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侍女達の内緒話

【Side 複写の青年】


 竜の襲撃が終わってから、数カ月。

 街そのものには未だ消え切らない傷が残っているものの、ようやく人々の心には平穏が戻りつつあった。

 だから休日の街の喫茶店には気の緩んだ侍女が集まっているし、そこそこ彼女らと仲がいい俺も一緒に茶を飲んでいる。


「カーレクティオン様とオルガネーゼさん、本当に付き合ってないんですって」

「信じられないわね」

「まだその話してるんですか」


 ここ数週間で何回聞いたか分からない話しに、さすがに飽きてきて苦言を呈した。

 今一緒にいるのは王城の倉庫掃除で一緒になった面子であり、またオルガネーゼさんと買い物したグループでもある。

 なんとなく集まるので今日もそんな感じだが、ここしばらくはずっと話題が似たり寄ったりだ。

 とはいえ苦言を呈する理由は、何度も聞いたからだけではないのだが。


「同じ話だってするわよ、だって信じられないじゃない!」

「そうよ、あの二人が付き合ってないなんて!」


 俺の一言に今まで別の方を向いていた侍女達が、こちらに向き直って一斉に反論する。

 女性というものは一つ言葉を返すと、何倍にもして返してくるのが恐ろしい所だ。

 そして俺は、そういうものに勝てた試しがない。


「というかあなたの方はもう諦めちゃったの? あの時、結構押せ押せだったのに」

「付き合ってる訳じゃないから、チャンスない訳じゃないじゃん?」


 あっという間に俺を取り囲んだ侍女達は、俺を逃がす気など到底ないのだろう。

 その証拠に各々紅茶を手にして、長時間喋る格好をとっている。


(そこまで彼女達が僕に執着しているのは、僕がオルガネーゼさんをデートに誘おうとして失敗しているからだ)


 彼女とは、倉庫掃除の後も少し親交があった。

 そしてそれは、自他共に認める下心のあるものでもある。

 おかげで、侍女達の近くにいれば必ず話に巻き込まれる事になってしまっている。

 けれど。


「オルガネーゼさんの様子を見たら諦めざるを得ませんでしたよ」

「オルガネーゼさんの様子?」


 僕が諦めて口を開くと、まともに取り合われると確信した侍女達が顔を近づけて聞いてくる。

 各々愛らしい人なのもあって、男としては嬉しくなる気持ちもある。

 だが話題が話題なせいで、全体の気持ちとしては落ち込む一方だ。


「竜が襲撃した時です。僕達と一緒にいた時は半狂乱でしたけど、あの人の所に戻ったら」

「落ち着いていたわね」

「……そうです」


 竜を見たオルガネーゼさんは、良く分からない言葉を泡の様に呟いて気絶した。

 僕も何度か彼女を正気に戻そうと話しかけたりしたのだが、少しも役には立てなかったのが現実だ。

 それなのに。


(カーレクティオン様の下に戻った彼女は、彼の指示を受けて動ける程に回復していた)


 みんなで集まって竜退治の会議をした後、オルガネーゼさんは一人で動き回っていた。

 あの時は時間が解決したと言えるほど、竜襲撃から時間は経っていなかったのにも関わらずだ。


「それにいつも張りつめてるような目が、ちょっと緩むのよね!」

「私なんてこの間、オルガネーゼさんがカーレクティオン様をからかってる所見たわよ!」

「うっそお!」


 そして僕の考えを補強するように、侍女達がそれぞれの視点から見たオルガネーゼさんとカーレクティオン様を披露していく。

 分かっていた事ではあるが、失恋に近い経験をした身としてこの状況はそれなりに辛い。

 そして気安い関係の自分に、仲間からの優しい気遣いは掛けられない。


「あとカーレクティオン様も随分変わられたわよね」

「オルガネーゼさんと一緒にいるようになって、王城にいる時間が増えたし」


 侍女達の言葉をぼんやりと聞きながら、俺は声には出さずそっと頷く。

 同意するのは癪だが変わったのはオルガネーゼさんだけではなく、カーレクティオン様もだ。


「あの人、噂でしか聞いた事なかったもんな」


 今まで静かにパフェを食っていた同僚の男も、のんびり話に加わってくる。

 彼の言う通り、オルガネーゼさんが倉庫番になるまでカーレクティオン様はあまり倉庫には戻ってきていない。

 それに元王族とは思えない醜聞の山に、元王族を貶めたい新聞社かどこかの嘘情報だとすら思っていた人も珍しくはなかった。

 だから未だにあの竜退治をしたり、オルガネーゼさんに優しく接する彼が信じられなくもある。


(けれど、両方事実だ)


