17話:連携ってすごいです
「よーし、それじゃ山行くぞー」
ヴィクターさんの号令で私たちは山のほうへと移動を始めた。
どうやら防具屋パーティのリーダーは年長のヴィクターさん。
さっき腰のボトルからお酒飲んでたみたいだけど大丈夫かな?
「ちょっと待って、叔父さん! 息がお酒臭いよ!?」
「また飲み水の代わりに酒持ってきたの!?」
あ、駄目みたい。
「おいおい、俺を甘く見るな。…………ちゃんと水割りを持ってきた」
「「だから!?」」
やっぱり駄目みたい。
「ちょっと休みますか?」
「気にするな。こいつらが大袈裟なんだよ。だいたいこの辺り、数はいるが強い個体はいない。ある程度倒せば警戒して近寄ってこなくなるから初心者向けだ」
つまりヴィクターさんは中級者以上の実力?
確かに持ってる剣と盾は使いこんだ形跡がある。
お酒を持ってきてしまうくらい緩いところはあるけど実力がないわけじゃないようだ。
「えっと、だったら何処か採集ポイントってありますか?」
「まずエイダがこういうパーティでの行動に慣れてほしいからな」
「そうね。一応ポイントを決めて歩きながら、都度気になる素材あったら声をかけて」
シドとエリーの言葉に頷いて、私は早速素材図鑑で見た草を見つけて声をかける。
私が足を止めて採集する間、三人は周囲の警戒をしてくれた。
本当に私のお守りのために来てるってわかる。
これはちょっと本気出したほうが良さそうだ。
眼鏡をずらして辺りを見回すと一カ所違和感を感じた。
「あとは、…………そこの茂み確かめていい?」
「そこ? 何があ…………あー!? レンズ茸、なんでこんな所に?」
危険確認のため、エリーが武器を構えて探った途端声を上げた。
「ほぉ? ダンジョン外でか? しかもこんな誰でも通る登り口に?」
「珍しい物ですか、ヴィクターさん?」
「これは鉱物に寄生する茸で、この傘の部分を上手く加工すると質のいいレンズになるんだ」
シドが手早く擦りガラスのような茸を採集して説明してくれる。
一度土を掘って、寄生してる鉱物ごと採集するのがいいらしい。
「長く誰にも見つからなかったからだいぶ大きいぞ。こりゃいい値で売れる。しまったな。あるとわかってれば綿とか持ってきたのに」
「傷ついたら品質が落ちるの? 手ぬぐいにくるんで、私が持っておこうか」
私は戦闘では役に立たないし、一番激しく動く予定がないから傷つかない可能性は上がるはず。
「じゃ、エイダお願い。幸先いいわね。人がいっぱい出入りしてる所はその分レア物なんてないんだけど」
エリーが元気に山道を登る。
ある程度緩やかでもそれなりに高さのある山で、木が茂ってる分見通しも悪くペース配分が心配になった。
ただ周りを見れば、エリーの言うとおり道沿いには採集の痕跡が残ってる。
さっきみたいなラッキーはそうそうないようだ。
「良くわかったな、エイダ」
「私、目はいいんで」
ヴィクターさんに答えると、シドが首を傾げた。
「眼鏡なのにか? そう言えばクライスも同じこと言ってたな」
魔眼のことは言ってないけど目がいいとは言ったのかな?
「道なりに行ってもただの散歩だ。そろそろ外れようぜ」
「ここから外れるなら、星屑ベリーの群生狙いかシド?」
「まだ早いんじゃない、兄さん?」
行く先を決めたシド曰く、あったらラッキーくらいなものだそうだ。
するとエリーが私に目的地で採集できる物について教えてくれる。
「星屑ベリーは流れ星が落ちた場所に転がってた石に似た形をしてるからそういう名前らしいの」
「石に似てるの? ベリーのジャムは好きなんだけど、硬かったりする?」
「ラズベリーなんかと同じような物よ。ただ、粒を噛むと口の中で弾けるの。煮崩しちゃうと弾けなくなるから、生で食べるわ」
ちょっとそれは興味がある。
「あれ気つけにいいんだよな。パチッとして」
「子供の頃口に放り込まれた時は叔父貴を怨んだ」
ヴィクターさんとシドが思い出話でそんなことを言う。
どうやら私の想像する以上に刺激があるようだ。
「甘いタルトの上に飾りつけるのがお勧めかな」
「え、美味しそう」
「でしょ? もう男どもは気つけとかそう言う話じゃないのよ。エイダ、次はおすすめのお菓子屋さん案内してあげる」
「是非!」
思わず二人で手を取り合う。
こういうの初めてだ。
まず山にはお菓子屋さんなんてない。麓の町にもない。
そして何より私をこういう風に誘ってくれる歳の近い少女はいなかった。
私が七つまでクライスとだけ遊んでいたせいもある。
その後は家の手伝いがある年頃なので、山頂近くだと距離と時間の問題で遊びに行くような暇はなかった。
だいたい畑も広くない村では仕事を継げない子供たちは、生活を安定させるため早めに麓の町に奉公に出る。
そこからさらに大きな町に奉公に出て行く子も多かった。
「お、そこに生えてる草取ってみろ。薬になるぞ」
「これですか? …………臭!?」
「叔父さん、悪戯しないの。エイダ、それ確かに薬になるけど独特の臭いがあるのよ」
「揉んで疲れた足に貼ったりすると疲れは取れるんだが臭いがなぁ」
どうやらこの辺りでは馴染みのある薬草だけどその分問題もある物らしい。
確かに青臭さと独特の苦いような重くしめった臭気が、摘んだ茎から発している。
「…………つまり、この草の薬効だけ取り出して別の物に定着させられればいいですね?」
「自信ありげだな。本当にこれの臭いどうにかできて薬効同じなら俺の職場で買ってやるぜ」
「叔父貴は立ち仕事だもんな。臭いどうにかできるなら俺も腕につけたい」
「人前に出るからこの臭いがしてるのはね」
そう言えば聞いてなかった。
ヴィクターさんの仕事なんだろう?
防具屋を親から継いで二人がやってるなら叔父のヴィクターさんは別の仕事なのかな。
立ち仕事って言ってたけど、やっぱり職人さん?
聞こうとした時、ヴィクターさんが片手を挙げた。
それだけでシドとエリーが会話をやめて武器を手に取る。
私は突然の雰囲気の変化に戸惑うしかない。
「何が…………」
「しっ」
聞こうとしたらエリーに止められた。
エリーは弓に矢を番えながら私のほうにじりじりと後退する。
その間にヴィクターさんが二度同じ方向に指を振った。
それに合わせてシドが鉈を構えてヴィクターさんの左に並ぶ。
「グローブウルフだ。三匹の群れだな。まだ若い。こっちが武装してるなんてわからないやつらだ」
どうやら魔物を見つけたらしい。
私から見ればちょっとした動きなのにシドもエリーも即座に反応している。
「エリー、真ん中撃ち抜け。シドは命中を見てから左な」
「了解」
「はいよ」
ヴィクターさんも迷いのない指示に、気負わず返事する二人も頼もしい。
パーティでの行動って、こういうことのようだ。
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次回:行動不能なようです




