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42話:やらかしそうです

「じゃ、まずはテーセのダンジョンについて説明だ。っても、つまらないだろうから構造に関する基本だけな」


 そう前置きして、ロディはダンジョンが洞窟型であることを説明し始める。


 テーセのダンジョンは本来洞窟型だけど、魔物が拡張しているせいで洞窟という地形に当てはまらない場所もあるそうだ。

 巨大空間あり、地底湖あり、場合によっては山中に出ることもある。


「自然の洞窟を、魔物が住処として拡張したことでできたダンジョンだからな。いきなり立て坑が空いてたりするし、物影も多いし、崩落の危険もあるから、戦闘では十分周りに注意しろ」


 ダンジョンで命の危険に遭うのは、何も魔物のせいばかりでもないと言う。


「今も洞窟を拡張する魔物の存在が確認されてる。広さは未確認。山一つ洞窟になってる可能性もあるから、地図にない道には入るな。迷って死ぬぞ。砦に戻って報告してくれりゃ、こっちで調査隊を組むし、発見者には調査隊への参加を許す」


 細かな取り決めがあるらしく、安全と冒険者の功名心を両立させようとしている雰囲気を感じる。


 渡された地図もダンジョンの一部のみを描いたもので、全容は描かれていない。

 しかも、この地図はあくまで貸し出しで、どんな理由であれ、紛失には罰則があるのだとか。


「地図に書かれてるのは、事前に申請のあった炎熱地帯の下層だけだ。そこからさらに地下へもぐる道もあるが、危険は増すから地図なしで行くなよ」

「じゃ、地下の地図もくれよ」


 三人組の冒険者が手を出すと、ロディは言うと思ったと言わんばかりに薄く笑った。


「相応の能力があると認められた奴じゃなきゃ、地下への地図は渡せない。まず光がないから難易度が跳ねあがる。目に頼らない戦いに慣れた魔物たちは素早いから、上級者向きだ」

「舐めるなよ。相応の能力ってのはどんなだよ?」

「こっちが指定する物品を採集して無事に帰ってくること。もしくは、冒険者組合からの推薦。どっちにしても、初めてダンジョン入る奴らには無理だ」

「あぁ? ダンジョンは初めてじゃねぇよ。説明受けなきゃ入場許可しないなんてたるいこと言うから聞いてやってんだろ」


 どうやら、この戦士に偏った冒険者たちは、別の場所にあるダンジョンに挑戦したことがあるらしい。

 だからロディの説明も聞き流すみたいな態度だったんだ。


「ここはダンジョンよりも、山の上や森の向こうがヤバいんだろ?」

「出てくる魔物も、未発見の奴なんていないらしいしな」

「なんだったら、俺たちがダンジョン核を取ってきてやるよ」


 山の上、森の向こうがヤバいって何が?


「あれ? ここのダンジョンは核がないダンジョンなんじゃないの?」


 そう聞いたんだけど、私が言った途端に冒険者たちは指差して笑う。


「ダンジョン核も知らないとか、本物の初心者じゃねぇか!」

「ダンジョンがなんでできるかも知らないのかよ!」

「おいおい、本当にこんな奴が入っていいなら、とんだ弱小ダンジョンだな!」


 大笑いして、その笑い声でさらに調子に乗るらしい冒険者に、ロディのほうが不機嫌そうに顔を顰めた。

 私は、まぁ、腹が立たないことはないけど、なんか相手したらまた山で村長の息子殴り倒した時のようなことになりそうで。


 私が自重を心がけると後ろから声があがった。


「粋がって、若いねー」


 お酒を飲み始めていたヴィクターさんが笑ってる。


「あんだ、おっさん?」


 馬鹿にされたと思ったのか、冒険者たちが気色ばむんだけれど、ヴィクターさんは相手にせず、ロディに顎を上げてみせた。


「ほら、説明聞かないと、いつまでもダンジョン入れないぞ」

「ちっ」

「あの人の言うとおりだ。騒がずに聞けよ。で、エイダ。核がないってのはまだ推測だ。正確には見つかってないだな。まぁ、他所でよくある形ではないんだろうってのがこの街では言われてる」


