61話:杖作りです
火喰鳥討伐が決まった翌日、私は店で意気込みを口にした。
「よし、やるぞ!」
ビューロから『自動書記ペン』も跳んできてやる気だ。
今日杖を作ることは言ってあったので覚えていたんだろう。
うん、本当に頭いいな。
「それで、昨日の内に作った触媒の薬のほうだけど…………うん、品質に問題なし」
昨日帰ってから私は触媒として必要な薬の作成を行った。
なんとかA評価を貰えるできになったので、材料は揃ってる。
私は床に魔法陣の描かれた布を広げて素材を並べる。
大本の魔法陣とは別にある小さな魔法円の左右に、湖の主の鱗と湖底の石をそれぞれ配置する。
そして二つの素材の真ん中の魔法円には触媒となる薬だ。
さらに大きな魔法陣の中央に杖を設置して準備はできた。
「そしてここから、呪文の連想を…………って、何?」
完成形を想像しながら呪文の構想に入ろうとしたら、ペンがいきなり私を叩く。
見るとビューロへと跳んで行った。
そして魔術書を捲り始める。
ペンが開いたのは『素材任せの魔法道具作成呪文』。
「これ使えって? けどそれじゃまた尖ったのしかできな、うわ!?」
否定的なことを言った途端、『自動書記ペン』が私の顔に向かって飛び跳ねる。
これはきっと、抗議だ。
「確かに最初はそのはずだったけど、状況変わったって昨日言ったでしょ。明日にはダンジョン。実用に耐える物を作らないと私だけじゃなく、サキアたちも危険なの。だったら素材任せなんて言ってられないよ」
説明をするんだけど、なおもペンは抗議のために跳んだ。
そしてページめくって呪文の特性部分を示す。
そこには作り手の理解を越えて素材の特性を引き出す可能性が示唆されていた。
「確かに私の理解が低い素材だよ。けど任せすぎて使い方がわからないなんて言ってられないの」
アイシクルスライムの杖は最終的に役立った。
けど使い方は手探りで、正直危なすぎる。
一度上手くいったからって過信は禁物だ。
するとペンは別の所へ跳び跳ねて行く。
見ていると、棚に直してあるアイテム図鑑を叩いている。
さらには器用に取り出してページを捲り始めた。
「あ、火喰鳥の素材?」
いや、ちょっと待って。なんで内容知ってるの?
もしかして私がいない間に読書してる? ペンが?
計り知れないなぁ。
ちょっとトレントって言う魔物に遭うのが怖くなってきた。
「羽根を手に入れるなら濡らしすぎて脂粉を落としても駄目、か」
火喰鳥に水の攻撃は有効だけど、素材を採集するなら濡らしすぎは駄目なんだそうだ。
「これってつまり、素材からして駄目ってことにならない? たぶんどう作っても水属性系統の杖になると思うんだよね。羽根は諦めるべきかな」
素材を見た時のインスピレーションだけど、間違ってはいない気がする。
けどペンは左右に激しく揺れて否定した。
どうやら伝えたいことは違うらしい。
そして今度は机へ跳ぶと、書類の入った棚から一つを示す。
「誰の依頼書? って、エリー?」
ペンが開いたのは水の矢を飛ばす呪文。
そう言えば使ってたし、ついこの間呪文を込め直した魔法だ。
「もしかして、素材任せで水に特化させてこの魔法で、全体を濡らさずに一撃必殺狙えってこと?」
私の質問にペンは前後に揺れる。
「君、呪文作り関係だけじゃないの? 戦術的なことも理解してるってこと? 呪文完成させたいにしても頭良すぎだよ」
正直、戦法としてはありだ。
初めて一緒に行く勇者パーティのやり方もわからないし、サキアたちの知らない実力を頼って対抗手段を用意しないのは駄目だ。
実際使ってるエリーの姿を見たから、イメージはあるし水特化の杖にするなら制御可能だと思う。
そして内臓素材を傷めないピンポイントでの攻撃手段は、有用だ。
「私が考えてひねり出した呪文より、素材に任せたら確実に水に特化する。その上攻撃手段として有用な魔法は既にあるって?」
今度はペンが前後に揺れる。
「けどさ、やっぱりそこはきちんと考えて、この水の矢を放つのに最適な杖を作れるように呪文考えたほうがいいと思うんだけど?」
私がまだ納得しないと、ペンは忙しくまたビューロへ戻った。
そして『素材任せの魔法道具作成呪文』のページにある即興性と時短という説明を示す。
「今から考えてどれくらい時間がかかるかわからないって? そのとおりだけど…………うーん…………」
今日作る呪文は、昨日の内から考えてはいた。
けどこういうのはフィーリングで、降りて来る時は降りて来るけどない時はない。
一晩寝て降りてこないんならそういう時ってこと?
「はぁ、わかったよ。当初の予定どおりにする。これ早めに終わらせれば、また商業ギルド行って素材買えるし。そしたらこのエリーの呪文を込めてサキアたちの分も用意できる。一度きりの使い捨てならそう高価な触媒じゃなくてもいいはずだから…………」
私はさらに先の予定も立ててから気を取り直した。
次の問題は詠唱呪文しかないことだ。
少しでも精度を上げるなら発動呪文を考えるべきだった。
「もう名前はついてるし、そこから…………うーん、けど精度を上げるならもっと素材任せなんて大雑把じゃないほうがいいかな?」
私は考えながら呪文を眺める。
すると降りて来た。
「今かぁ…………しょうがない」
魔女は閃きに従うことも大事って言ったのはお母さんだったかな?
私は魔法陣の前に膝を突く。
最初にやった時と同じく杖に手を置いた。
「《何処より来りて、何れと成らん。如何な縁ありて、如何なるものと成らん。根源・核心・本質・極致。求めたる姿を今ここに》」
詠唱呪文で素材が光に変わり始める。
アイシクルスライムの杖はそのまま力が核片を再構成した。
言ってしまえば本当に素材そのままが杖になった形だ。
けど今回はそれじゃ駄目だ。
別個だった素材を掛け合わせるなら、もっと別のものとして新たに作り上げることを考えないといけない。
「…………《求勗再誕》」
唱えると三つの光が杖に向かう。
けどこれ、一つが中和用の触媒だ。
だから混じり合わない二つだけが先になってはいけない。
混ざれ混ざれ、引き出し合って、殺し合わずに混ざれ!
「…………でき、た?」
念じ続けていつの間にか目を閉じてた。
魔法の収束を感じて目を開けると、そこには三叉の先端を持つ杖が淡く光ってる。
慌てて眼鏡を避けて、私はできを見つめた。
「握りの部分はまるで鱗…………先端にかけては石って言うより硝子っぽいし、中の杖の木肌は見える。攻撃重視の形状で…………」
たぶん、二つの素材はちゃんとかけ合さってる。
形状から見るにちゃんと私の意図を織り込んだ形に構成されたんだろう。
音がして見ると『自動書記ペン』が、机の上で何か書いてた。
うん、何かはわかる、かな。
「…………Bプラスかぁ…………」
覚悟を決めて見に行ってがっくりしてしまう。
そんな私を見てペンがAマイナスと一度書いて消した。
うん、気遣いだけもらっとくよ。
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