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10話:ダンジョンを勧められました

 会頭さんにお昼を奢ってもらってギルドに戻る。


 そしてまた説明、サイン、説明、サイン、説明、サイン、説明、サイン…………。


「よしよし、これであの『ラスペンケル呪文店』の代理人としてエイダくんが動ける」

「は、ひぃ…………」

「魔法関係の店舗は管理責任や定期整備、査定なんかでどうしても代表者が必要になっててね。全てクライスになっていたから、今のままだと半年に一回の査定さえ責任者不在で不認可になるところだった」


 説明されても半分もわからないや。

 お店をするって大変なんだなぁ。


 会頭さんはアンドレアさんに書類を預けて代わりに私が持ち帰る控えの分を封筒に詰めてくれる。


「これだけのごり押しがとおるのも、エイダさんがいてこそですね」

「ここまでそっくりだと誰も血縁関係を疑えもせんからな」


 笑い合う会頭さんとアンドレアさん。

 よくわからないけど無理をして私に店を任せてくれたらしい。

 これはへばってもいられないか。


「あぁ。もちろん、クライスの今までの貢献があったからこそ、あの店の存続に協力してくれる者たちがいたことも付け加えておこう」


 会頭さんは穏やかに笑ってそう言ってくれる。


 ただクライスが認められてることは嬉しいけど、それを任されるのかぁ。


「何か疑問があるかね?」

「いえ、私で務まるかと思ってしまって」

「力量に差があるということだから、焦って無理な依頼を受けることはない。できないことはできないと言ってくれて構わないよ。ただ、可能であればクライスの呪文を扱えるようになってほしい」


 それは最初にも言われたことだ。


「もしかして、クライスが放っておいた依頼の中に、会頭さんに引き渡し寸前のものがあったり?」


 聞いて返ってくるのは苦笑だ。

 たぶん肯定なんだろう。


「い、急いで取りかかって」

「いやいや、必要な素材が揃っていないんだ。ダンジョンの奥に住む魔物や、開花を待つダンジョン特有の花なんかでね。どうしても時期を待つ必要のある物だったから。本人が戻って来て取りかかってくれるのが一番さ」


 それって、手に入ったらすぐにってことだよね。

 呪文自体ができてるなら順次手に入ってから行程を進めて行くつもりだったのかもしれない。

 となると、物が手に入ればクライスを待っていられないような作業が必要なのかも。

 私にできればいいけど、けどダンジョン、ダンジョンかぁ。


「その、私、ダンジョン行ったことなくて…………」

「だろうね。思うにダンジョン産の素材にも不慣れではないかな? だとしたら、やはり無理はいけない」

「そうですね。力量が追いつかないのに無理に呪文をかけても素材が勿体ないですし」


 私は答えつつ、勿体ない素材をの使い方をした杖を触る。


「エイダさん、その杖の鑑定に伴い査定金額がこちらになります」


 アンドレアさんが上品な革張りのトレーに乗せて一枚の紙を差し出した。

 どうやら価格や性能が書き出してある鑑定書らしい。

 A~Fの六段階評価が項目ごとに割り振ってあった。

 どうやらこの杖、見た目どおり刺突武器としての性能もあると備考欄に書いてある。


 一番高い評価項目で魔力容積B、一番低い評価項目で柔軟性Eだ。


「つまり、大魔法には耐えうるけれど、氷属性以外を使うと途端に性能が悪くなる?」

「概ねあっています」


 さすが素材任せ。

 素材の属性に完全に傾いている。

 これは癖が強い。お父さん辺りが見たら眉を顰めるくらい使い勝手が悪い。


 そして販売想定価格という欄が目に入った。


「んん? …………あの、これ桁間違いじゃ」

「まさか。属性さえ合えば、魔法使いならもう一桁増えても欲しがる者はいますよ」


 え、えー?

 道具って使いやすいことがいいんじゃないの?


 書かれているのは銀貨換算で四百枚。

 つまり金貨で二十枚?

 朝ごはんの包み焼きは銅貨五枚で、あの包み焼きが…………。


「八百個買える?」

「何で計算したかは知らないが、まず使った核片がこちらでは決して手に入らない物だからね」


 扱える者もいない素材の分上乗せされてるらしい。


 けど待って待って。

 地元だとアイシクルスライムの核片、金貨一枚でそれだけで冬の大きな収入だったのに。


「それだけの武器があれば、ダンジョンでの採集も可能かな」

「ギルド長、気が早いのでは?」

「あぁ、そうだね。すまんすまん」


 アンドレアさんに窘められて会頭さんが気恥しそうに謝る。

 なんだかずいぶんダンジョンを勧められるなぁ。


「あの、危険な場所に街の人が行く理由ってなんですか?」


 クライスとパーティを組んでたというエリーは、私よりいくつか上くらいの少女。

 お兄さんと店をしているのなら危険に飛び込む必要はなさそうなのに。


「一番は買うより安いからな」

「このテーセでもですか?」

「うむ。販売に出る物は確かに定数を持って仕入れているから常に店頭にある。だが、最低限の処理や品質の選抜がされている分、手間と料金がかかっているのだよ」


 なるほど。


 私が頷くとアンドレアさんが続ける。


「その反対に、ダンジョンで自ら採集するなら、処理や品質を選別する手間はありますがお金は護衛をしてくれるパーティ分になります。ただ、職人同士で採集を目的に行く場合、あらかじめ決めておいた素材を融通することで依頼料代わりにすることも良くある話ですね」


 さすがダンジョン街。

 そこでお店を開く人たちも本当に取れたらもうけものくらいの勢いで行くようだ。


 聞けばクライスが作った杖の試運転をしていたようなことも話してくれる。

 防具屋の兄妹は防具の試しに行くこともあるそうだ。


「危険を取るか、お金を取るか。手間を取るか、時間を取るかということですね」

「クライスは知らない素材が多すぎると、自分の目で見ることを優先していたよ」


 会頭さんの話には納得する。


 魔眼で見れば知らない素材でも用途の見当がつく。

 何があるかわからないからまず行って確かめるほうが早いこともあったんだろう。


「うーん」


 けど怖い。

 私にはスライムを蹴るくらいしかできない。


「戦闘に不慣れなら無理をすることもない。ただ、その氷属性の杖ならちょうど効果覿面な場所があってな」

「あそこは水だと逆に固まってしまいますからね」


 テーセのダンジョンには水より氷が有用な場所があるらしい。


「興味があるなら一度冒険者ギルドか砦で説明を聞いてみてもいいだろう」

「砦ですか?」


 そう聞いたら持って来ていた地図を広げるよう指示された。


「ほら、北門の所は突出しているだろう? ここは北門を出るとすぐ砦に通じている。砦を通らなければダンジョンに行けないようになっているんだ」


 ダンジョンへの出入りは砦の衛兵が管理しているのだとか。

 衛兵は民間人を兵として街が雇っており、青い革鎧が目印だそうだ。


「ロディのような気さくな者が多い。行って聞いてみるだけでも大丈夫だよ」


 うーん、これは。

 もしかして私にクライスのようにダンジョン行ってほしいのかな?

 困ったなぁ。


隔日更新

次回:ダンジョンも美味しいですか?

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