 王都から竜を退散させ、オルガネーゼさんを色々なものから守っている。

 そしてその事は、もう周知の事実でもあった。


「それにオルガネーゼさんがあの人について動いてる時って、カーレクティオン様を信じてるって感じが凄いのよね」

「確かに、あんな信頼感見せられたら割って入るなんてできないわ」


 そんな度胸もないけどね!

 そう笑う彼女達を止める事は、俺には一度としてできていない。


「フルフェルト王子の時もあぁじゃなかったし」

「仲良さそうでもなかったものね」


 他にも侍女達は様々な男達を引き合いに出して、オルガネーゼさんと並べていく。

 だがやはり、あの二人ほどうまくいきそうな相手は見つからなかった。



「きっと、あの人じゃないとダメなのよ!」



 誰かが叫んだその言葉にきゃあ、と再び年頃の少女達の声が上がる。

 こうなったら今までの経験上、店が閉まる直前まで彼女達は話し続けるだろう。

 今日は全員買い物が終わっているので、後の予定に追われる事もない。


「まあ、なんだ。ヤケ酒には付き合ってやるよ」

「……頼む」


 未だパフェを食いながら軽く肩を叩いてくる同僚の男に、俺はため息混じりに返事を返す。

 直接振られた訳ではないが、それよりもずっと敵わないような状況だ。


(オルガネーゼさんが、カーレクティオン様の権力に惚れてる訳じゃないのは分かってる)


 カーレクティオン様の権力は王子でなくなった今も絶大だが、それがなくても彼女は彼の元から離れないだろう。

 僕も別に詳しくはないが、オルガネーゼさんが王子の婚約者候補から外れた後のいきさつは聞いている。

 だから彼女がどうしてカーレクティオン様を慕っているか、という理由は見当がついていた。


(それにあの二人は、一対の翼だ)


 片方だけではうまく機能しないが、二つ揃えばどこにだって行ける。

 もっと言えば、二人で並んでいる姿がしっくりくるのだ。

 そしてその光景は、他の誰かでは作り上げる事ができない。


(あとカーレクティオン様は、オルガネーゼさんを不幸にはしない)


 女性関係の醜聞が絶えない元王子は、現在周りが見て分かる程に己の倉庫番を溺愛している。

 それが恋愛感情なのか否かは、誰にも分からないが。


(オルガネーゼさん、いつの間にか好きだったなぁ)


 失恋に等しい感情が、今になってじわじわと己を蝕む。

 手が届かない、今になってそれが実感を持って襲ってくる。

 そんなはずはないのに、王子の婚約者だった時よりも遠い存在になった気がする。


(複写魔法で頼られて、一緒に喋ったりして)


 あの乱闘騒ぎのような倉庫掃除を捌いた彼女は、魔法がほとんど使えない。

 だから僕のような大した魔法でないものを、すごいものだと言って頼ってくれた。

 その合間に少しだけ話して、他愛もないけど楽しい時間を過ごした。

 この人と、もっと一緒にいたいと思った。


「けど、あの人じゃないとダメなんだろうなぁ」


 何とか勝算を探して働かした頭が出した答えは、先程の侍女達の言葉と何ら変わりはない。

 その事実に再び落ち込みながら、俺は本日何度目か分からない溜息を吐いた。

これにて「異世界転生させられたあげく婚約破棄されたので、倉庫で生きていきます!~雇い主はクズ錬金術王子~」完全完結となります。

この作品を気に入って頂けたら、評価などをして頂けるとありがたいです。


ここまでお付き合いくださいました皆様、本当にありがとうございました!

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