14話:またお昼を奢られました
商業ギルドへ行った翌日、私はお昼時にエリーとシドが営む防具屋にいた。
若い兄妹二人でやっているには大きなお店で、一階は店舗兼工房、二階から上が生活空間。
一部吹き抜けでお店に来客があってもすぐわかるようになっていた。
「広い家だね。シドって結婚してるの?」
「いや、親から継いだから大きくて部屋が余ってるだけだ」
エリーがお昼を作ってくれてる間、私たちは二階のダイニングで雑談をしてた。
けど話題の振り方を間違えたようだ。
この若さで両親亡くして店をやってるなんて。
謝ろうとする私に気づいて、シドは悪戯に笑う。
「だから、まだ店持ってなかった時にはクライスを居候させてたんだぜ」
「え、そうなの? クライス手紙でそんなこと全然」
「俺も手紙で一言報せとけって言ったんだけどな。店持ったら呼ぶからその時直接紹介するって言われてたんだよ」
「もう、なのに本人いないなんて」
「だよな」
とはいえ、そんなこと聞いたんじゃ、クライスがいないなんて理由にならない。
私はシドに向き直った。
「クライスがお世話になりました」
「いいよ。あいつの力見てこっちから打診したんだ。ただの革の鎧じゃ他と競合しててな。俺らは村からの職人だったけど、外から腕のいい奴らはいくらでも入って来る。ちょうどテコ入れが必要だって会頭にも相談してて…………」
そんな話しをしてるとエリーの声が飛んで来た。
「できたよー。テーブルに運ぶの手伝って!」
「「はーい」」
私はシドと一緒に火からおろされた鍋の中身を深皿に移していく。
「今日は芽キャベツのスープと、塩蔵魚のペースト、丸パンね。エイダと回った市場にいいのがあったんだ」
「肉ないのかよ」
「兄さんいつもそれなんだから」
「夕食用にって、ヘシルツォ買ってたよ」
私たちは両手に料理を持ってそれぞれテーブルに並べる。
今日はエリーがテーセの案内を買って出てくれた。
生活していくために必要だろうと市場を案内してくれた上に、こうしてお昼までごちそうになる。
「一つの街に市場が三つもあるなんて驚いたよ」
「基本的に門から真っ直ぐ行ったところにあるからわかりやすいだろ?」
「北門、西門、南門。それぞれの門から入って来る食料品がメインだから品揃えだいぶ違うしね」
見たことない食べ物もあって、私は魚から攻めてみることにした。
「う、このペーストしょっぱい」
「あー、エイダつけ過ぎよ」
「なんだ、初めて食べるのか? こうしてパンにほどほどつけるんだよ」
南門は湖が近いことから魚類が多く、その他に畑も近いそうで生の野菜が並んでいた。
西門は商人の持ち込んだ食料品やそれを加工してすぐに売る惣菜、北門はダンジョンが近いことからモンスターの肉が売ってあった。
「エリー、このスープすごく美味しい。芽キャベツってこんなに柔らかいんだね」
「たぶん今年最後の芽キャベツだと思ったから買っちゃった。次は寒い季節待たないと」
「そう言えば、クライスが昔住んでたところは雪深い山の上だって言ってたな」
他愛もない話をしながら食事を終えて、私は食後のコーヒーまでもらってしまう。
「コーヒーって輸入物で高くないの?」
「これ、お貴族さまに売る分の残りとか、焙煎失敗とかを詰めたやつなの」
「それに商人は毎日出入りするからある程度値段は抑えられてる」
「すごいね。二カ月に一回しか商人来なかったよ、私の住んでたところ」
それはそれとして疑問が浮かんだ。
「なんで貴族がこんな所に? ダンジョン怖くないの?」
「理由はいくつかあるが、一番はダンジョンの掘り出し物を一番に手に入れるためだな」
「貴族の中ではここ肝試しスポット扱いでね。ダンジョンに入らなくても、テーセに行ったとか言うだけで話を聞きに人が集まるんだって」
「へー」
そう教えてくれるシドとエリーの表情から、住人としては面白くない感情が読み取れる。
けどそのお蔭でお金と商品が回るので、たぶん商売人には悪くない話なんだろう。
「あ、そうだ。会頭からエイダがダンジョン行きたいって言ったらついて行ってやってほしいって言われたけど、行くのか?」
シドの確認に、私はすぐには答えられない。
「エイダがクライスの代わりに依頼受けてくれれば安心なんだけど。ダンジョンってそれなりに覚悟いるしね」
エリーは理解してくれるけど、なんか嫌な予感がした。
「もしかして、二人もクライスに依頼放置されてる?」
二人そろって頷かれちゃったよ。
「ただ俺らのは珍しい魔物が出たら一緒に討伐してくれってやつでさ。魔法使える奴が一人増えると楽になるんだ」
「クライス皮はいらないでしょ。だから他の素材を回せば私たちが皮を丸々もらえる約束だったの」
業種が違うから欲しい素材が被らなくて、円満に素材回収ができるということらしい。
「その様子だと、行く気はあるのか、エイダ?」
「マールさんっていう人の店に行って、そこで話を聞いたらダンジョン行かないと売り物の方向性も決められないだろうって」
「あー、そうだよね。結局ここで店をやるならダンジョンの様子知らないと行き詰るかな」
エリーは言いながら心配そうに私を見る。
「何か魔物って倒したことある?」
「冬場にスライムが出るからそれを…………」
「「スライム!?」」
シドとエリー揃って声を裏返らせた。
どころか見る間に肌の見える部分に鳥肌が立ってる。
「あ、もしかして苦手?」
二人そろって激しく首を縦に振ると、兄妹で顔を見合わせた。
「これは逆に需要あるか?」
「そうね。スライムはできれば駆除してほしいし」
何やら二人で頷き合う。
「スライムの駆除って? 山だと子供が遊び半分に追いかけて踏みつ」
「待って! やめて! 想像したくない!」
「ご、ごめん」
エリーの悲鳴染みた拒否に、よほど苦手なんだと嫌でもわかる。
シドが息を整えて私に説明してくれた。
「ダンジョンの中にもスライムが生息する場所があるんだ。ただテーセにはスライム苦手な奴多くて、あんまり商品としては出回ってないんだよ」
「需要は、あるんだけどね。けど素材だとしても触りたくないって人いて、もちろん討伐なんて無理」
「エリーたちも?」
頷かれる。
これはそうとうだ。
「スライム倒せて、その素材扱って、売り物作れる奴がいるならそれはそれで助かる。どうだ、エイダ? 一度俺たちとパーティ組んで採集からでも行ってみないか?」
「私たち叔父さんも入れて三人でパーティ組んでるの。いきなりダンジョンの中は危ないだろうから、まずはダンジョンの山裾あたりで採集してみるのはどう?」
そこにも稀にスライムが出るらしい。
なので、いたら倒してほしいとのこと。
両親に一度聞いたことあるけど、冬の山に出て来るスライムは有名なスライムよりも硬いんだとか。
つまり、冬場に駆除してたスライムより耐久の面では弱いはず。
下手したら蹴りで倒せるかもしれない。
それなら平気、かな?
「それくらいなら、うん。こちらこそお願いします」
頭を下げるとシドとエリーは胸を張って請け負ってくれる。
まずはダンジョン外周で採集することに決まった。
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