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5話:夢で逢いました

「エイダもう来たのか。夢で会えたってことは、店の中で寝てるんだな」


 夢に出て来たクライスはがっくりする。


「クライス何処に行ってるの! 私がお店の留守番しないと、ノルマがどうとかでお店なくなるかもしれないんだってよ!」

「あ、しまった。ノルマの分の慰杯やポーション瓶は作ってあるからそれ会頭に渡してくれ」


 全然悪いと思ってない。


 じっと見つめるとクライス目を泳がせる。


「えっと、エイダなら好きに素材とか使っていいし。留守番じゃなくて普通に店やっても別に」

「できるかわからないよ。魔術書みたけどやったことない行程多いし、今の私には難しいっていうのだけはわかる」


 否定的に言えば、クライスが笑って私を見る。


「やらないとは言わないんだな」

「こっちにも事情があるけど、クライスいなくて困ってる人もいるみたいだし、私にできることならやるよ」

「エイダ変わってないな。実は負けず嫌いなとこ」

「それはクライスもでしょ。一度決めたらやり通すとこ。せっかくお店持ったのに、私の気分でその頑張り無駄にするわけにはいかないじゃない」


 私の言葉に笑ったクライスはすぐに溜め息を吐いた。


「あーあ、野暮用さえなきゃ、今頃エイダに会えてたのになぁ」

「その野暮用って何? いつ頃戻れるの? だめだよ、ちゃんと周りに予定言わないと」

「うーん…………、いや。エイダは知らなくていいよ。俺の問題だ。できるだけ早く帰るから、それまでは店のこと頼む」


 そういうクライスは、靄がかるように薄れていく。


「クライス? クライス!」

「エイダ、どうせなら俺が戻るまでに俺の今の最高傑作の呪文再現できるようになってくれよ。その街に必要なもんなんだ。俺がいなくて焦ってたろ?」

「またそういう意地悪なこと言って! 戻らないクライスのこと、心配してるんだよ?」

「わかってるよ。必要とされてることは。だから、俺は必ず戻る。必ず…………。だから、待っててくれよ、エイダ。それでも間に合わない時には…………」

「クライス!」


 私は自分の叫び声で目が覚めた。


 窓の向こうで鳥の鳴き交わす声が聞こえる。

 薄明りで朝だとわかったけど、私はそれどころじゃない。


「あれがただの夢だとは思えない…………。たぶん、仕掛けが…………あった!」


 枕代わりにしたクッションを調べると、中からポプリが現われる。

 やっぱり夢で逢える仕掛けがあった。


「これがインチキ臭い薬? 匂いは普通に花の香りだけど」


 私は着けたまま寝ていた眼鏡を取る。

 するとかけられた魔法の気配が見えた。


「ポプリ自体は安眠作用で、薬、そうか。ポプリとは別に薬が振りかけてあるんだ」


 私の目はラスペンケルを名乗る魔法使いに伝わる秘術の一種。

 珍しい色の瞳は伊達じゃない。

 実は見たものの特性を読み解く魔眼なのだ。

 まぁ、魔眼としての程度は低いらしいけど。


 普段は見えすぎて困ることもあるから眼鏡をしてる。

 クライスはしてなかったけど魔眼扱い切れてるのかな?

 やっぱり本家だとその辺りもしっかり教わったとか?


「他人ごとだったし、これ、クライスが作ったんじゃないよね? まだ花の匂い消えてないし、こんなすごい物作れる人がこの街にいるの?」


 夢で思う相手と会えるなんてすごい。

 そんな魔法、おじいちゃんやおばあちゃんの魔術書にもなかった。

 今の私ではどういう仕組みでそんな効果を表してるのかわからない。

 魔眼でも効果とポプリの概要しかわからないし、それだけ私では理解できない術で作られているんだ。


 こういうの、ちょっとワクワクしてくるな。


「よし、まずは商業ギルドに行くために準備しよう」


 私はポプリはクッションに戻す。

 また夢見れるかもしれないし、純粋にいい匂いだし。


「あ、水」


 一階に降りて流し横の樽を開けたけど空だ。

 慌てて出た割に、クライスは長く開ける準備はしてたらしい。


「確か、水を発生させる呪文は…………《命潤し天を巡る。零れ落ちては地に隠れる。求める者の声に今暫し顕現を》」


 魔法使いにとって魔力は生命線だから手でどうにかできることは手でやるのが当たり前。

 知ってたけど練習以外で使ってなかった呪文だ。

 お母さんに倣ったけど、確か祖母の呪文書に載っていたんだったかな?


