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追われた地位と守ってくれる場所2

「では、お休みをいただきます」

「あぁ」


 主人の許可を得て、布団代わりのグリフォンの毛皮を被る。

 適度に安物の毛皮を探していたら、いつまでも寝ない私に業を煮やしたカーレクティオン様が投げ渡した物だ。


(下手な貴族より贅沢しているわね)


 倉庫に放置していたものとはいえ、高級品として扱われるそれは暖かく柔らかい。

 そんなものをただの倉庫番である自分が使ってしまっていいのか考えはするも、最終的にはカーレクティオン様が投げ渡したのだからと考えるのをやめた。

 ちなみにその本人も、倉庫の適当な場所で寝ている。


(結局彼の言う楽しみは分からなかったわね)


 彼と私が寝る段階になっても特に何も起こらず起こさず、だ。

 下手な事が起こるよりは遥かにマシだが、何もないとそれはそれで気になるもので。


「心配ならこれもくれてやる」


 なかなか寝入る様子のない私を見かねたのか、カーレクティオン様が今度は私に首飾りを投げ渡した。


「守り石、ですか」

「ああ、ないよりはマシだろう」


 前世のゲームで見たとおりのそれは、やはりお守りとして扱われるものだった。

 前世と違うのは、実際にそれが効力を持つものであるという事。

 鑑定スキルを持っていないのでどの程度のものかは分からないが、それでも。


(確かに安心して寝れるわ)


 心情的に、何もないよりずっといい。

 それを首にかけ、今度こそ毛皮に包まるとカーレクティオン様も適当な場所に横になった。


「あぁそうだ、お前は襲わないから安心しろ。俺は豊満が好みだ」

「そうですか」


 主人の性癖を適当に聞き流して、今度こそ就寝する。

 特にカーレクティオン様も真面目に取り合って欲しい訳ではなかったのだろう、何か言ってくるでもなく寝息が聞こえるだけだった。


(ま、何もないならそれがいいわ。何を考えているかは分からないけど、カーレクティオン様のあてが外れたのかもしれないし)


 そう思って、目を閉じたまでは良かったのに。




「きゃあああああああ!」

「な、何!?」


 まだ朝ではない、真っ暗な中で飛び起きる羽目になった。

 まだ来て間もない場所の為、照明のある場所すら分からず暗闇の中で困惑する。


(若い女の子の声だったけど、誰!? っていうか灯り灯り!)


 手探りでなんとか見つけた魔石灯をつけ、周りを見渡す。

 すると少し離れた場所で主人が侍女を剥いているのが見えた。


「えっ!?」

「ん、起きたのか」


 想定外にもほどがある光景に、思わず大声が出る。

 だがその声に振り向いたカーレクティオン様は少しも動じていない。

 これはどういう状況なのだろうか。

 私が彼の楽しみを邪魔してしまったのだろうか、それであれば邪魔者は撤退しなければならないが。


「た、助けて!」


 どうやら合意ではないらしい。


「何してるんですか!」

「いってぇ!」


 近くにあった一角獣の角でカーレクティオン様を殴る。

 さすがに目の前で女の子が襲われているのを見逃す事はできない。


「何って、夜這いを受けているが」

「違う!夜這いじゃないの!」

「話が噛み合ってないじゃないですか!」


 飄々とした主人、半裸で泣きかけている侍女、どうすればいいのか分からない私。

 しかし彼女は本当に何をしにきたのだろう。

 王城にいる人間は貴族の関係者で構成されているから、盗みではないと思うのだけれど。


「なら何なんだ、自分で言ってみろ」


 カーレクティオン様がそう侍女に促すと、侍女は震える声で話し出した。


「わ、私、聖女様の命令であなたを襲いに来たの」

「……なるほど」


 思わず出たため息と共に、納得する。


「やっぱりな、食堂の事を聞いて予想はしていたが」

(だから私にここで寝る事を許したのね)


 何かにつられたのか、単純に逆らえなかったのか。

 どちらにせよ聖女に命じられた時点で彼女に逃げ道はなかったのだろう。

 そういう意味では責める気になれない。


「しかしこうなったら元を断つしかないな」

「元、というと聖女様ですか」


 確かにどうにかすべき元凶は聖女であるフィーカだ。

 だが彼女は現状、王族と同等かそれ以上の権力を持っている。

 フルフェルト王子も彼女の言いなりだし、私にはできるできない以前に方法が思いつかない。

 だがカーレクティオン様は迷う事もなく、言い切った。


「そうだ。雇い主は部下を守る義務があるからな、しばらくは適当に黙らせてやる」

「あ、ありがとうございます」


 これは本当に思っていた以上にいい雇い主かもしれない。

 そう思いながら、私はカーレクティオン様に頭を下げる。


「あぁ、それとお前はもう行っていいぞ」

「は、はいっ!」


 投げ捨てるように解放された侍女は、荒らされた服も大して直さずに部屋から出て行く。

 まあ自分を襲った男と同じ部屋で悠長に着替えを直す気にはなれないだろうけど。


「あの姿で戻る、っていうのはちょっと可哀そうな気もしますね」

「だからいいんだろう、あの姿を見ればこっちに手を出そうとする輩もそうそう出まい」

「その為にやったんですか?」

「半分な」


 なら残りの半分は単純に自分の楽しみのためだろう。

 結果として自分は救われたので文句は言わないが。

 彼が事前に手を打ってくれなかったら、それこそ何をされたのか分からないし。


「じゃあ今から出かける。一応鍵は掛けていくし、今晩はもう大丈夫だろう」

「あ、はい。行ってらっしゃいませ」




 そしてカーレクティオン様の言葉通り、次の日から嫌がらせがなくなった。


「昨日、何をしたんですか」


 悩み事がなくなったの自体には感謝している。

 けれどそんな一夜にして鎮めるために、どんな手段を使ったのかが分からないのが怖かった。

 普通の手段であれば、普通は噂になっている。

 だがそれが全く聞こえてこないという事は、何かしら人に言えない手段を使ったと考えるのが妥当だ。


「お前は聞かない方がいい」

「やっぱり言えないような事をしたんですか」


 問い詰めるほどの圧は掛けないけれど、食い下がってみる。

 彼は自分を助けてくれる人ではあるが、じゃあ聖人かと聞かれたら全く頷けない。

 昨日の事を含めれば、悪人寄りといっても問題はないだろう。

 そして彼は、それを否定しない。


「錬金術師として、倉庫番に嫌われたくない。第一、いじめは落ち着いただろう?」

「そう、ですけど」

「じゃあいいだろう」


 そう言ってカーレクティオン様は話を断ち切る。

 確かに彼の言う通り問題は解決してる、が。


(後から何かなければいいけど)


 思い過ごしならいい、けれど妙な胸騒ぎがこの胸の中から出ていく事はなかった。


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