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63話:察しはつきます

 ロディに案内されて、私は勇者パーティとダンジョンの中へ入った。

 容器や薬といった道具は守りと援護を名乗り出たサキアとルイーゼが分担して運んでる。


 今は火喰鳥がいる場所へ向けて、じりじりと暑い洞窟の通路を歩いていた。


「エイダ、どうして火喰鳥をクライスが討伐することになったんだい?」


 手持無沙汰からか聞いてくるサキアにヘルマンも頷く。


「火袋なんて扱いの難しい物、何に使うんだ? 装備に使うなんて聞いたことないから、薬か?」

「それが、私も知らないんだ」


 ヴィクターさんに火喰鳥の討伐を聞かされてから、軽く依頼票を改めた。

 けれど火袋を使う依頼は特になし。


 ただ火鼠の毛皮も依頼票にはなかった。

 どうやら呪文作りに関係のない手伝いのような依頼は、依頼票を残していないようなのだ。


「あ、それな。クライス単体の依頼じゃないんだよ。とある装備を作るために何人もの職人に依頼してあってさ」


 どうやら事情を知っているらしいロディが歩きながら答えてくれる。


「素材手に入れても加工は別の職人で、さらに効果の引き出しはまた別。で、クライスが新たに呪文で付与とか、加工された素材同士をかけあわせてまた別の物作るとか」

「結局クライスが火袋で何するかわからないじゃない。ずいぶんあやふやね」


 ルイーゼが呆れたように言ってもロディは肩を竦めるだけ。


「俺は職人じゃないからな。それにずいぶん難しい行程を踏むってのは聞いてる。わかりにくいのはそのせいもあるんじゃないか?」

「つまり、今回の火袋は私が加工しなきゃいけないってわけじゃないんだね?」

「確か手に入れたら魔具屋のマールに回すって話だ。クライスに採集回されてるのは、マールが確実に火袋を見分けられるってことで指名したらしい」


 つまり間接的にマールさんが依頼した形なのか。

 初めて会った時から、たぶん何か依頼してるとは思ってたけど。


 確かにこの依頼は、ダンジョンにも入ったことのない私には難しすぎる。

 それにちょうど良く天井の低い通路に入ったからこそ今回火喰鳥討伐は容易になった。

 初めて会った時に言われても、達成の目途の立たなかった依頼だ。


「そんな大掛かりな依頼の一部を担っているのに、クライスは何処へ行ったんだろう?」

「それは俺が聞きたい」


 サキアの当たり前の質問に、ロディも大きく頷く。


「ひと月いないのよね? それってずいぶん行程に遅れが出てるんじゃないの?」

「運良くって言えばいいのか、このひと月は必要な素材の目途が立ってなかったんだよ」

「じゃあ、こうして必要な時にエイダがいたのは幸運だな」


 ルイーゼに答えたロディは、ヘルマンの前向きな答えに肩を竦めた。


「できればクライスがさっさと戻ってくるほうがいいんだけどな。何処行ってるかもわからないからこっちも打つ手がない。知ってれば俺が行って連れ戻すんだが」

「それはやめておいたほうがいいよ」


 私の忠告に、ロディが足を止める。


「まさか、クライス何処にいるのかわかるのか!? 知らないって言ってたよな!」

「うわ…………! えっと、クライスの出て行った状況見たら、推測は立つってだけで」

「その推測の俺たちは立たなかったんだよ! 何処行ってんだ!?」


 ロディが掴みかからんばかりに問い質す。


 これは…………行先言わずに出かけたクライスが正解かもしれない。


「落ち着いて。エイダが驚いてる。それに今のエイダの言い方だと、クライスはそうして君たちが関わるのを避けるために一人で出たんじゃないか?」

「そうだな。エイダもやめたほうがいいというような場所に、この勢いで追い駆けて来られたら逆に問題が増えそうだ」


 サキアが止め、ヘルマンがあえて指摘してロディの注意を引いてくれる。


「私も、ロディの安全を思えば、連れ戻すって言われると、何処へ行ったか言えないんだけど」

「なんでだよ…………」


 ロディが憮然としながらも、こっちに迫るのはやめてくれた。


「だって、命の危険があるし」

「「「「え!?」」」」

「クライスが行かないとまず標的にされるのは周りだから、ロディたち助けるためにも一人で行ったんだろうし」

「「「「は!?」」」」

「なんだか大変な仕事担ってたなら、確実に邪魔してくる相手を牽制するためにも言わないで行くと思うよ」

「待て、ちょっと待て。いったいクライスはどんな厄ネタ引っ掛けたんだよ?」


 命の危険までは想定してなかったロディが、今度は不安を交えて聞いて来た。


 これははっきり言ったほうがいっそ引いてくれるかな?