 私は水を作って身だしなみを整えながら、改めて呪文店を眺める。


「羊呼び寄せのために一時的な魔法道具を作ったことはあるけど、素材の特性同士を結び付けるような魔法道具、作ったことないんだよね」


 この店で必要なのは、お父さんがやっていたような一時的な魔法の付与じゃない。

 使う素材の魔法的な特性を、呪文で別の素材に定着させる方法だ。


「私の場合、素材同士をくっつけて特性を維持するっていう方法をまずできるようにならなきゃ…………。クライス好きに使っていいって言ってたし、ちょっと練習してみよう」


 私は二階に戻って昨日見つけた二つある杖を一本取り出す。

 眼鏡をずらして確かめれば、杖は素材としての融通が利く部類のようだ。

 練習には適した素材と言えた。


「後は……いきなり知らない素材を使うよりも、扱ったことがある物がいいよね」


 旅装の中から、一つの瓶を取り出す。

 手をかざすだけでも、瓶の中の青白い石から冬の冷気を感じた。

 中に入れられているのは、山でも珍しいアイシクルスライムの核片。

 スライムは倒すとそのほとんどは溶けて消える。ただ、核のような物が稀に残ることがある。


「えっと、一階に魔法陣はあったよね」


 また一階へ降りて、店舗スペースの机に向かう。

 巻かれて筒状になった羊皮紙がいくつも立てられた木箱の中を探すと、魔法道具を作るために必要な魔法陣が見つかった。


「まず、魔法陣の中央に基礎となる素材を置いて…………」


 羊皮紙を机に広げて重石を乗せて固定する。

 私は山でやった手順を思い出しながら、描かれた魔法陣の中央に杖を置いた。


「ここで、魔法陣を第一段階起動。基礎素材を固定。…………それから、属性素材を置いて…………持ち手の上くらいでいいかな? で、第二段階起動」


 魔力を送り込むと、魔法陣の三重の円の内、二つが光り輝く。

 ここから、呪文を使って二つの素材を一つにまとめるんだけど。


「あ…………呪文どうするか考えてなかった。もうアイシクルスライムの核片から魔力抜いちゃったし、途中でやめられないし。いいや、即興で!」


 ここでやめたら宙に浮いた魔力は霧散するだけで元の状態にも戻せない。


 私は魔法陣の中に手を入れ、青白く冷たい欠片に指を置く。

 瞼を閉じて意識を集中し、指先から感じる魔力を定着させるための言葉を自分の中に探す。


「ラスペンケルの名の下に、ここに新たなる理を紡がん。…………《何処いずこより来りて、いずれと成らん。如何な縁ありて、いずくんぞ成さん。根源・核心・本質・極致。求めたる姿を今ここに》」


 魔力を込めながら目を開くと、呪文と共に魔法陣の三つ目の円にも光りが宿る。

 どうやら呪文は効果を発揮したようだ。


「え? あれ!? どうなってるの?」


 適当な呪文でも発動したことに安堵した途端、指の下でアイシクルスライムの欠片が、生きたスライムのように形を変えて、触手を伸ばすように杖へと絡みつく。

 魔法陣の光を吸い込むように、輝きを増したアイシクルスライムの欠片は、気づけばほの青く発光していた。


 魔法陣の光は消え、私は恐る恐る手をどける。

 そこには、氷で出来たような杖があった。

 透かして見れば、中心に元の杖が見える。

 形は氷柱に似て、杖というよりも太い錐のようだった。


「あ、あれぇ? 杖に欠片が癒着するような形になると思ったのに。なんだか、攻撃的な形になっちゃった」


 完成した杖を見つめていると、店内の何処かで呪文が発動する気配があった。


隔日更新

次回:ペンが走りました

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