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22話:薬屋へ行きました

 今日は初めての依頼です。

 と言っても呪文店とは関係ないものだけど、やっぱり初めてってどきどきする。


 私は朝ごはんにみたらしという物を食べて冒険者ギルドへ。

 もちもちした白い何かに甘辛いたれがかけてある香ばしい何か。

 うん、なんだろうこれ?

 美味しいからいいか。


「はい、こちらが依頼のお金。金額確認したらこっちにサインお願いします。…………はい、どうも。それで、お金を受領してもらったらこの受領書にサインをもらってね」


 五枚あるー。


「いってらしゃーい」


 私にお遣い依頼を勧めた男性のギルド職員はわざわざ外まで見送ってくれた。


 ここは街の北門近くで、薬屋は西門に近い。

 なので私は来た道を戻りつつ、あんもちなるみたらしに似たもちもちを食べた。

 こっちは完全に甘いけど、やっぱりなんだか香ばしい。

 なんだろうな、この白いの。


「うん、それにしても昨日上手くいって興奮してたんだろうな、私。軽い気持ちで受けるんじゃなかった」


 今さら後悔、というのもクライスが書いていたメンシェルという人物の評価を読んだせいだ。

 お客だったらしく、パーティごとの依頼票に書いてあった。


『いかれてる。だからこそ、こっちの常識や感情なんて無視して冷静な判断をする。冷静に、いかれてるんだ』


 正直会いに行くのが怖い。

 ちなみに研究家パーティに所属していてそこにもクライスの感想があった。


『このパーティは奇人変人しかいねぇのか!』


 そう思うならお客は選んでほしい!


「って言ってもしょうがないか」


 私は迷うことなくアーケード街近くの広場へ。

 ここは魔具屋マールがある場所で、実は同じく広場を中心にした店の並びに薬屋がある。


 薬屋の外見は住居一体型らしい三階建ての建物でドアは二つ。

 大きいほうが店のドアなのは見てわかる。


「まずはそぅっと」


 あ、開いちゃった。

 ということはいるのかぁ…………返事とかはないし、まずは拝見してみようかな?


 私は少しだけドアを開けて中を覗き見る。

 するとお店のカウンターにいた人物と目が合った、気がした。


「来たか、被検体!」


 つい思いっきりドアを閉めてしまった。

 すごく不穏なこと言われた気がする。


 あと髪の毛長すぎない?

 顔の半分確実に藁みたいな色の髪で隠れてたよ?


「おい…………?」


 中からドアが開いて、私はつい肩を跳ね上げた。

 けど出てきたのは丈夫そうなシャツとズボンの青年で、メンシェルと思しき人とは違う。

 金髪を活動的に短く整えていて、どう見ても体を動かす仕事をしてる人だ。


「あ、すみません。すぐどきます」

「え? あ、そうか。見た目そっくりな親戚が来たって言ってたな」


 どうやらクライスの知り合いで、私の対応で違うとわかったようだ。


「初めまして、エイダで」

「こら! もう用のない奴はさっさとかえりたまえよ。それは私の実験台だ!」

「じ、実験台!?」


 やっぱり店の中からとんでもない言葉が聞こえたよ!?


「せっかく来た客を、怯えさせるな! 薬屋はちょっと黙ってろ!」

「何を言うか、このブレブレ人間が! こそこそ練習しては無駄に傷を作って金欠のくせに私に感謝の言葉以外を投げつけるとは立場がわかっていないようだな!?」

「金欠は関係ないだろう!」

「赤貧が何を言う。金がないのに怪我をする。薬を買えないからここに来る。見栄を張るな!」

「だから、金は今関係ない! それと、赤貧じゃない、清貧だ!」


 なんだか、喧嘩を始めてしまった。

 薬屋の店主であるメンシェルが店の中から投げる言葉に、目の前の青年は簡単に煽られてしまっている。


「あの、大丈夫ですか?」

「いや、俺は大丈夫なんだが…………。別人なのになんだか変な感じだな。一応名乗っておくと、俺はダニエル。呪文作りを依頼したこともある」

「はい、私はエイダです」

「わかってる。それで何を、あ、他の奴の支払いか。薬屋に届けに来たんだな?」

「はい。冒険者ギルドに行ったらこの依頼を勧められたので」

「いつまで立ち話に興じるつもりかねー? ダニエル、君はこそ錬で抜け出し、無駄に怪我をした。それを隠すために私を急かしたはずではなかったかな?」


 店内からメンシェルが不服そうに声をかける。

 あまりメンシェルに強く出られないらしいダニエルは、一度迷うように私を見た。


「俺は、戻らなきゃいけない。…………いいか? あいつに出された物は何も口に入れるな。実験台にされるような言質を取られるな。できれば、実験台としての興味を持たれないことが肝心なんだが」

「えっと…………?」


 そんな人が店やってていいの?

 というか、そんな人を頼らなきゃいけないダニエルのほうが大丈夫?


 戸惑っていると、すごく不安そうな顔をされてしまった。


「く…………! 本当に中身は全然違うらしい。こんな純粋そうな者を、危険な場所に置いて行くなんて、俺は…………!」

「まーたブレブレか、ダニエル? 君は無駄に悩むだけ無駄なのだ! 無駄に無駄を重ねて時間ばかりを浪費する。時は金なり! 今なすべきことをすべきだと私は助言して進ぜよう」

「だからちょっと黙ってろ、薬屋!」

「黙っていてもいいがね、君は時間を無駄にして、結局何もできない、成し得ない。今も刻々と君は教会へ帰る時間が迫っている」

「う………!」

「あの、ダニエル? 私は大丈夫だから。その、忠告を守るよう、頑張ってみるよ」


 ダニエルは信じられないものを見るように私を見下ろす。

 何故か、通りがかった町の人まで足を止めて息を飲んでる。


 本当にクライス、どれだけひねた人間だと思われてるの?


「だが、俺は…………。やはりこんな子を置いて行くのは…………!」


 本当にこのダニエルは、時間がかかる人みたいだ。メンシェル風に言うと、ブレブレ。

 ここは私が動いたほうが早いだろう。


「じゃ、私は届け物するね。大丈夫。用事が済んだらすぐに出るから」

「あ…………。き、気をつけろよ!」


 私が店内に入ったことでダニエルも吹っ切れたようだ。

 それは良かったんだけど入っちゃったぁ。


 店内は案外普通で、薬類を置いた棚やカウンター、薬を調合するための器具が目につく。

 基本的に片付いてて怪しい雰囲気はない。


「ようこそ。さて、どっちの用件を先にするね?」


 店主のメンシェルは、カウンター越しに私を見る。

 見てる、よね?


 メンシェルは藁のような色の長髪を適当に結んでおり、目元は完全に髪で隠れてる。

 その髪の間からはモノクルが一つ見えており、無機質に灯りを反射してた。

 年齢はシドと同じくらいかな。

 でも纏う雰囲気は独特で、口元は笑っているのに楽しげな様子は微塵も感じられなかった。


「私は、冒険者ギルドの依頼で未払いの料金を払いに来たんです。他に、用件はありません」

「ほう? 早速ダニエルのグダグダな忠告を実践するかね。ふんふん。その小賢しさは生来の気質というところかな?」


 言いながら、メンシェルは私が持ってきたお金を指して、カウンターを爪で叩いた。


隔日更新

次回:腕試しをされるそうです

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