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67話:張り切りすぎました

 結局、私たちは三羽の火喰鳥をたおした。

 予定どおり首を刎ねた一羽だけをその場で解体。

 他二羽は最初にルイーゼが首から上を爆破したもの、もう一羽はサキアが盾で殴って首を折ったもの。

 魔眼で見る限り内臓に異常はないからそのまま縛って運ぶことになった。


 うん、せっかく用意した水の矢、使いどころなかったな。

 攻撃面だけなら連携と経験がすごくて私の入り込む隙がなかったんだ。


「おう、お疲れ」

「ロディ、待っててくれたんだ」


 通路を出るとロディが片手を上げた。


「お、すごいな。三羽分か。通路の向こう側で新手の火喰鳥が入って行ったって言うのは聞いてたけど。ちゃんと倒せたんだな」


 どうやらここを通らなくても通路の向こう側へ行けるらしい。

 そして衛兵たちは通路に分断されてても連絡を取れたようだ。


「怪我はちょっとしてるが、火鼠よりましみたいだな」

「そうだね、私は無傷だし。さすがにあれは強敵過ぎたと思うよ」

「で、エイダ。なんでそっちの三人はそんな暗い顔してんだ?」


 私の無事を確認したロディが、一言も発さない勇者パーティを指す。


 私の後ろにはサキア、ヘルマン、ルイーゼが俯きがちについて来てた。

 見るからに落ち込んでるせいでロディも気になるようだ。


「うん、えっと…………最初に立ててた予定が、上手くいかなくてね」

「初めて組む奴がいる時はそんなものだろ。気にしすぎることないって。こうして大きな怪我もない上に獲物もちゃんと取れてんだ」


 事実と慰めを口にするロディに、私は半端な笑みを浮かべるしかない。


 うん、そうじゃないんだよ。

 誤魔化したせいだけど、三人が落ち込んでる理由はそうじゃない。

 呪いなんだ。

 そして自覚した上で呪いに抗えない事実に対してだった。


「えっと、三人とも。ロディの言うとおり気に、しすぎないほうがいいと思うよ」

「そうだね…………」


 サキアが答えるけど暗い雰囲気は全く払拭されない。


 ロープで縛っての行動制限は、結局みんな前に出て意味がなかった。

 けど線を引いて初期位置が確認できたから、三人は愕然としてんだよね。

 誰を前にしてもみんなして前に行く結果とわかってるのに抗えない強制力に。


「あー、そう言えばあの反省しない三人組どうした?」


 ヘルマンが気を取り直すようにロディに聞く。


 そう言えばいない。

 通路を出た所にいるのはロディだけだ。

 三人組といた衛兵もいなくなってる。


「俺が交代した。倒したらそれでここの見張りもお役御免だしな」

「あら、優しいじゃない。ここも暑いものね」

「違うちがう」


 感心するルイーゼに、ロディはぶっきらぼうに否定した。


「呪いで騒いでうるさかったからってだけだ。下手したら他のモンスター呼び寄せてエイダたちの邪魔しそうだったからな」

「え、ごめん」

「いや、エイダが謝ることじゃねぇ。あいつらの反省のなさは俺たちも腹立ってたから。それに呪いの怖さもちょっとわかったし…………効くもんだな」


 ロディは私が呪いをかけてないと知ってるけど、呪われたと怯える相手を間近に見ている。

 一定の効果があることを認識したようだ。


 これで魔女はもっと厄介な呪いをかけて来るのだから、ロディの身の安全のためにもクライスについては本人の解決を待ってほしいな。


「意思が強いと効かないとも聞くけどね」

「そういうもんか。ま、ともかく戻ろうぜ。ここは暑い!」


 ロディは衛兵の笛を吹いてから私たちを先導し、砦まで一緒に戻った。


 そして解体してない火喰鳥は解体してくれる衛兵に預ける。

 私たちは火袋一つを持ってヴィクターさんが待つ、最初に話し合いをした部屋に向かった。


「おう、思ったより時間かかったな。そんなに元気だったか?」

「隊長、三羽やってますよ」

「へー、元気なこって」


 ロディにヴィクターさんは苦笑いで私たちを眺める。


「あと、クライスについてエイダから話が」

「行き先の宛て、くらいのものですけど」

「ほう」


 今度は前のめりになったヴィクターさんは、聞き終えると難しい顔をする。

 ただロディのように連れ戻すなんてことは言わないからちょっとほっとした。


「本当に本家に行ってるかどうか、ちょっと伝手頼って探るか。男が魔女の所にいれば目立つだろ。あっちが関わってるとなると、この街から引き離したクライスの判断も間違いじゃない」

「ラスペンケル本家知ってるんですか?」


 驚く私にヴィクターさんが肩を竦めてみせる。


「人によっちゃ、悪逆非道の代名詞だな」


 思わず私が頷くとルイーゼが困った顔をした。


「エイダ、何かフォローはないの?」

「え、えーと…………」

「悪逆非道にならないと、魔族の間で生き残れなかったという魔女の一族に会ったことはあるぜ」


 私の代わりにヴィクターさんがフォローしてくれた。

 それに対して今度はロディが驚く。


「隊長、魔女の知り合いなんていたんですか?」

「おう、秘密な。ばれたとなれば俺が痛い目を見る」

「魔女ってやっぱりそういう存在なんだな」

「会ったのが他害しないクライスや、親切なエイダで良かった」


 ヘルマンとサキアが頷き合ってるけど、私は一族であって魔女じゃないんだけどなぁ。


「ま、クライスの行先は伏せてくれ。勇者さん方もな」


 ヴィクターさんに念を押されてサキアたちは頷く。


「で、その火袋はこっちで回収してマールに回しておく。残り二つと火喰鳥の素材はお前さんらで相談してわけろ」


 ヴィクターさんに言われて、私たちは顔を見合わせる。


「火喰鳥の素材、どう使うか知ってる?」

「それを一番知ってそうなのがエイダだと思ったんだけど?」


 私の質問に苦笑するサキアに続いてルイーゼも肩を竦めた。


「私たち必要だった時に取ったから今は特に必要ないわよ」

「火喰鳥の素材は火属性強めたり、耐火性付与したりだな」


 ヘルマンのアドバイスに、ロディが私を見る。


「いらないなら冒険者ギルドに売っぱらってもいいけど、エイダは素材として使いどころあるはずだぞ。クライスが寒い所行くときに使ってたし」

「そうなんだ。耐火と防寒に使えるなら優良な素材ってことだよね」

「じゃあ、今回は素材は全てエイダで。僕たちは罰則だし、依頼内容は君の護衛だから」

「そんな、悪いよ」

「いや、今後も、その、お世話になると思うから、ね」


 サキアは濁すけど呪われた聖剣のことだとわかる。


 戦ってみた結果、呪いの範囲は三人で私は入っていない。

 そして呪いが発動してるかどうかを見分けられるのは今のところ私だけ。

 だから今後も聖剣の呪いを解決するには私の協力を必要としてた。


「そういうことなら」


 受け入れた私に、勇者パーティの三人はほっとした様子だ。


「なんだ、もう客掴んだか」

「クライスに比べて人当たりいいし、当たり前っすよ」


 ヴィクターさんとロディはどうやらただの呪文店の客だと思ったようだった。


隔日更新

次回:魔具店にて

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