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27話:簡単なお仕事だそうです

 どういう成り行きか、私は薬屋から教会へと移動することになった。

 案内はその教会を任されているというティモニウスさん。

 司祭さんだそうだ。

 たぶんミサとか行う一番偉い人だよね。


「さ、ここが教会です」

「え、この壁の敷地ですか? 大きいですね」

「実は入り口、ずっとむこうなんですけどね」


 司祭さんがまるで着いたように言うけど全然まだらしい。

 ここはテーセの町の北。

 どうやら北門や冒険者組合がある辺りからは東に外れた一画だ。


「それだけ素直な反応だといいですね。クライスは不機嫌そうにするばかりで冷ややかな目を向けてくるんです」

「えっと、すみません?」


 謝ってみるけどなんか違う気がする。

 この人、別にクライスの嫌そうな反応が嫌いなわけじゃなさそうだ。


「あれ?」


 入口に向かって壁沿いに北へ私たちは移動している、はずだ。

 西門に近い薬屋から東に向かって進み、北に方向を変えて。

 なのにまだ入り口はない、というかこの造りって…………。


「入口が、壁を向いてる?」


 辿り着いた教会の敷地は正面を街の外壁に向けていた。


「この教会はテーセの街ができてから造られた物ですが、最も古い建物である修道院は元々テーセ村にあったのです。ですから入り口の向きがこのようになっています」


 どうやら教会が壁を向いているのはテーセ村に向いていた修道院と敷地を同じくするかららしい。


「本当ならここに東門ができる予定だったのですが。魔物の脅威を考慮して外壁を高く厚くするため、門を作ることは断念されました」

「え、だったらその時に入口を別方向にすることができたんじゃないですか?」

「いえ、すでに教会の基礎工事は終わっており教会の敷地を囲む壁も作ってしまっていたので。あ、裏口などはあるので不便はないですよ」

「じゃあなんで私こっちに案内されたんですか?」

「やはり最初は正面からでないとと思いまして」


 そういう拘りなのかな?


「裏口があると知らない人じゃないと表に回ってくれないんですよ」


 どうやら違うようだ。


 というかずっと何か悪戯の成果を窺う子供のような目の輝きがある。

 なるほどクライスが渋い顔をするわけだ。


「もしかして薬屋さんにも同じような悪戯仕掛けました?」

「おや、わかります?」

「あれだけ雑に追い払われてれば」

「いやー、一時期彼が仕込む試薬をお茶や無害な色水に入れ変えて飲んでたのがばれて以来ほぼ出禁です」


 わー、心臓に毛が生えてる人ってたぶんこういう人だ。


 私も試薬は飲みたくない。

 だからってあの勢いで喋る薬屋さん相手にそんな騙すようなことはできない。

 正直そう簡単に入れ替えを見逃してはくれないだろうし、こっちが何かを企めばそう簡単に見逃してはくれない気がする。


「さて、それでは改めまして。ようこそ、我がテーセ教会へ。魔女の血筋の方は違う神を奉じるとは聞きますが、我らの造物神はこの世界に生きる者ならば慈愛を持って受け入れましょう」

「あ、信仰は普通に国のものなのでお気遣いなく」

「そうなんですか? クライスくんは神など信仰していないと言ってましたが」


 ク、クライス。

 それはちょっと過激すぎるよ。


「まぁ、司祭さま。お戻りになりましたか。あら、そちらは…………」

「クライスの姉か妹か、ご兄弟のエイダくんですよ」

「そこのところ決めてないので、双子で通してます」


 入ってすぐに私と同じ年齢くらいの修道女が声をかけて来た。

 金色のふわふわの髪に、垂れぎみの目が私に対して見開かれてる。


 手には箒がありどうやら教会の入り口を掃除をしていようだ。


「まぁまぁ、初めまして。私はテーセ女子修道院院長(仮)のワンダと申します」

「かり?」


 なんか変な言葉が聞こえた気が?


「ワンダ、ダニエルは何処かな? 昨日、エイダくんとメンシェルの薬屋で会ったそうなんだ」

「そうなんですか? あら? 昨日ダニエルは街に出ていましたかしら?」


 ワンダが首を傾げる姿で思い出した。

 そう言えばメンシェルが、ダニエルは秘密の特訓で怪我をしたというようなことを言っていたような。


 ワンダが知らないなら、私と会ったことをダニエルが言ってないんだろう。

 なのになんでこの司祭さんは知ってるの?


「申し訳ありません。私、ダニエルが何処にいるかは」

「トビアスは知っているでしょうか?」

「どうでしょう。私は修道院のほうを捜してまいります」

「お願いしますね」


 司祭さんが片手を挙げて応じると、ワンダは私を見て微笑んだ。


「クライスさんがいなくてどうしようかと思っていました。お手伝いに来ていただけて嬉しいです」

「え?」


 私の困惑に気づかずワンダは教会の横手から奥のほうへと消えて行く。


 説明を求めて司祭さんを見ると、悪びれる様子もなく答えてくれた。


「実は頼みごとがありまして」

「わざわざ出禁の薬屋まで呼びに来たのわかってましたけど」

「おや、慧眼」


 いやいや。

 薬屋に行って何もせずに私を連れ出して、それでわからないわけがないでしょう。


「そんなに顔に出してまで警戒しないで。そうした警戒心はクライスと同じなのですね」

「あなたがあからさまに怪しい言動をするからですよ」


 なんでそこで嬉しそうにするの?

 あれ?

 薬屋さんよりこの司祭さんのほうが癖のある人なんじゃない?


「簡単なお仕事を手伝ってほしいだけなんですよ。それにダニエルが心配してたのは本当なので無事な姿を見せてほしいのも本当です」

「いえ、あの薬屋さんはそこまで危険なことなかったですよ」

「そうなんですよね。口は悪く何か危険があるのではないかと思わせる言動をするんですが、実際は普通に腕のいい薬師なんですよ。試薬も体質によって副作用が出るかもしれない程度で」

「そうなんですか?」

「はい。たまに無礼な冒険者に人間笑い袋と名付けた薬を飲ませて苦しませるくらいで」

「そう、なんですか…………」


 駄目だった。

 いや、薬屋さん的には自衛の範囲なのかな?

 笑って死ぬことはないだろうし。

 けどなんでそんな薬作ったの?

 あれ、やっぱり危険人物?

 いや、クライスが書いてたように奇人変人?


 私が混乱してる間に別の人物が現われた。


「やぁ、トビアス。ちょうどいいところに」

「司祭さま、とクライス! ようやく戻ってきたんですか!」

「あの、違…………」

「一カ月も何処に行っていたんです!? 誰にも行く先も用件も告げずに出て行くなんて自覚が足りなすぎます! 街の人間のどれだけが迷惑したと!」


 わー! この人そそかっしい!


 金髪で私くらいの年齢のトビアスという彼は、怒って早口に責めるばかりで話を聞かない。


「トビアス」


 司祭さんに静かにはっきりと名前を呼んだ。

 途端に直立不動になってしまった。


 え、なんだろう、この人?

 教会にも変わり者しかいないのかな?


隔日更新

次回:嘘はないそうです

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