30話:助太刀します
旧テーセ村墓地の草取りをしていた私と教会の(仮)三人。
そこに魔物が現われた。
地面の下から這い出て来たのは茶色っぽいピンクの長大な体。
一見蛇にも見えるけど目も鼻も口も見当たらない魔物だった。
「グレイブワームだ! 下がれ!」
トビアスが杖を振って光を発する魔法を放つ。
攻撃としては効いてないみたいだけど魔法の効果なのか、グレイブワームは光に対して興味を持ったようだ。
その間に下がる私に対して、ダニエルは剣を構えて前にでた。
「何あのモンスター?」
「エイダさん、ご存じないのですか? テーセ以外の墓場にも結構いますけど?」
ワンダがトビアスに庇われながら、私と並ぶ。
そのワンダはすでに長杖からダニエルの力を強める魔法を放った後だ。
トビアスもすぐに援護できるよう魔法を用意した状態でダニエルを注視していた。
「初めて見たよ。そう言えばお墓って近くになかったな」
麓の村にもあったけど村の近くじゃない。
いっそ村から離した辺りに作られていた。
あれはこういう魔物が住みつくとわかっていたからなのかな?
「グレイブワームは遺体の側に寄って来る虫を食べる魔物で、あの巨体で地面を掘り進めます」
穴から出てきたグレイブワームはどう見ても私たち四人を縦に重ねたくらいの長さがある。
それでもまだ地面の下に体は埋まってるから、全長はもっと長いんだだろう。
その上体の幅は私の腕で一抱えくらい。
これが地面を掘るだけで結構な空洞ができて地面が歪むことは想像できた。
「勢い余って棺を壊したり、墓石の下を掘って埋没させたり。駆除をしなければいけません」
「確かにお墓を荒らされるんじゃね」
そう言ってる間にグレイブワームはダニエルに切りかかられる。
けれど剣の刃が入らなかったのか表面に線をつけるだけに終わった。
「グレイブワームって強いの?」
「いいえ。あの太さならそこまでは」
ワンダはそう言うんだけど、ダニエルが斬っても斬っても線だけしか作れてない。
そしてグレイブワームは体をくねらせて見当違いなところを攻撃し始めた。
当たらないことでグレイブワームの動きが変わった。
「何か仕掛けて来るよ!」
「《聖なる守り・速》!」
トビアスがダニエルに援護魔法を放った。
するとトビアスの動きが一瞬だけ早くなる。
グレイブワームは土砂を吐き出してダニエルの足音を覆うように動く。
ただ早くなったのは一瞬で、結局ダニエルは吐き出される土砂に足を取られた。
「ダニエル!?」
叩きつけるようなグレイブワームの動きをダニエルは避けられない。
私が声を上げる間にトビアスとワンダがさらに魔法を放った。
「《聖なる守り・固》!」
「《聖なる癒し》!」
「え、ちょっと」
「おぉー! 食らえ!」
援護を受けて立ち上がったダニエルが吠える。
そしてそのままの勢いで斬る…………けど今までとあまり変わらない。
「待って待って! 攻撃は? 魔法での攻撃しないの!?」
「あいつには僕たちの魔法は通じないのです」
「出てきたのがゴーストでしたら浄化したのですが」
まさかの事態だ。
私は眼鏡を外して二人を見る。
「聖属性しか使えないの!?」
「当たり前です。教会に籍を置く者として何よりも必要な力ですから」
「いや、そのせいで援護しかできないでいるし! 今必要なのは他の属性魔法でしょ!?」
「そう言いましても、あのグレイブワームに効く属性魔法を覚えたとして、他にも屍霊系以外の魔物もいるので一つ覚えても」
そういうことじゃない!
いや、彼らにとってはそういうことなの?
「と、ともかく、あのグレイブワームに効く魔法属性は!?」
「火です。ダニエルの剣が通らないのは、表面を油のような粘膜で覆っているからですね。それは可燃性で火を、そうか! ワンダ、火を起こそう!」
「まぁ、それなら私たちにもできますね。焚火程度でも燃えてくれますもの」
「薪拾いしてる間にダニエルの体力切れるよ。《火よ、火よ、火よ》」
私は手を突き出してグレイブワームに着火用の魔法を放つ。
アイシクルスライムの杖がないお蔭で簡単に火の粉が飛ぶ。
人間なら熱さを感じてもすぐ消える程度だけど、本当に油のようなもので覆われてたらしく瞬時に火の粉が大きくなった。
「なんだ!?」
「ダニエル、下がって! 助太刀する!」
言いながら今度は私が前に出る。
その間も新たな火の粉を飛ばしてグレイブワームを焼く。
「エ、エイダ? 火の属性魔法使えるのか」
「属性は関係ないかな。魔女ってそんなものらしいよ。魔法への適性が高い一族だから、特に属性で使えないものないし」
「そう、なのか」
あっという間に燃え尽きて倒れるグレイブワーム。
その死体に水を作る魔法で消火しながら私はダニエルに答えていた。
「まぁ、エイダさんすごいです! 水まで作り出せるんですね」
「私からすると最初から火打石も用意せず草取り始めたことのほうがすごいよ」
私にこのグレイブワームの弱点を説明してくれたのはワンダだ。
つまり火に弱いことはわかっていたはずなのに、無手でやって来てるも同然だなんて。
けどそれにトビアスが思わぬ方向に納得する。
「なるほど、次からはランプを持って来ればいいのですね。どうやらあなたはクライスよりもずっと知恵があるようだ」
今までにない満面の笑みで言わないでー。
「そうじゃなくてね…………」
「俺は、力不足だ。鍛錬が足りない」
今度はダニエルが後悔し始めてしまった。
「そうでもなくてぇ…………」
なんというか。
私を下げて守ってくれようとしたのはわかる。
真面目に自分とは関係ないお墓の手入れしてた善人なのもわかる。
けど決定的にこの人たち、冒険者に向いてない。
「何処から言えばいいんだろ? えっと、まずは」
「草取りを再開する前に、倒れてしまった墓石を戻すべきですね」
「それも必要だけどね、トビアス。あ、いや、ダニエルと二人でやってくれる? 私、ワンダにここに出る魔物の対策について聞いておくから」
「それなら作業をしながらお話しますよ?」
「ワンダ、危ないから。ね?」
ダニエルは落ち込み継続で辺りを警戒する余裕はないらしい。
トビアスも目の前の墓石についた土を丁寧に払ってて一生懸命だ。
どうしよう、この人たち危機感がない。
その上、逃げるって選択肢が後回しだ。
「教会の人が悪い魔物倒すとかって話聞いたことあるのに、なんで職人パーティのほうが攻撃力あるの?」
「神に仕えるために力はいらないからじゃないか?」
トビアスに促されて墓石を立て直し始めたダニエルが、落ち込んだ声のままそう答えた。
けどそういうことじゃないんだよ。
ないんだけど、うーん。
「ともかく、ダニエルは一人で強くなろうとしても駄目だと思うよ」
思ったことを伝えたら、すごくショックな顔をされてしまった。
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