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18話:行動不能なようです

 ダンジョンを内包するという山の中に、グローブウルフが三匹現われた。

 木々に紛れるのか緑がかった灰色の毛に覆われた魔物だ。


 エリーがまず駆け出そうとする三匹のうち真ん中の一匹に矢を当てる。

 吠えようとした口の中を射抜かれグローブウルフは、甲高い悲鳴を上げて動かなくなった。


「行くぞー」

「もう少しやる気出してくれよ、叔父貴」


 間延びしたヴィクターさんの掛け声にシドが苦笑いしながら駆け出す。

 攻撃の気配にグローブウルフは逃げずに身構えた。


 シドのほうが早くグローブウルフに近づき牙の迎撃を受ける。

 予想していたように迷いなく身を翻してグローブウルフの横に回り込むと、シドは首に鉈を叩きこんで一撃で下した。


「すごい…………」

「グローブウルフはそんなに耐久性高くないからね。これが毛皮が刃を通さないウルフ系になると魔法が必須の相手なんだ」


 私を守るように立つエリーが説明してくれるけど、なんだか顔が照れくさそう。

 兄が褒められて悪い気はしないってところかな。


 遅れてグローブウルフに接近したヴィクターさんは、走り込む敵を避ける。

 その間に前足、胴体、尻尾と細かく斬撃をいれて攻撃をしていた。

 必殺の攻撃ではないものの、的確に入れられた刃でグローブウルフは動けなくなったようで地面を滑る。


「ほい、終わり」


 倒れたグローブウルフに素早く止めを刺してヴィクターさんが気負いなく告げた。


「エイダ、魔物の処理の仕方教えるぞ」

「は、はい!」

「いきなり? もう少し慣れてからでも良くない?」


 ヴィクターさんの言葉にエリーが反対の声を上げる。


「いや、歩き方からして相当山に慣れてるし、こいつらの死体もそんなに気にしてないだろ」

「山に野生動物の死体はたまにあったので」


 お父さんが取って来た鳥をお母さんが家で捌いていたこともあった。

 そこは田舎ならではの野趣といいますか。

 ここの街のようにすでに加工された肉があるわけではない田舎なもので。


「若いからこいつら魔石はないな」

「エイダ、ウルフ系の魔物は心臓近くに魔石があるの」


 シドとエリーも私に解体に必要な知識を教えてくれる。

 それぞれが手際よくウルフを解体してみれば、言うとおり魔石はなし。


 あれば冒険者ギルドが買い取ってくれるそうだ。

 小さくても魔物の体内で固形化した魔力は人間では作れないものだから。


「で、死体を放っておくわけにはいかねぇ。処理方法は場所によりけりだが、森の中だ。穴掘るか」

「それなら私ができます」


 これくらいはしないとね。

 ごみ処理で穴掘ることは山でもしてたし。


 私は手頃な地面に杖を向けてちょっと考える。

 この杖でも属性の相性としては大丈夫なはず…………。


「《愚者の道行きピットフォール》」


 呪文は詠唱部分と発動部分に別れる。

 今私が口にしたのは発動部分。

 自分の中で呪文が定着し、一定の精度を獲得すれば詠唱部分を省いても魔法は発動させられる。


 だいたい適当に呪文を作る時には詠唱部分だけで呪文効果を探ってるので、まさか勝手に呪文の名前をつけられて魔術書に書き込まれるなんて思わなかった。

 そんなことをした『自動書記ペン』は既存の呪文には反応しないという、妙な賢さを発揮して大人しい。


「お、案外深いな。これなら三匹放り込んでもまだ空きがある。血の付いた土も入れちまおう」

「けど兄さん、これって穴を埋める土はどうするの?」


 私が魔法で穴を作っただけなので、掘り出した土なんかはない。


「土を消失させたんじゃないんで、近くに土の山ができてるはずです」

「こっちにあるな。内側から盛り上がったみたいになってやがる。魔法の痕跡だと知らなけりゃ、モグラの魔物でも出て来る寸前に見えるぜ」


 ヴィクターさんが見つけて、みんなで穴を埋めた。


 その後は魔物と出会わず、私たちは目的地に着く。


「やっぱりまだ実ってないね。星屑ベリー」

「だが、季節外れだからこそ、薬草の類は摘まれず残ってるぜ」


 エリーとシドが素早く辺りを見回して採集可能な物を見定めて行く。


 ヴィクターさんは水割りのお酒の入った水筒を片手に辺りを警戒していた。


「見える範囲に魔物はいねぇ。エリー、採集の仕方教えてやれ」

「はいはい、叔父さんは飲みすぎないでね。エイダ、この薬草は葉っぱがいるんだけど傷むから茎ごととって。これは花の部分だから上のほうをぷちっと摘んで」

「エリー、効能も教えてやれよ」

「ううん、シド。それは帰ってから自分で調べて学ぶよ」

「おー、やっぱりエイダは素直。これがクライスだったら自分でエリーに文句つけてるぜ」

「え、本当? ごめんエリー」

「エイダが謝ることじゃないよ。それにクライスにせっかちって言われるのも合ってはいるから」


 そんな話をしながら目に見える範囲の質の良さそうな薬草を摘む。

 量は求めてないから籠の半分も埋まらなかったけど気にしない。


 採集も終えて帰りを考えだしたころ、星屑ベリーの藪の下から草の音が立った。

 明らかに生き物の立てた音で、防具屋の三人はすぐさま武器を構える。


「ずいぶん低いな。何が…………いや、まさか!」


 ヴィクターさんが声を引きつらせるほどの強敵!?


 けど私からは三人の背中しか見えない。

 と思った途端、エリーが震え上がった。


「ぴゃーーーー!?」


 高周波!? すごい悲鳴上げたよ!


「エリー!? どうしたの、エ…………シ、シド!? え、大丈夫!?」


 慌ててエリーに手をかけると隣でシドが小刻みに震えて白目をむきそうになってる。


「ヴィクターさん!?」

「最悪ださいあくだ…………。エイダ、任せられるか?」


 ヴィクターさんまで弱腰!?

 いったいどんな凶悪な魔物が!


 ヴィクターさんが下がって私にも星屑ベリーの根元が見えた。

 そこには半透明でてらてらした表皮の魔物、スライムが顔のない表面に私たちの姿を反射させている。


「…………あ、はい。うん、二人頼めますか?」

「大丈夫か? なんだったら今すぐ逃げるぞ、いや、俺としては逃走推奨だ!」


 スライム一匹相手にそんな大げさな!

 ヴィクターさんもギリギリみたいだし、本当に苦手なんだなぁ。


「大丈夫で…………えぇ!?」


 跳びかかって来た!?

 山のスライムは雪の下から跳びかかって来てたけど、ここでは茂みの下なんだ!


 私は反射的に山で培った前蹴りをスライムにかます。

 スライムは避けもせず私に蹴られ、そのまま地面に激突して動かなくなった。

 というか、破裂した。


「え? スノースライムより柔い。あ、スライムの核片出ましたよ」


 振り返ると三人揃ってこっちを見ないようにしてる。

 これはたぶん核片拾うのも嫌がるよね。うん、私が拾おう。


 けどここのスライムすごくネバネバしてるなんかやだな。

 一回魔法で作った水で流そう。


「水で洗いましたけど、どうします? 核片」

「「「どうぞ、お納めください!」」」


 差し出した途端叫ぶように言われる。

 絶対触りたくないという確固たる拒絶を感じた。


隔日更新

次回:冒険者でなくても使えます

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