31話:戦力確認は大事でした
それからまた危険な草むしりを再開したんだけど…………。
私はダニエルに叫ぶ。
「この鳥何!?」
「グールコンドルだ! 墓場を荒らす鳥の魔物で、俺の剣じゃ届かない!」
相手は飛んでて攻撃もできなければ、空中から襲ってくるからダニエルが盾にもなれない相性の悪い相手らしい。
なので私が風の魔法で撃ち落とすことになったんだけど、私いなかったらどうしてたの?
そしてグールコンドルを撃退した後にもまた知らない魔物が現われた。
私はその時隣にいたワンダに聞く。
「今度はなんで蔦が動くの!?」
「リマインフラワーといって墓場に生える魔物です。唸るだけで意味のある言葉は発しませんから怖がる必要はありませんよ」
いや、怖がろう!
唸りながら蔦を搦めて締めあげようとして来てるから!
「あーもー! 下手な蛇より厄介だし、水分があって燃えにくい!」
私は燃やすことを諦めて、魔法で土の中から引きずり出すとダニエルの力を借りて根を切って倒す。
荒らしてしまった墓場の土を戻していると、今度は木が動いた。
「あの森から這い出てきた木はさすがに知ってる。トレントだよね」
「そうです。あの森は濃い魔力が漂うようになってからトレントの住処になったと伝わっています」
トビアスが杖を構えるのを見て、私はさらに聞く。
「ちなみにトレントに聖属性の魔法は?」
「効きませんよ。魔力を蓄えただけの魔物で、霊が取り憑いているわけではないので」
「そう…………。相手してられないから追い払うだけにするよ」
三人から文句は出ないので、私は火を嗾けるだけで墓地の敷地から追い出した。
魔物が出てこない束の間に雑草を除去。
それと一緒に霊草を採集。
「終わり! 今日はこれで終わり!」
「だがまだ」
「墓石のコケが」
「傷んだ柵を」
「だ、め!」
私は渋る三人に強く言いながら、魔物の新手が出てこないか目を光らせた。
「雑草取りが仕事内容。それが終わったら中に戻る。区切りは大切!」
強引に説得して教会に繋がる通用門から戻った私は、いつ魔物が現われるかわからない緊張から解放されて長く溜め息を吐いた。
「結局、屍霊系の魔物、一体も、出てこなかった…………」
「いやー、大活躍でしたね。エイダくん」
笑顔の司祭さんがそう声をかけて来る。
「壁の上から見てたのは知ってましたけど、できれば援護が欲しかったです」
教会の中には街の外壁に登るための石の階段がある。
そこから降りながら、私の文句にも司祭さんの笑顔は揺るがない。
「私もそのつもりでほら、手榴弾と呼ばれる魔法道具なんですが」
「司祭さま! それは墓地が荒れるだけなのでやめてくださいと!」
片手に収まるボールのような物を見て、トビアスが抗議の声を上げた。
聞けば魔法と錬金術を合わせた武器だというこの手榴弾。
安全ピンを抜くと一定時間で炎の魔法が起動するらしい。
そしてその一定時間の間に敵に投げつけて使うものなのだとか。
「遠距離で高所の有利を生かすなら投擲武器はありですけど」
「遺体が辱められるよりはとは言われていますが、率先して破壊するのはどうなのでしょう?」
ダニエルとワンダも手榴弾を使う援護には反対のようだ。
始めて言われたことではないらしく、司祭さんは悪びれない。
「優先すべきは死者よりも生者です。とはいえ、エイダくんのお蔭で出番がなくて良かったと心から思っていますよ」
そう言って手際よく雑草の入った籠を受け取る司祭さん。
そして木陰になった一角に敷物を広げて私たちを休ませた。
その間に司祭さんは霊草と雑草の選別を手際よく行う。
慣れてるなぁ。
「さて、今回はエイダくんの活躍で怪我もなく戻れたわけですが」
「やっぱりいつもは怪我するんですね?」
予想はしてた。
攻撃手段があるのはダニエルだけなのに、三人の誰も安全な壁の中に逃げようとしないんだもん。
これで今まで無事だったのは司祭さんが控えてたことと、クライスが手伝ってたからだろう。
あと敷物の端に治療道具も揃えられてる。
「きっと本来なら一番最初にすべきだったんだろうけど、トビアスたちはどんな魔法が使えるの? 聖属性の魔法が使えるのは聞いたよ。けどそれ、屍霊系や悪魔系にしか効かないんだよね?」
この世界に存在する属性は大まかに六つに分けられる。
地、水、火、風、光、闇だ。
その中でも水から派生した氷を得意とする魔法を氷属性と呼んだり、浄化能力の高い魔法を聖属性と呼んだり細かくわかれる。
今日見た限りトビアスとワンダは聖属性、浄化に特化した魔法しか使えないらしい。
「そうです。聖職者たる者に必須能力ですから。血を流すような暴力的な力ではありません」
なんでかトビアス誇らしげなの?
