かな女性らしい。


 そんなことがあった後、私たちは湯船に浸かって一息を吐く。


「あ、そう言えば君とは自己紹介がまだだったね」

「あ、そうですね。初めまして、私はエイダです。もしかして、クライスに呪文依頼してました?」


 研究家という言葉に覚えがあったので聞くと、オリガさんは曇った鼻眼鏡を拭いつつ頷く。


「そうそう。私はダンジョンを研究してるオリガ。薬屋のメンシェルは知ってるだろ? もう一人私の助手含めた三人でパーティを組んでるんだ」

「そう言えば最近、薬屋の方がダンジョンへ行っていないと聞いてますが、まさかずっと一人で?」


 ワンダが心配そうにオリガさんを見た。


 薬屋をやっているからパーティとしてダンジョンに入れば閉店して一目瞭然なんだそうだ。

 それが最近ないのにオリガさんはダンジョンへ入っていた。


「実は攻撃手段なくてクライスの呪文に頼り切りだったんだよ。けど使いきったし、調査は継続しなきゃいけないしで、逃げるために一人で入ってたんだ」

「そんな危険なこと」

「そう思うなら今度店に行くから呪文の籠め直し頼むよ」


 私の言葉を遮ると同時に、オリガさんは簡単にお願いして来た。

 命の危険と隣り合わせだったはずなのに、相当肝が据わっている人らしい。


「できる限りはやりますけど、まだ私には難しいこともあります」

「うん、その辺りのすり合わせのためにもね」

「わかりました」


 応じるとオリガさん私を眺める。

 それにワンダが気づいた様子で微笑んだ。


「全然違いますよね?」

「あぁ、全くだ。同じなのに違う。育った環境の大切さを痛感するね」


 あ、クライスのことか。

 やっぱりオリガさんにも失礼なこと言ってるんだろうな。


「よしよし、だったらエイダにちょっと甘えてみようか」

「はい?」

「逃げる途中で薬草が駄目になっただろう? あれ実は相当大切な薬草でね」


 驚いてワンダみると神妙な顔で頷く。


「群生地があそこしかないんだ。けど薬として常時必要としている人はいるし、その他の薬剤としても使える。需要は大きい」

「そんなところが、あの時? 逃げずに守ったほうが良かったかな?」

「いえ、あの時私たちには逃げる以外の手はありませんでした」

「ワンダの言うとおりだ。被害をいち早く伝えただけで十分だと言える」


 地底湖で飛び出したトビアスの行動の意味が分かった。

 自分よりも薬を求める人を思っての行動だったんだろう。


「それでだ、私はあの薬草が育つだろう候補地を幾つか知っている。けど本当に育ってるかは確かめてない。だから薬草を探す手伝いをしてくれないか?」

「私が? つまりダンジョンですよね? そんなに大切な薬草ならもっとオリガさんを守れる人を連れて行ったほうがいいんじゃないですか?」

「必要なのは君のその目さ。メンシェルも太鼓判を押したんだ。きっと役に立つ」


 それはつまり、オリガさんは薬屋が長い髪で隠した目の秘密を知ってる?

 私もはっきりとは知らないけど、魔眼を拒絶できたならきっと薬屋さんも魔眼を持ってる。


 気になるけどここで他人に聞くのはたぶん失礼だ。


「その薬草、遠目だったのではっきりとは。判別できるとは言えません」

「メンシェルがいくらか確保してるはずだから、お願いする時はその目で見てからになるね」

「エイダさん、私からもお願いします。あの薬草は冥府の恵みと呼ばれる希少な薬草なんです。難病の方はあの薬草から作られる薬が切れると…………」


 ワンダは胸の前に指を組んで言い募る。


 これは不安だとか言ってられないな。

 人命がかかっているらしい。


「うん、わかった。私にできることなら手伝わせてもらいます」

「よし、それもまた計画立てるためにも一度店にお邪魔するよ。やることできたしもう上がろう。エイダも上がったら別の商談が待ってる」


 オリガさんに言われて、脱衣所の女性たちの存在を思い出した。

 そしてお風呂から上がったらやはり話をと迫られることになる。


 けど依頼の途中ということで、思ったより早く解放された。


「砦へは詳しい報告をもう一度私がしておこう。君たちはギルドの依頼があるだろうからそっちの説明は任せた」


 そう言って私たちは北門前でオリガさんと別れたのだった。


隔日更新

次回:覚えてます

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