51話:迷いました
巨大な火鼠を倒して一日が経った。
戦闘で疲れた後解体を行い、さらに夜にはお祝いされて体力も限界になる。
「昨日はほぼ寝てたからね。今日はやろう」
私はそう自分に気合入れて、一階の店で一人拳を握った。
まず作ったのは三種類の傷薬。
「左から、小回復薬、中回復薬、大回復薬」
机に並んだ回復薬の瓶の下には紙置いて、私は指差しで説明した。
するとそこに『自動書記ペン』が跳ねるように評価を走り書きをする。
「A、B、Cか。やっぱり効果が高いほうが作るのは難しいね。材料も少しずつ違うし、小回復薬とはいえこれはこれで別の道具の触媒に使えるからAを維持しないと」
どれか偏って作ることはしないほうがいい。
けれど難しい薬は練習しないと上手く作れないから、研鑽あるのみだ。
そしてちょっとわかったことがある。
「君はこの店内で作られたものの価値しか判断できないんだね」
いや、正しくは呪文作り関連だけかな?
『自動書記ペン』は私の作るものを勝手に評価をするけど、外から買って来た物には無関心だった。
だから試しにエリーが作ってくれたブーツの評価を聞いてみたけど反応はなし。
「この杖の性能とかもわからないよね」
アイシクルスライムの核を使った杖だった物で、今ではもうただの木の杖だ。
私の目でも大まかな性能は計れるから問題はないんだけど。
「あれ? 動いた。あ、Bプラスなんだね。ということは?」
魔術書を見るけどペンは違う方向へ向かう。
どうやら魔法陣を描いた紙や布を入れてる箱だ。
ペンが選び出した魔法陣を開いてみると、見たことのないものだった。
「ごめん、わからない。私の知らない術だよ」
するとペンは、机の上の紙に文字を書いた。
「なになに? 上級魔法呪文、魔法杖作成素材加工…………つまり、これってクライスがこの形に魔法で加工して作ったの?」
しかもクライスが持ってる魔法関連の書籍にある術のようだ。
「うん? クライスの魔術書に書かれてない魔法もわかるの? ってことは、もしかしてあれも…………?」
私は二階に置きっぱなしの荷物に向かう。
中から取り出したのは封筒と、その封筒がすっぽり入る箱。
私はそれを一階に戻って『自動書記ペン』に見せた。
「これ、両親から出された課題で再現しなきゃ使えないんだけど。何かヒントないかな? 上手くいけば両親の持ってる魔術書譲ってもらえるんだ」
そう言った途端に『自動書記ペン』は跳ねあがった。
そして封筒と箱の周りを念入りに回る。
「あ、書きだした。…………封筒A、箱未完?」
封筒は完成品だけれど箱が未完成?
言われて私も眼鏡をずらして良く探る。
「箱、箱…………あ、本当だ。なんの魔法の気配も感じないと思ったら。起動してないせいじゃなくて、起動させるための魔法が欠けてるんだ」
魔眼は見てわかる能力だけれど、見るという行動には強く心理が反映する。
人間は意外と見たい物しか見てない。
それは魔眼でも同じで、見たと思ったものしか認識できないし、影響を与えられない。
「だから観察眼は鍛えろって言われてたけど、こういうことか。ありがとう」
『自動書記ペン』にお礼を言って自分なりに調べる。
けれど結局お昼を過ぎても、両親と文通する目途は立たなかった。
「うーん! 封筒のほうが内部の物を保護する魔法っていうのはわかったけど、問題は箱かぁ。どうやってやり取りするんだろう?」
声を出すと同時にお腹が鳴った。
意識した途端、空腹で集中力も途切れる。
「よし、ちょっとお昼買って来るね」
私はペンに声かけて店の外で気分転換をすることにした。
「お昼は商業ギルドのほう? 大通りで? うーん、あ! エリーに教えてもらった職人通りの軽食探そう」
エリーとシドが営む防具屋や、鍛冶師のヤーヴォンさんの店がある辺りは職人通りと言うそうだ。
武器防具はもちろん、家具や指し物などの工房が集まっているらしい。
私は聞いた話を元に街の北西に向かう。
見回せば、職人通りだけあって奉公人や徒弟らしき人たち向けのがっつり軽食が目についた。
一店舗一種類が基本で売り切れたら閉店という形式らしい。
「つまり、お昼過ぎて来た私はお腹の減った職人さんたちより遅れてるわけで」
色々あっただろう店はほぼ完売。
私は職人通りを彷徨った末にようやくまだ残っているお店を見つけることができた。
「うん、肉団子のスープに穀物の薄焼きがついた軽食は美味しかったな。最後だからって具をいっぱいにしてくれたのも嬉しかった」
昼食は満足、けど問題が発生してる。
「…………ここ、何処?」
軽食を買って食べて満足し、よく考えず歩いて方向を見失ってしまった。
「しかも周り明らかに工房じゃないし。店の裏手っぽい?」
せめて方角がわかれば。
そう思っていると、一つの店に目が止める。
「占い? …………もしかして」
素っ気なく一言書かれただけの店は、周囲は裏口ばかりの中ひっそりとあった。
思い切って入った店内は狭く、一人分の椅子があるだけ。
そして布に覆われたカウンターと、カウンターの奥も布で目隠しされて狭い。
けれど店内に揺れる煙の匂いは知っていた。
「ヘクセアさん?」
「あん? なんだい、あんた。まだ手詰まりになるような時期じゃないだろ」
カウンターの向こうから煙を吹かせてヘクセアさんが現われる。
良かった、知り合いに出会えた。
「すいません、道に迷いました」
「…………卜占の常套句だけど、意味はそのまんまなんだろうね」
あ、呆れられた。
「と言っても占い師に答えを求めるなら駄賃は貰うよ」
「え、そうなんですか」
「だから、何か金を払ってでも聞きたいことあったらお言い。そのついでに帰り道は教えてやるから」
なるほど。
お店に来て何も買わずに情報だけ取るのは確かに失礼だし、店としての体裁も悪い。
「えっと、だったら手紙を送るための魔法って何か知ってます?」
私が今一番聞きたいことだったんだけど、ヘクセアさんは厳しい顔で額を押さえた。
「前にも言ったけど、あたしゃ本当に占いするんじゃないんだよ。知らないことは助言さえできやしない。その言い方だと何か手紙を送る魔法のあてがあって聞いてんだろ。そのあてをまず説明しな。ったく、こういうのも本来なら話詰めながら聞き出すのが流儀だってのに」
文句を言いつつも、わかりやすく説明の上、私の話を聞いてくれる。
どうやらヘクセアさんは蓮っ葉な口調の割に世話焼きな人のようだった。
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