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24話:ペンが駄目だししてきます

 私は薬屋から帰って、まず渡された素材を確かめる。

 アイテム図鑑を貰ってて良かった。


「この石、ダンジョンの素材なんだ。薬用マテリアル?」


 その名のとおり薬に使える素材で緑色の結晶のほうが薬用マテリアルと呼ばれているらしい。

 使うには研磨して緑色の結晶を触媒に魔法を込める。

 それで治癒魔法の威力が上がる護符ができるんだとか。


 ただ魔法使いや錬金術師が使うための説明はあっても、これをそのまま薬にするような記述はない。


「それでこっちの貝は湖で捕れると。青貝、青い色は湖底の藻類を…………、藻類のほうに薬効があるのかぁ。けど青い色が濃いほど藻類を食べてる証なら、薬効も凝縮してるってことかな」


 なるほど、これは確かに呪文作りで効果を取り出す必要がある。


「草は、ダンジョンに生えてるメン草と、あれ? 載ってない。けどこの形見たことあるな。あ、寒い時期でも取れるあんまり美味しくない野菜。え、これも使うの?」


 繊維が硬いし癖が強いからぐずぐずに煮てソースにしてたはずだけど。

 どう使うのか料理以外で思いつかないよ。


「よ、よし! 呪文だ。クライスが作った呪文があるって言ったし、次は魔術書調べよう」


 いきなり手詰まりになりそうで、私はともかくやるべきことをやることにした。


 ビューロを開いて魔術書を取り出したら、当たり前のように『自動書記ペン』が出て来る。

 私が机に広げた材料を見ると、見ると?

 目なんてないのにどうやって認識したの?


 なんで私が作りたい物知ってたみたいにペン尻でページ開くの?

 そして本当に四つの素材から効能を抜き出して作る状態異常回復の薬出て来たし。


「えー、体内に入った毒ならたいてい効く? 痺れや倦怠感、睡魔にも?」


 すごい薬じゃない。

 あれ? これって慰杯より大変な行程じゃない?


 四つの性質が異なる素材から効能を取り出すだけでも手間なのに、かけ合わせるまでに時間かけてられない。


「精製水も作るのに時間かかるし今からやっておいたほうがいいかな」


 私は店の中から素焼きの壷とガラス器具で作られた蒸留装置を探して、ダイニングテーブルに据える。

 外から水を汲んで来て、精製水作りを開始した。


「精製水はお父さんの手伝いでやったことあるからいいとして、えーと、必要量は…………念のため十個分精製水作っておこうかな? 余って困るものじゃないし、料理にでも使おう」


 次に必要な道具探しだ。

 青貝や草類は潰したほうが効能を取り出しやすいと書かれてた。


「すり鉢とすりこ木は複数あるね」


 青貝どうしようと思ってると、『自動書記ペン』がページを叩いて報せる。


 見れば注意事項を指してた。


「生の草は効能を十分に引き出すには、すり潰してすぐ効能を取り出すべき…………」


 つまり先にすり潰すのは青貝のほうがいいということらしい。

 失敗したらすり潰すところからやり直しになるようだ。


 面倒な腕試しを受けちゃったな。

 というか、面倒な行程だって知っててあの薬屋さんは私にこれを持ちかけた気がする。


「いやいや、これだけやることはわかってるんだから丁寧にやって行けば失敗はしないはず。ありがとう、ちゃんと全部読んでから作業するよ。これ、読みながらやるべきじゃない」


 『自動書記ペン』にお礼を言って、私は椅子に座ると魔術書を読む。


「なるほど。青貝は石の板の上でトンカチで割った後、飛散防止に麻布に入れてさらに粉にするのが必須か」


 探せば確かに石の台と鉄製のトンカチがあった。

 近くには麻袋もある。


「あ、このトンカチ威力強化の魔法がかけられてる魔法の道具だ」


 調べると持ち手の柄に魔具屋マールの文字。

 こんなの売ってるんだー。

 そりゃ、お世話になるよね。

 マールさんは錬金術師なのかな?


 そんなことを考えながら、無駄な力がいらないトンカチのお蔭で青貝は粉々にできた。

 目の粗い青い砂のようにも見える。


「すりこ木にも同じ魔法かかって…………ないかぁ」


 道具に頼ってばかりもいられない。

 ここは地道に腕を酷使しよう。


 私は眼鏡を外してまずメン草をしっかり見る。

 これはダンジョン産の初めての素材だし、ちゃんと薬効が出てるかなんとか読み取らないと。

 いざ! ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ…………。


「よ、よーし、これでこっちは大丈夫。効能が薄れる前に、野菜のほうも」


 ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ…………。


「精製水も一回分はできてる。魔法陣も大丈夫。呪文も…………あ、杖!」


 アイシクルスライムの杖で大丈夫かな?

 鑑定どおり氷特化の性能だ。

 地属性と思われる鉱石と、水棲生物、植物なら水と相性は悪くないはず。

 だけど温度変化に関係しそうな薬草も使うから正直何とも言えない。


「えっと、温度については…………書いてないかぁ。うん、これはやるしかない! なんか勢いでここまで用意したんだし、十回分貰ったし、まずは一回お試しだ」


 魔法陣は中央に円陣があり、その周囲に方形が描かれた物。


 方形の角にはさらに円陣が描かれ、中央には精製水。

 四方には素材を据える。


「気を付けるべきは、全て同時に精製水に入れること。過不足なく、適量を溶かし込むこと。けど、時間はかけすぎないこと」


 魔術書の注意書きを思い出しながら、私は杖を構えた。


「《望み誘う清けし旋律、全ての淀みを安息へ導け。慈母の抱擁デトクス・メディカ》」


 お、手応えあり!

 魔法陣に光が宿り、順調に起動していく。


 ほどなく魔法陣の四方で素材から引き出された効能が光りとなって精製水に半円を描き落ち始めた。

 音もなくただ静かに。

 けれど精製水の中で四つの流れが螺旋を描いて混じり合う。

 全ての効能が溶け込むと、魔法陣は役目を終えて光を失った。


「やった! 成功! ちゃんとできてる!」


 正直自信はなかった。

 素材を同時になんて初めてだし、まず扱うことさえ初めての素材ばかりだったから。

 けど道具は揃ってたからやればできるんだ。


 うん? 『自動書記ペン』が私の手をコツコツ叩いてる。


「できたよ。ちゃんとできてる。効能だって確かにあるの見ればわかるし。何? 机の上の紙?」


 メモ用の紙にはいつの間にか『自動書記ペン』が文字を書いていた。


「Cマイナス? どういう意味?」


 聞いたらさらにメモ用紙に文字が書きつけられる。


「…………中の下」


 何を指すかは、わかる。

 見てわかるよ、うん。私が今作った薬の品質だよね。


「け、けど、初めてならこんなものでしょ? 下の下、もしくは完全な失敗だってあり得たんだよ?」


 訴えてみるけど『自動書記ペン』は薬草をすり潰すためのすり鉢をペン尻で叩く。


「つ、作り直せって? えー? と、ともかくこの成功分は一度保存するから。ちょ、中身零そうとしないで! やるから! ちゃんと次も作るから!」


 結局、『自動書記ペン』からのお許しがでたのは十回目。

 貰った素材全てを使いきった時だった。


隔日更新

次回:褒められはしました

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― 新着の感想 ―
[一言] (。・ω・。)自動ペンのほうが優秀?いや、師匠?
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