19話:冒険者でなくても使えます
砦に戻ると私たちに気づいたロディが驚いた顔をして駆け寄って来た。
「え、どうした?」
微妙に私と防具屋の三人の間に距離があるせいだ。
心配してくれるなんてそそかっしいけどいい人だなぁ。
「スライムが出て、運良く核片が落ちたんだけど」
って言ったらバッタみたいな勢いでロディが私から距離を取った。
あなたも嫌いなんだね、スライム…………。
「すぐ、すぐ洗って来い!」
「魔法で水は作ってもう洗ってあるよ」
指先で摘まめる程度の核片を出すと、ロディは直視したくないのか薄目で確かめる。
そんなことしてもスライムの核片はスライムの核片だよ。
「わかった、わかったから、さっさと持って帰るか冒険者ギルドに売り払ってくれ」
「私冒険者じゃないよ?」
「あー、ロディ。お前は仕事に戻れ。今日のことは俺らが引き受けたんだ。こっちで説明する」
ヴィクターさんが剣や盾を背負い直しながら言うと、ロディは頭を下げてそそくさと持ち場に戻った。
「すごい苦手なんですね」
「…………エイダ、そのブーツ、あげる」
「あ…………ごめん」
そう言えばエリーから借りたブーツでスライムを蹴っちゃったんだ。
謝ってもすごく首を横に振られる。
これは洗って返しても拒否されそうだ。
「せめて代金払うよ」
「いや、できれば代金分スライム退治してくれたらこっちは助かる」
シドが距離を保ったままだけどすごく真面目な顔で言った。
確かに苦手な魔物が減るなら安い物? なのかな?
「うん、わかった。スライム駆除頑張る」
「が、頑張りすぎなくていいから! スライム舐めちゃ駄目よ!」
今度はエリーがすごい勢いで止めて来た。
さっきまでスライムの核片を嫌がって近づいてもこなかったのに。
そこにヴィクターさんが補足してくれる。
「スライムにも種類がいて怪我する奴もいる。見つけたら数と種類しっかり把握して報告だけでもありがたいってもんだ」
なるほど。
確かに私は普通のスライムも今日初めて見た。
相手はどんな弱くても魔物なんだし、安請け合いは良くないんだ。
「じゃ、ついでだからその核片の売却の仕方も教えよう。レンズ茸もあることだし、冒険者ギルドの買取所行くぞ」
「私冒険者じゃないのに使えるの、シド?」
歩き出すシドについて行きながら、私はもう一度疑問を口にした。
「買取所は冒険者ギルドが運営してるけど冒険者じゃなきゃ使えないわけじゃないわ。それを言えば冒険者ギルドにある依頼もそう」
「え、そうなの?」
「依頼の中にはただのお遣いあるからな。ここじゃダンジョン目的の冒険者がほとんどでそういう依頼は誰も受けたがらない。だから依頼書に三角の印押されてる依頼はギルド所属でなくても受けていいんだよ」
エリーとヴィクターさんも教えてくれながら、私たちは砦から出て冒険者ギルドのほうへ向かった。
けどギルドには入らずその横の建物の階段をのぼる。
「一階は集積所で、商業ギルド関係者は一階のほうで持ち込まれた物品を買付することもあるわよ」
「エリーも使うの? じゃあ二階は?」
「買い取り専門で、常時三人以上の鑑定士が駐在してる。冒険者が多いから、商業ギルドのほうに査定に持ち込む奴もいる」
言いながらシドが扉を開けると、私は中の様子を見て商業ギルドに回る人の気持ちがわかった。
中にいる冒険者たちはなんだか近寄りがたい。
はっきり言って強そうだし何かの返り血みたいなのついてる人もいる。
「こちらへどうぞ。今日は非番だったはずですね。何が取れました?」
顔見知りらしくヴィクターさんへ手の空いた鑑定士が案内の声をあげた。
「二つあるんだが、まずは、な」
「あの、スライムの核片の査定をお願いできますか?」
ヴィクターさんに目で促されて出した途端、若い女性鑑定士が笑う。
「なるほど。何処で何体を相手にしたかを聞き取らせていただきます。査定は特殊個体でない限りは核片の重さを基準に状態も加味されます」
場所?
なんでだろう。
あ、スライムってダンジョンに出るんだっけ。
だったらダンジョンから多くの魔物が出てきたら危ないって聞いた。
スタンピードとかいう…………。
「はい、ではこちら銀貨一枚になります」
「え!? そんなになるんですか?」
「今スライムは討伐推奨モンスターとなっているので、核片を持ち込まれると報奨金を上乗せされます」
へー、行商相手に売るのとは全然違うなぁ。
「で、次はレンズ茸だ。これもこのエイダが見つけた」
「あら、大きくて立派!」
鑑定士のお姉さんはにこにこしながらレンズ茸の状態を目視で確認し、魔法をかけて念入りに状態を見る。
そして満足げに頷くと、査定額を差し出した。
「大銀貨一枚になります」
「…………えぇ!?」
驚きながらも受け取ったらなんだか鑑定士さんが見て来る。
「あ、もしかしてクライス知ってます?」
「申し訳ございません。不躾なことを。ただひとつお聞かせ願えるなら、その、いつお戻りかはご存じで?」
「すみません、それが本人置き手紙くらいしか残してなくて」
「いえいえ。こちらも期待が大きいので気がはやってしまったようです」
それだけ実力認められているってことなんだろう。
「お店の留守を任されたとか。今後ともよろしくお願いします」
「はい、ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
私たちのやり取りをなんだか他の職員の人が不思議なものを見たような顔で見てた。
そのせいで、私は買取所から出て思わず聞く。
「クライスってここでどれだけ素直じゃなかったんですか?」
言葉にしたら防具屋パーティの三人に笑われた。
「それはもう素直じゃないし、すぐに言い返してくるし、疑り深いし」
「まず笑い方が向こうは悪童みたいな顔なのにエイダは普通に笑うんだよ」
「双子でも暮らす環境が違うとここまでひねくれるんだと感心するな」
エリーとシドはわかる。
けどヴィクターさん何か違う気がする。
「確かにクライスは小さい頃から素直じゃないし、口数も多いし、うがった見方するほうだったけど」
環境については本人もよく文句を手紙で書いて来てた。
魔女にばれるとうるさいからって二人で作った言葉で便せんに絵を描くようにするという念の入れようで。
私が懐かしさに足を止めると、シドが声を上げる。
「よし、ついでだ。冒険者ギルドのほうも行こう」
「手に入れた素材、売るより依頼として渡したほうが高いことあるのよ」
そういうエリーに連れられて、私はそのまま冒険者ギルドに行くことになった。
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