62話:砦で合流です
杖を作って翌日、私はクライスの耐火装備を着て砦へ向かった。
火鼠討伐の時に着ていた防具は全て駄目で、シドとエリーが回収していったからないんだよね。
髪は気休めだけど、冷感の魔法かけたバンダナを巻いてる。
もう巨大火鼠みたいなことにはならないと思いたい。
「お、来たなエイダ」
「ヴィクターさん、もう来てたんですね」
「違うちがう」
北門から入ると砦の入り口にある建物の高い窓からヴィクターさんが声をかけて来た。
来てるのは事実なのに何が違うんだろう?
すると私に気づいて寄って来たロディが教えてくれた。
「朝から指示だしに来て、そのままいるだけだぜ。あそこ、仮眠室なんだ」
「今降りて行くから待ってろ」
ヴィクターさんは悪びれず、窓の中へと姿を消した。
その間にロディが心配そうに声をかけてくれる。
「毒アッサナーナ入れた奴らと行くんだって?」
「うん、隣の国で勇者やってるサキアと仲間二人だよ。前、店に来たことあるの」
「顔見知りか。けど、毒仕込まれるような奴らと一緒で大丈夫か?」
「そこはなんとも言えないけど。腕はいいんじゃないかな?」
呪われた聖剣を見た時に、サキアたちの強さもなんとなくわかった。
正直、一人一人がヴィクターさん並みだ。
ただ気になったのは、物理攻撃の適性が一番高いのが魔法使いのルイーゼってこと。
人間必ずしも望んだ適性を持つとも限らないし、持ってる適性が馴染むとも限らない。
それは呪文作りでも言えると、両親が言ってた。
派手な爆破の魔法を使いたい人がいても、水で押し流す魔法に適性があって効率がいい。
けれど呪文作りを依頼する当人の望みは、派手な爆破で適性や効率なんて言うだけ無駄なんだとか。
「心配するくらいならお前が例の場所まで案内してやれ、ロディ」
降りて来たヴィクターさんがそう言った。
髪には寝癖がついてるから、本当にただ寝て待ってたようだ。
そこに勇者パーティがやって来る。
「遅れてすみません」
サキアが代表して謝るけど、ヴィクターさんは寝癖を直すでもなく手を横に振った。
「いや、エイダも今来たんだ。じゃ、ちょっと打ち合わせでもしようや」
ヴィクターさんに先導されて、火鼠討伐の時に一度案内された建物へと向かった。
ロディも一緒で本当に案内までしてくれるようだ。
通されたのは一階にある椅子が壁際に寄せられた広間のような場所だった。
「適当に座れ。で、火喰鳥対策考えてきた奴から発表」
ヴィクターさんが雑に振るけど、すぐにサキアが真面目に応じる。
「武器は剣ですが、僕も魔法が使えます。盾を持ってきたから守りを担いつつ魔法で援護をするつもりです」
今日サキアは確かに聖剣以外に盾を背負ってる。
そうでなくても左手は防御用に鎧がついてて、反対に右手は軽装で左右非対称な軽鎧を着てた。
サキアの体にぴったりの寸法で、材質もそうだけど装飾もあって高そうだ。
きっといい装備なんだろう。
「戦力確認の意味でも言っておくわ。私は火属性の魔法が得意だから、正直火喰鳥とは相性が悪いの。上回る火力で倒しても採集が目的の今回は意味がないし、援護に回るつもりよ」
ルイーゼも左右非対称だけどちょっとドレスを思わせるローブを着てる。
魔力を宿した装飾も身に着けてることから、こっちも装備としては逸品だとわかった。
「で、攻めは俺ってことを考えてる。胴体を狙えないとなると首をはねる形を想定してるが、どうだ? 問題あるか?」
柄の長い斧を装備したヘルマンが、ヴィクターさんに聞く。
こっちは鎧だけどやっぱり利き腕だけ軽装で、足元もあまり重くならないようにしてある。
留め具の具合を見るに、鎧は必要な部分だけを装着できるようにしてあるようだ。
「首刎ねて一撃必殺ができれば一番だな。エイダは杖どうだ?」
ヴィクターさんに振られて、私は作った三叉の杖を見せた。
「水属性に特化した杖で、軽く試した限りは細かく水を操ることができます」
「火喰鳥は湿気が多いと動きが鈍る。水を霧状にすることは?」
狙い撃ちを想定してたけど、ヴィクターさんに聞かれて考えてみる。
「はい、たぶん可能です」
「だったら濡らしすぎるなよ。狙いは肝でも羽根あるなら素材として回収したほうがいい。濡らしすぎて羽根の脂粉落とさないようにな」
同じことを杖にもアイテム図鑑で教えられたな。
それから簡単に状況の説明をロディからされた。
「火喰鳥は縄張り意識が強くて自分の縄張りをグルグルしてる。だが今回、縄張りじゃないところにいるのを見つけた。天井は低く、横道のない通路だ」
「火喰鳥が普段ない行動をした理由は? 縄張り意識強いのに移動ってことは、生殖控えて凶暴化してるかもしれない」
ヘルマンの確認に、ヴィクターさんが笑った。
「いや、今回は理由がわかってる。火鼠の主と言われる巨大個体が異常発熱して周囲を威嚇したからだ。その個体はすでに討伐済みだから心配するな」
あれかー。
めちゃくちゃ暴れたし、近くにいた他の魔物は逃げ出してもおかしくない気はする。
「じゃ、説明続けるぞ。この通路は今現在衛兵隊によって封鎖されてる。お前らは火喰鳥が閉じ込められてる通路に行けばそれでいい」
「こっちもあんな熱い所に貼りついてるのは面倒でな。エイダには悪いが、行ってくれ」
どうやら思いつきのように今日依頼されたのはヴィクターさんなりに理由があったようだ。
確かにあの竈脇のような暑さの中見張りは可哀想だった。
「火袋の場所は私が見るとして、解体に注意はありますか? 野生の鳥なら食べるために捌いたことあるんですけど」
「あ、駄目だめ。火傷するわよ」
私が聞くとルイーゼから待ったがかかった。
それにロディも頷く。
「倒したら砦に持ち込めば解体って言おうと思ったんだが。お前らやったことあるのか?」
「はい。その時は羽根を取りに行って。けれど耐火手袋をつけていても熱かったです。持ってきてはいますし、マグマくらいじゃないと変形しないナイフもあります」
「とんでもないもん持ってるな。どうしましょう、隊長?」
サキアの答えを受けて、ロディがヴィクターさんに聞く。
「火袋に血が逆流して駄目になることもある。首を刎ねるならその場での解体が望ましいだろうな」
うん、私、口を挟む余地がないな。
勇者パーティ用に水の矢の呪文持ってきたんだけど、いらなさそう。
私が密かに落ち込んでる間に、ヘルマンが話を進める。
「他にやり方があるのか?」
「首の骨折って持ち出しだな」
「あー、こん棒かハンマーが良かったか」
戦斧を持つヘルマンがぼやくように言った。
「火喰鳥は凶暴だ。慣れた得物が一番だ。さ、役割決まったなら、道具選んで出発しろ」
ヴィクターさんの号令に、これもルイーゼが手早く段取りを始める。
「まず火袋を確保するための容器よね。血抜きのために縄とスコップと、それから…………」
結局私は今回、荷物持ちもせずについて行くことになったのだった。
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