41話:説明を受けます
テーセのダンジョンに挑戦することになり、私は店で早朝防具屋パーティと落ち合った。
ポジションを確認して、防具を借りて店を出る。
早朝ということもあってまだ街の人の姿もまばらだ。
「ダンジョン初挑戦の奴は衛兵から説明があるから、今はまだ緊張しなくてもいいぞ、エイダ」
「緊張がないとは言わないけど、これ、普通に動きにくいんだよ、シド」
「あー、エイダには合わなかったか。ある程度体できてる冒険者用だからな。その分、防御力については保証するんだけど」
「それは、うん。必要ならしょうがないよ」
「悪いな。本職の冒険者なら何も心配しないで任せろって言うところなんだが。エイダに危険がないようにするから」
苦笑するシドとそんな話をしながら、私たちは北門へ向かう。
北に行くにつれて、私たちと同じくダンジョンを目指す冒険者がちらほら目につくようになった。
衛兵のロディと同じ青い皮鎧を着た人たちが、街の北門で私たちを見送ってくれた。
顔見知りにはそうしているらしく、街に住むシドたち以外にも、冒険者と手を上げて挨拶をしている。
「説明は一律でするんだけどな。危険だって言っても初心者か行き詰った冒険者が新たな発見を求めて入り込んで、毎年帰らない奴がいたりするんだ」
ヴィクターさんが北門からそのまま続く砦に入って不穏なことを言い出す。
そしてそれはここでは当たり前のことらしく、エリーも何げなく話に乗った。
「草原のほうには山賊いるって言っても、警戒怠って身ぐるみはがされて砦に逃げ込む人の話聞くもんね。危ないって言ってるのにさ」
衛兵からの説明という注意喚起はちゃんと聞いておいたほうがいいようだ。
するとシドが私に言い聞かせるように指を立てる。
「いいか、エイダ。冒険者ってのは魔物専門とは言え、荒事を仕事にしてる奴らだ。金の分しっかり働くって奴もいれば、依頼より自分の利益優先な奴もいる。無闇に知らない冒険者について行くなよ」
「確かにエイダだとちょっと心配ね。クライスなら、騙されても報復して元を取るくらいしそうなんだけど」
「エリー? クライス、何したの?」
なんだか実感を持って言ったエリーは、ちょっと考えて笑ってごまかす。
聞こうとしたらヴィクターさんがまた不穏なことを言い出した。
「子供の割に笑い方が歪んでたなぁ。ありゃ、相当碌でもないもん見聞きして育ったんだろうなぁ」
「叔父さん、やめてってば! エイダがショック受けてるでしょ!」
エリーが止めてくれるけど、本当にクライス、どうしたの?
ひねくれてて口悪いのはわかってたけど、どう考えても評判悪いよ?
勇者のサキアも話聞かずに追い出したって言うし、これで本当に客商売してたの?
これは両親に報せたほうが…………って、手紙やり取りする魔法のこと忘れてた。
持ってきた荷物の中に入れっぱなしだ。
あー、そう考えると聖剣の呪いは祖父母の魔術書に頼るのもありな気がする。
何よりクライスの不在言わないと。
「おい、エイダ。大丈夫か? 確かにクライス口悪かったけど悪い奴じゃないのはわかってるぜ」
「ありがとう、シド。私はやること整理してただけだから大丈夫」
心配してくれるシドに笑い返して、私は改めて砦の中を見回した。
北門抜けたらそのまま砦へ繋がってるけど、ダンジョンの守りらしくテーセの街からは独立した壁に囲まれてる。
全体は頑丈な石造りで、外には空堀もあったのを以前見た。
ダンジョンを睨む方向に塔も立ってて、堅牢そうだ。
入ると、まず砦内部の広場につく。
そこから、案内に従って初心者と経験者、別の用件があるのかすぐにはダンジョンへ向かわない者など四方に別れた。
「前来た時には西のほうに抜けたけど、ダンジョンにはどうやって行くの?」
「砦内部の真ん中に哨戒通路のある建物があるだろ、そこの向こうにも門があってな。そこからダンジョンの入り口に繋がってるんだ」
ヴィクターさん曰く、山全体がダンジョンと化してるので、山の内部に繋がる洞窟が入口だそうだ。
すると声をかけて来る青い革鎧の衛兵がいた。
「おう、来たなエイダ。初心者はまず説明だ」
「ロディ。おはよう」
「俺たちにも挨拶しろよ」
「ロディ、今日はずっと砦詰め?」
シドとエリーが親しげに声をかける。
どうやらロディは今日ずっと砦にいるそうで、私に説明をした後も冒険者相手の仕事らしい。
なんとなく話し込みそうになっていると、ヴィクターさんがやる気なさげに声をかけた。
「ほら、さっさと仕事しろー」
「そうだ。他にも説明受ける奴が、もう来て待ってるんだった」
ヴィクターさんに促されて、ロディは私たちを砦の一室に案内する。
「ロディ、説明の間軽く摘まんでていいか?」
「俺にもくれるならな」
「衛兵が仕事中に物貰うな。賄賂扱いになるぞ」
「うっす…………」
シドが朝ごはんが足りなかったのか、途中で買った串焼きを振って間食の許可を取る。
匂いに軽口を叩いたロディは、ヴィクターさんに注意されて肩を竦めた。
そんなロディをエリーがちょっとわざとらしい笑顔で覗きこんだ。
「昼には戻るつもりだし、一緒に昼ごはん食べる?」
「やだよ。どうせ、火鼠の解体で余った肉でも焼くんだろ?」
「正解」
シドは歯を見せて笑い、親指を立ててみせた。
ロディは片手を振ってお断り。
どうやら火鼠はあまり美味しい物ではないようだ。
「せめて燻製にしてから寄越せよ」
「馬鹿、そりゃ俺の酒のあてだ」
「叔父さんは飲みすぎ!」
ロディにヴィクターさんが抗議すると、すでにお酒に手をかけてるのをエリーが見咎める。
そんな会話をしながら、私たちは砦の中にある会議室のような場所に入る。
備え付けの机と椅子が並んでいて、ロディは部屋の前方へ移動していった。
「それじゃ、エイダは前のほうに行ってちゃんと説明聞いてあげてね。ここのダンジョン変わってるのは聞いてるでしょ」
「うん、わかった」
私だけを前に、説明を聞く必要のないエリーたちは後ろの席で細かな打ち合わせをするようだ。
私が前方の机に向かうと、一番前に座っていた三人組の冒険者が吐き捨てるように呟いた。
「あいつら、舐めてんのか?」
「女やおっさん連れて、何しに行く気だか」
「いや、あの男見たな。あ、街の防具屋だ」
私は冒険者たちとは通路を挟んだ机につく。
気になって眼鏡をずらしてみると、頭の中に三人の情報が浮かんだ。
戦士(剣)、戦士(斧)、戦士(棍)。
見たままの、前衛三人組だった。
装備に援護能力があるわけでもない、武器もただの鉄製。
せめて中距離の槍でもいればいいのに、なんで三人揃って前衛なんだろう。
「よし、それじゃ説明するぞ、初心者共ー」
ロディが声をかける間も私は横目に前衛三人パーティを観察した。
一人一人はエリーくらいの腕がある?
ダンジョンの側で暮らしてて、採集慣れしてるっていうエリーくらいなら、構成さえ悪くなければ…………。
「ほら、まずはこれな」
私が考え込んでいる間に、ロディが地図を配布する。
埒のない考察から、意識は手元の地図へと移すことになった。
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