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65話:呪いでした

 ロディと別れた私たちは、岩陰に隠れて通路の先を窺う。


 そこには苛立ちも露わに歩き回る目つきの悪い鳥型モンスターがいた。


「あれが火喰鳥…………。ほんとに首が青っぽいんだね」


 動きはなんだかニワトリに似てるけど、首が長く足の爪も大きい。

 というか鶏に比べれば倍以上大きいし、胴体部だけなら犬くらい?


 まぁ、可愛いもんじゃない。


「閉じ込めてるって話だったけど、思ったより元気そうだね」


 サキアは冷静に火喰鳥の状態を見るようだ。

 怪我してる様子もないし、落ち着きなく歩き回っている以外に不調はない。


「ここに閉じ込められてからは火を食べてないだろうけど、どれくらい貯えてるかだな」

「火袋の大きさにもよるのよね。だったらまず私が前に出て火に対処するわよ」


 慎重なヘルマンにルイーゼが気軽に申し出た。


「いやそこは盾の僕が防ぎながら様子見をするほうが定石じゃないかな」

「それで言うなら攻撃を担う俺が、火を噴くよう誘発して全部吐きださせるべきだろ」

「だったらやっぱり私が火を相殺したほうがいいじゃない」


 勇者パーティの言い合いに、私は手を上げて割って入る


「ちょっと、ここにきてそれはやめよう。三人とも落ち着いて」


 なんでみんな前に出たがるの?


 私はやる気すぎる勇者パーティを宥めて、当初の予定どおりを推奨する。


「砦で話し合ったとおり、ヘルマンを前にしてサキアがカバー。私とルイーゼは後衛で援護と指示」


 言うと三人は思い出したように言い合いをやめてくれた。


「すまない、エイダ。えっと、だったらまずはルイーゼ、耐火の魔法をかけてくれ」

「そうよね、わかったわ。サキアはカバーと一緒にトリモチ撒くのよね?」

「トリモチって?」


 私が聞くとヘルマンが教えてくれる。


「このダンジョンでとれるモチ草って素材を加工して作るモンスター用の罠だよ。動きを鈍らせることができるし、先制を取れる」


 今回はサキアは盾でヘルマンを守りつつ、魔法でトリモチを火喰鳥の向こうに仕掛けて逃げられないようにするそうだ。


 私は連携ができないから霧を発生させることに集中する。


「よし、行くよ!」


 サキアの号令で私たちは通路に躍り出た。

 反応して火喰鳥は羽根を広げると威嚇の声を上げる。


 瞬間に何か違和感を覚えた。


「火を噴く前に距離を詰める!」

「ちょ!?」


 いきなりヘルマンが突出する。

 けど驚いたのは私だけでサキアは遅れずカバーに入った。

 ルイーゼも私の先を行って火喰鳥の炎を打ち消そうとすでに動いている。


 今はともかく予定どおり霧を…………!


「《白の警告ブランヴァリ》!」


 私は天井から広がるように霧を発生させて、サキアたちを越えて火喰鳥に届くよう操る。

 けどその間にヘルマンは火喰鳥と接敵してしまい、まだ霧の効果なんか発揮されていないのに戦闘が始まってしまった。


 まだ全然霧で弱ってないのにサキアまで前にでてる!?


「せい!」


 サキアはヘルマンの攻撃の隙を補い、盾で火喰鳥の視界を塞ぐ。

 途端に苛立った火喰鳥が口から火炎を噴き出した。

 近すぎた二人をルイーゼも助けられない距離だ。


「当たるかよ!」

「この程度?」


 ヘルマンとサキアが避けると、火喰鳥の火はルイーゼに向かう。

 けどルイーゼは自身で発生させた火をぶつけて、余裕をもって相殺した。


 対処できるのはいいけど私の広げた霧が一部掻き消える。

 そしてぐんぐん攻めて行く三人と、私の距離が開いて行くばかりだ。


「これ、おかしいよね?」


 私は杖を握らないもう片方の手で眼鏡を取った。

 すると三人に私には変化があることが見て取れる。


「バフがかかってる? いつの間に? …………あの時!?」


 三人が前に出た時に感じた違和感。

 あれが三人の身体能力を格段に向上させる効果の現われた時の変化を捉えたものだとしたら…………だとしたらいったい誰がバフをかけたの?

 誰もそんな雰囲気なかったし、ここには私たち以外いないはずだ。


「悪い効果じゃない…………だけど。これはなんか…………」


 勇者パーティは連携が上手い。

 ヘルマンは攻撃を掻い潜りつつ逃がさないように立ち回り、サキアは危険な嘴や蹴爪を止めつつ攻撃を誘う。

 ルイーゼは雑に攻撃を回されても慌てず、同時に火に対処するので誰も怪我はない。


 ない、けど…………。

 霧で弱らせて首を狙うって話どうなったの!?


「あ!」


 そうこうしてる内に、サキアの盾に押されて無防備になった火喰鳥は、両翼を広げてバランスを取ろうとする。

 そこにヘルマンの斧が迫り、綺麗に関節から片翼を切り落とした。


「これで終わりよ!」


 その瞬間、狙いすましたルイーゼの魔法が火喰鳥の頭を吹き飛ばす。

 崩れ落ちる火喰鳥を見て、勇者パーティは息を吐いた。


 瞬間、眼鏡を外したままの私は聖剣が反応するのを見る。

 同時に持ち主であるサキアが指先すら聖剣に触れていないことも確認した。


「まさか…………」


 嫌な予感がしたけど、この場合どうすればいいの?

 いや、まずは何からすべきかを考えよう。

 火喰鳥の討伐は、問題はあるけど成功した。

 だったらまずは…………。


「火袋の位置を確認しなきゃ」


 私の声に振り返った三人は、驚いたような顔をしている。


「エイダそんなに下がってどうしたんだい?」

「まぁ、火が飛ぶと危ないからな」

「あと火喰鳥って顔怖いしね」


 思わぬ言葉に私は固まった。

 悪気はない、悪気どころか私を心配しての言葉とはわかるんだけど。


 けど、うん、これは駄目だ。


「ちょっと三人、こっちまで戻って」

「エイダ?」


 私の声の硬さにサキアが困ったように名前を呼ぶ。


「首飛ばさなかったからすぐに火袋取る必要はない。だから、まずは反省が必要だよ」

「あ、羽根傷めたからか? 悪い」


 ヘルマンが見当違いの謝罪をする。

 私が首を横に振るとルイーゼが言い訳するように言い募る。


「私が爆破したのは、あの時はあれが一番素早く倒せる手段だったからで」

「違うから」


 どう見ても自覚がない。

 良し悪しで言えばきっとこれは悪い。

 ここははっきり言うべきだ。


「君たち今、聖剣の呪いに動かされてたんだよ」

「…………え?」


 サキアがか細い声を漏らす。

 ヘルマンとルイーゼは目を瞠って声も出ないようだった。


隔日更新

次回:無自覚です

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