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3話:留守番をすることになりました

「つまり何かね? クライスが戻ったと人を走らせたが、確認不足の別人だったと?」

「わざわざ来てもらってすみません、会頭」


 新しくやって来た口髭の男性に、報せたらしいロディが謝る。


「では、わしも自己紹介をしようか。テーセの商業ギルドのギルド長をしておる、ハイモという。街の者は会頭と呼ぶよ。それで、うむ。エイダくんとクライスの血縁は疑いようもないか」


 うーん、この人から見ても私はクライスとそっくりなようだ。


「しかし男女の双子は似ないものだと思ったのだが、君たちのような例もあるのだねぇ」

「魔女だと双子はたまに生まれるそうで、どうやっても魔法的な繋がりが生じる関係だそうです」

「ほほう、それは初耳だ。なんと言うか、顔やパッと見た雰囲気は良く似ているんだが、実際話してみると真逆だね」


 会頭さんの感想に、クライスを訪ねて来た三人が揃って頷く。


「実はクライスにこの店舗を斡旋したのはわしでね。呪文作りという稀有な技能は、この街ではとても有用だと思ったんだよ。だから、少々客の紹介もしたりね」


 そう言って、会頭さんはシドを見た。

 どうやら、クライスと彼らが出会ったのは、会頭さんの仲介が縁みたいだ。


「この店を貸すにあたってクライスには条件を付けたんだが、さて、どうしたものか」

「え?」

「それ今言います?」


 シドが呆れたように会頭さんを見る。


「店を好きにしていいと書き置きがあったのだろう? だったら、クライスは店の経営をエイダくんに任せたと見るべきではないかね?」

「う、うーん。確かにいなくなって一カ月経つし、そしたらノルマ未達成で家財道具没収になっちゃうけど」

「えぇ!?」


 私が驚きの声を上げると、エリーは真剣な顔で頷いた。


 それってどんな条件!?

 というか、そんなに帰ってないの?


「会頭、もう壊してしか入れなかったドア開けてくれてありがとうでいいんじゃないっすか?」


 あぁ、ロディが無情だ。


 それってここ撤収されちゃう?

 私、クライスの店を見に来たのに?

 いや、見たけど、けど、それは働くクライスとセットであって…………。


「確かにわざわざエイダくんを呼んで帰らないと言うのもおかしい。クライスは近く戻るつもりがあったんだろう。となると、予定にない問題を抱えて帰れない可能性がある」

「うーん、何処に行ってるかわかれば手伝いに行ってもいいけど」


 エリーはいい人なようだけど、誰もクライスが何処に行ったかわからないからどうしようもない。


「クライスの腕を見込んだわしとしても、単に没収では少々座りが悪い。そこでだ」


 会頭さんが私に向かって指を立てた。


「エイダくん、クライスが戻るまでの間、この店で留守番をしてくれないか?」

「え、いいんですか?」

「できれば仕事を請け負ってほしいところだが、君はクライスと同じように魔法が使えるかね?」

「無理です。すでにかけられてて、呪文がわかれば私でもクライスの魔法の再現はできるかも知れません。ただ呪文があって必要な材料は揃っていても、まだ呪文をかけられてない場合だと、たぶん私の力量が足りません。クライスは、本家で学んでたので」

「養子の件は聞いているよ。ふむ、力量に差があるのだね。となると、エイダくん。君は呪文作りができるかね?」


 なんだか会頭さんの目が鋭くなった気がする。


「一から、ということですよね? それならラスペンケルに生まれた魔法使いである以上できます」


 満足そうに頷いた会頭さんは、目元を和らげた。


「では、力量さえ追いつけばすでにあるクライスの呪文を新たにかけることは?」


 聞いた会頭さんよりも、成り行きを見ていた三人が真剣な目をしたことに気づく。

 正直、真剣すぎる視線が怖い。


 私の様子に気づいて会頭さんが三人に注意をしてくれた。


「これこれ、怖がらせてどうする。すまないね。クライスの作ってくれる呪文に頼りきりだったものだから」

「いえ、その、そんなに?」


 ここまで真剣になるほど、呪文作りって商売になるの?

 故郷では物々交換代わりに、ちょっとやってたけど。


「ふむ、エイダくん。魔法を使うには本人の持つ魔力、触媒となる杖や水晶、そして呪文だというのは知っているね?」

「はい。ラスペンケルはその呪文を独自に作れる家系ですから」

「そう、そこだよ! この国において呪文を一から作れるのはラスペンケルしかいない!」


 うわ、いきなり会頭さんのテンションが上がっちゃった。


 驚く私に、ロディがわかりやすく言ってくれる。


「魔力は自前、触媒はダンジョンや森に入ればいい。けど呪文は作ってもらわなきゃいけないだろ? ま、俺は魔法使えないから良く知らないけど」


 確かに適当な言葉だと、魔法は発動しない。

 魔力と触媒を繋ぎ、この世界に力として顕現させる呪文が必要になる。

 これは私も両親から習ったことだ。


「誰でもその呪文を使えば才能さえあれば魔法が使える。ただし、威力は本来出せる才能の八割であり、十全に才能を生かすならば自らに合った呪文を得なければいけないのだよ」

「まぁ、全力使いきって魔力枯渇起こしても駄目だから、八割って考えられてるなって思うんだけどね。けどやっぱり自分専用の呪文は使い勝手が全然違うの」


 会頭さんに続いてエリーが笑う。

 どうやらエリーは魔法が使えるようだ。


 シドは片手を挙げて室内に向けて振った。


「で、クライスがやってたこの呪文店は、魔法使えない奴でも使える呪文を一人一人に合わせて作ってたんだよ。魔法を込められる品物さえ持って来れば、魔法使えない奴でも使えるようにできる。そこが他の魔法使いたちの店とは違った」

「確かに魔力の器としての品物と、使用者を結びつける呪文があれば、本人に魔法の才能はいらないですね」

「できるのかね?」


 会頭さんが念を押すように確認して来た。


「は、はい。クライスがやっていたなら、技量さえ追いつけば」


 そこは魔法の力を融通できるほど近しい存在の双子。

 クライスができることは私にもできる。


「そうかそうか。クライスの魔術書は本人以外開けず、中も読めない文字だからな! 二度とどうにもできないかと」


 なるほど、なんでギルド長なんて偉い人がわざわざ足を運んだのかようやくわかった。

 クライスは役立つ魔法で店を持つほど認められたらしい。

 けれどその力は他では代用できず、クライスも突然の外出でなんの対応もしていかなかったようだ。


 双子の活躍が嬉しいような、無責任さが恥ずかしいような複雑な心境になってしまう。


「いきなり押しかけて悪かったね。君も長旅で疲れたろう? エイダくん、明日は午前中に商業ギルドへ来てくれないか」

「はい」


 立派な机の側の柱には、街の地図が張ってあるから道順はたぶんわかる。


「うむ。悪いようにはしないよ。君がテーセの街に寄与してくれるのならわしは協力を惜しまない」

「あ、私も困ったことがあったら言ってね、エイダ」

「俺たちはクライスとはダンジョンでの素材採集でパーティ組んでたりもしたんだ」

「衛兵だし、贔屓はできないけど助けが必要なら言えよ」


 エリー、シド、ロディもそう申し出てくれる。


 こうして突然の独り立ちに旅立ちの末、私はクライスが戻るまでこのテーセで留守番をすることになったのだった。


隔日更新

次回:二人分ありました

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