それ冒険者としては…………あ、聖職者って言ってる。
つまり墓地の草取りがメインで魔物退治はついでかぁ。
ついでで命を落としそうになるのもどうなんだろう?
「それでさっき改めて聞いたけど、昼間だから屍霊系の魔物、ほとんど出ないんだよね? 出る時には出るってだけで」
「一度だけ屍霊系が主体になる夜に草取りしようとしたことあったんだが、暗くてな。墓石にぶつかって全員打撲だらけになってしまった」
ダニエルは笑って話すけど、やろうと思うまではいいけどやっちゃ駄目だよ。
今日出て来たような魔物に加えて、夜でこそ本領を発揮する屍霊系の魔物まで加わるんだから危険すぎる。
「私はさらに援護と回復に偏った魔法を覚えてしまっていて。ダニエルにはいつも怪我を負ってもらうばかりなのです」
どうやらワンダは聖属性の魔法が使えてもあまり攻撃が得意じゃないらしい。
これも最初に聞いて把握しておくべきだったな。
無謀なことを真面目にする教会パーティを責められない。
だって私も同じだ。
杖もなく一緒にいる人の力も知らないで、慣れているならその場で教えてもらえばいいと楽観してた。
「少なくとも、攻撃の中核にならなきゃいけないのに杖なしは、ない」
「そこはいきなり連れて来た私の落ち度ではありますね。魔法使いが杖を携帯していないと考えつきませんでした」
司祭さんは魔法使いなら必ず持っているものだと思っていたそうだ。
剣なんかのかさばって重い武器とは違い短杖なら持ち歩けるから。
どうも冒険者という命を張ることが当たり前の人種が多いテーセでは、魔法使いは常に街中でも杖を携帯しているんだとか。
もちろん他の武器同様すぐには使えないようにする必要があるけど。
「クライスの杖を収納できるベルト、あれそうだったんですね」
「そう言えばいつも魔術書を吊るしていましたね」
トビアスとワンダが思い出すように言う。
確かに魔術書も杖と同じ魔法の媒介になる。
「それでもエイダの魔法すごかった。助かったよ」
ダニエルも褒めてくれるけどその後に続く言葉が不穏だった。
「もっと俺も強くならないと」
「ダニエル、だから一人じゃ駄目だって。防具屋のエリーとシドだって連携で強いんだよ。一人だけ前に出て後ろを守るだけじゃたぶん強くなれない」
ダニエルはまたショック顔をする。
一本気なんだけど融通が利かないようだ。
まず守る相手と連携するってことを覚えて、いやその前に守られる二人に攻撃の幅が必要か。
「さて、選別も終わりました。エイダくん、報酬をお与えしますのでこちらにどうぞ」
すぐに霊草をくれるのかと思ったら、私は建物の中に招かれることになった。
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