 依頼のこと気にかけてたし、難しくてわからないけどそれでもロディは気に留めてる。

 だったら邪魔される可能性を伝えれば、無茶はしないかもしれない。


「…………ラスペンケル本家。正真正銘、魔女の家だよ」

「それは…………実家に帰ったという話ではない、のかな?」


 サキアは危険性がわからない様子で首をかしげる。


「魔女って他人の不幸を喜ぶとか聞くけど、エイダを見る限りただの噂だと感じたんだけど?」


 ルイーゼは魔法使いとして噂くらいは知ってるらしい。

 けど実際に関わったことはないらしく楽観しているようだ。


「少なくとも、私がクライスと生き別れになったのは本家のせいだよ。両親はクライスの養子入りを断ったけど、すぐに生活が苦しくなるくらいの呪いかけられて。いくつか呪い返したんだけど、向こうは大人二人じゃ手に余るくらいの呪い送り込んで来てたから。最終的にクライスが自分から養子入り決めたんだ」

「おいおい、身内にそれかよ。しかも養子にしようって奴の親相手に?」


 ヘルマンがドン引きするけど、直接魔法を叩きこまないだけまだ脅しの範囲だ。


「手に入らないならいっそ壊して誰の手にも入らなくさせるくらいには性格悪いんだ」


 私は断言する。

 細々とした手紙のやりとりも、送ったり送られた手紙の大半は面白半分に潰されたし、クライスを装った嫌がらせをされた。


「正直、本家はおとぎ話に出て来る魔女がまだ可愛いレベルだよ。下手に権力持ってるからたちが悪いって両親も言ってた」


 両親は私が発ってから本家へ嫌がらせのようなことをするつもりだった。

 私が止めなかったのは、それくらいされてもいいことをしてると知ってるから。

 同時にどう考えても本家が加担してる汚職を潰すつもりらしいし、田舎育ちの私にはちょっとスケールが大きすぎる話だ。


「ただ実力はあるし、国の魔法関係牛耳ってるから本当に権力もあるし。両親はラスペンケルを名乗ったことで、本家に恨みを持つ相手に襲われたこともあるって聞いてる」


 だから私とクライスを産み育てるまでほぼ旅暮らしだったそうだ。

 そして定住したのも他に人間なんてほとんどいない山の高いところ。


「エイダ、あなた苦労して育ってたのね。私たちを招き入れて話聞いてくれたから、よほど優しい環境で育ったのかと」


 ルイーゼが何故かすごく優しい声でそんなことを言う。


「うーん、テーセに来たのも呪文作りを便利に使いたい近くの村の人に襲われかけたからなんだけど。…………クライスに比べれば優しい環境ではあるかも」

「え!? 大丈夫だったのか!?」

「お前それで一人暮し大丈夫か!?」


 ヘルマンとロディが同時に心配の声を上げた。


「大丈夫。指一本触れられてないし、返り討ちにしたし。あと、旅に出る時にその村にかけてた魔法全部剥がしてきたから」


 私の言葉に、ロディが息を飲む。


「もしかして、それって、このテーセでも、できたり?」

「うん、クライスがかけたものなら。けど、テーセでは良くしてもらってるからそんなことしないよ」


 ロディが押し黙るとサキアが頷いた。


「なるほど、衛兵隊長さんの言ったのはこういうことなんだね。エイダから見れば制裁として与えた恩恵を奪うのは正しい。けれどその村からすれば迷惑で被害でしかない。だから怨まれる」


 酒場での正しいことのやり方の話かな。


「よ、よくわからんが俺の手に余ることはわかった。エイダ、その話隊長にもしてくれるか?」


 落ち着いて考えたらしいロディは、それからまた案内に戻り前に進み始めた。


隔日更新

次回:反省がないので呪います

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