 ロディが言うには、核が何であるかが問題だそうだ。

 ダンジョンは核を中心に広がる生態系で、そこに魔物が集まるだけの力が存在すると言う証左なのだとか。


「核がない場合として考えられるのは、魔族が手下を連れて住み着いたからしいって聞いたな」

「けどそういう存在も報告されてないの。核が移動してるにしては強力な個体がばらけてるし、種族的な特徴も一致しないしね」

「ま、魔族が住みついてたら呑気に冒険者入れてねぇよ」


 テーセの街の住人である防具屋パーティが後ろのほうでそんな話をする。


「強力な魔物が巣を作ってできたダンジョンとか、地中に埋もれていた高魔力の宝石からダンジョンが広がったとか色々だな。ただ、ここのダンジョンは他と違って核がないという推測は確かにある」

「「「はぁぁああ!? 吹いてるなよ!」」」

「だから、ちゃんと説明聞けって。ここの特徴は、中心がないことだ。他のダンジョンなら核を中心に広がって、核に近づくほど魔物は強くなる。核から力を得てるからな」


 けれど、このテーセにあるダンジョンには核がなく、魔物の強さも洞窟内部でまちまち。

 だから、核と呼ばれるダンジョンの中心はないし、探そうと思うなら拡張し続けるダンジョンを全て踏破しなければいけないそうだ。


「だから、地図も一つの生態系ができてるだろう地域ごとに書かれてる。今日渡したのは炎熱地帯の下層。火鼠を中心にその辺りの魔物は熱を発する。耐火装備が必須だ」


 核がないため、魔物たちは強弱入り混じって生息しているのだとか。

 その上、核があれば一定の環境が保たれることの多いダンジョン内部も、生息する魔物の生態に大きく影響されて変化しているらしい。


「事前に調べられることやってるのは初歩だし、その辺りは押さえてるみたいだな」


 ロディが私と前衛冒険者を見て、耐熱装備を確認する。


「炎熱地帯とは反対に、寒冷地帯もあるから、同じ装備で地図にない場所に行くなよ。狭い場所、広い場所もあるんだ。装備だけじゃなく、人数も場所によって適性が変わる。本当に攻略しようと思うなら、幅広い対応力が必要だ」


 言って、ロディは戦士ばかりの冒険者たちに目を向けた。

 皮肉に気づかない様子で、冒険者たちは鼻で笑う。


 自信満々だぁ。

 ここまでやって来た自負かもしれないけど、前衛ばかりなのは攻撃は最大の防御とか思ってるからかな?


「ま、一度他のダンジョン行ってるなら禁則事項はわかってるな? 横取り、妨害、擦り付けなんかの報告があれば、俺たち衛兵が捕まえに行くからな」


 他にも、採集場所を荒らす行為や、倒した魔物の死体を放置して腐らせることを禁止していたり、ごみの持ち返りや罠の設置に関しては報告義務があったりと決まりごとの説明をされた。


「エイダはシドたちに詳しく聞いてくれ。で、お前らはちゃんと覚えておけよ。本当に報告来たら、お前ら捕まえに行くからな。街の門にも俺らの仲間が張ってるから逃げられると思うなよ」


 ロディは、真面目に聞いていない冒険者たちに忠告を繰り返す。


「危険な場所には目印のマークがあるから、絶対、そこには近づくな」

「うるせぇな、わかったよ。もう行っていいんだろ?」

「はぁ…………。同じ場所に別パーティがいても喧嘩にしかならないだろ。入る時間をずらすか、ルートを別にするために話し合いをすんだよ」

「ロディ。そいつら先で、最短ルート行かせていいぜ」

「そうそう。あたしたち採集が目的だし、エイダにも慣れてもらわなきゃいけないから」


 シドとエリーの提案に、ロディは早速、冒険者たちの地図にルートを示す。


「さっさと行こうぜ。ま、初心者はごゆっくり」

「朝から無駄な時間使わせやがって。最速で行って取り戻すぞ」

「はは。俺たち先に行かせたら、狩り尽しちまうかもしれねぇけど怨むなよ」

「言っただろ。荒らしは罰則だからな。出頭しなけりゃ、冒険者組合通して活動禁止もありうるぞ」

「「「ちっ」」」


 ロディの警告に揃って舌打ちをして、冒険者たちは部屋を出て行った。


隔日更新

次回:罠でしょうか?

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