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それぞれの結末と、始まる物語2

 追放されてから、ずっと気になっていた事だ。

 フィーカがフルフェルト王子の婚約者になって久しいが、ほとんど仲睦まじい所を見た事がない。

 それどころか、雑に扱っているような感じすらある時もあった。


(けれどふとした時にぞんざいに扱っているだけでは出てこないような言葉を聞く)


 だから不思議だったのだ、彼らの関係性が。

 もう聞く機会はないと思っていたが、その好機は予期せずに訪れたのでこの際に聞いてしまおうと思う。

 そして聖女との関係を問われた王子は、少し戸惑ったように時間を掛けてから答えてくれた。


「恋愛感情はない。ただ、友だったのだと思う」

「友、ですか」


 フルフェルト王子は、きちんと答えを出してくれた。

 けれど彼のの言葉に納得しきれずに、今度は私が言葉に詰まってしまう。


(恋愛感情がない事は、なんとなく察していた)


 一番最初に私を追放した時の理由も感情からではなく、聖女の発言だからと言っていたのは覚えている。

 けれど「友」、というのは想定外だった。


「君にとっては、とんでもない事だろうけどね」


 そんな私に、彼は告白の様に自らの過去を話し出す。

 それは今まで、私達が婚約者となっても明かされなかった彼の気持ちの話。


「繋がりに関して言えば、お互いを利用したに過ぎない。けれど彼女だけなんだ。私の醜い部分を見破り、否定しなかったのは」


 昔を思い出すように、遠くを見つめるフルフェルト王子の表情は柔らかい。

 どこか懐かしむような視線に、少なくとも彼にとってそれは悪い思い出ではなかった事が窺えた。


「利用していただけだけだとしても共に悩み、手を貸してくれた」


 フルフェルト王子はそこまで言うと、私と視線を合わせる。

 真正面から見える瞳は、今までのどれとも違う後悔と申し訳なさの混じり合ったものだった。


「君にとっては救いようのない愚か者だろうけれどね」


 彼の、ずっと抱えていた自己評価。

 最初から自分でも分かっていたのだろう、私に不義理を働いていたのは。


(そして分かっていたからこそ、彼は私に何かと交渉しようと努めてきた)


 今となって分かった事だが、それでもこれは得られた事の一つだろう。

 だって今まで分からなかった事が分かって、彼の事もどういう人か一片でも知る事ができたから。


「いえ、安心しました。あなたが情を傾けられる人がいて」


 私はそういうと、王子に少しだけ微笑んで見せた。

 けれどそれを見た彼は、私とは反対に意味が分からないと困惑を顔に滲ませる。

 それがなんだかおかしくて、今度は少しだけ笑い声が口から漏れてしまった。


 だって今日の王子は、出会ってから今日までで一番表情豊かだ。


「どうして、君はそのせいで蔑ろにされたのに」

「あなたはいつも一人に見えましたから」


 隣にいても、離れても。

 私は最後まで、彼の悩みを見抜く事すら出来なかった。

 そんな人間が、例え婚約者であろうとフィーカに叶わなかったのは納得できる。

 彼が私を追放したのは、確かに情のない行動だった。

 けれど同時にフィーカに情を傾けた心情に対しては、心が理解を示してしまう。


「私にとってのカーレクティオン様のような存在なのでしょう、彼女は」

「そう、だ。その通りだ」


 自分で言いながらも、確かめるようにフルフェルト王子は言葉を繰り返す。

 恋ではない、けれど他に替えが効かないくらい大切に思ってしまう存在に彼は慣れていない。

 今までそんな人はいなかったのだろうし、私だってカーレクティオン様に出会うまではそんな感情があるだなんて考えもしなかった。


「あれで良かったんだと思います。あのまま行ってもきっと私達、幸せになれなかったでしょうから」

「……申し訳ない」


 最初から詰んでいた私達は、逃げ回ってようやくお互いの運命の人を見つけた。

 それはやっぱりお互いじゃなかったけれど、でもそれが正しかったのだと思う。

 そして周りに誰もいないという事もあるが、フルフェルト王子は私に頭を下げた。

 本来肯定するには不誠実だが、彼にはもうその真実を覆す事はできない。

 けれど、それは私だって同じだ。


「私こそ、不甲斐ない婚約者で申し訳なかったです」


 だから私も今までの様に形だけではなく、心から頭を下げる。

 フルフェルト王子はそれを見ると、一瞬寂しそうな顔をした後に息を吐いた。


「オルガネーゼ。君は今、幸せかい?」

「はい」


 頭を上げて、迷いなく答える。

 嫌味などではなく、本心として。

 そしてそれが伝わったのだろう、フルフェルト王子も穏やかに笑った。

 その顔は、憑き物が落ちたように晴れやかだった。


「そうか、なら良かった」


 祝福する彼に、もう焦りなどは感じられない。

 それを見て私は、前に話した時に出せなかった答えを遂に見つけた。


(やっぱり彼は今まで重責に潰されていたから、おかしくなっていたのね)


 彼は本来、思慮深く相手を思いやれる人だった。

 それができなくなっていたのはてっきり聖女に誑かされているからだと思っていたが、違う。

 思い返せば、彼がおかしくなったのは婚約破棄の少し前。

 カーレクティオン様が、城に帰ってきたと噂されていた時からだ。


「私はこのまま何も起こらない治世を続ける、他でもない兄が認めてくれたから」


 彼はもう自分の立ち置に劣等感を持っていない。

 今まで衝突を避けていた兄と対峙して、結果は散々だっただろうけど得たものがあったから。

 勝ちたいと願っていた人から、そのままでいいのだと伝えられたから。


「償い切れない罪を犯した、それは許されるものではない」


 守るべき国に竜を招来させる手伝いを行い、罪なき英雄達の命を間接的に奪った。

 その主犯格として、彼は法で裁かれる事はなくとも背負っていくのだろう。


(彼も、私達と同じで清廉潔白ではない)


 けれど、どうしようもない悪というまでの人ではない。

 罪は犯したが、きっともう同じ事はしない。


「だから己の責務を果たし、その後はここからフィーカと離れる。そしてそこで、彼女が一番でなくても安心できる場所を作ろうと思う」


 それはフルフェルト王子の、今まで報いてくれた聖女への救済案だった。


「私はどういう形であれ彼女に救われた、だから今度は私が報いねば」


 フルフェルト王子の視線が、城の奥にある窓に向けられる。

 恐らく、あそこに彼女が匿われているのだろう。


「じゃあ今度こそさよならですね、フルフェルト王子」


 きっと私達は、今後二度と深く話す事はない。

 だからこそ、全てが終わったこの時に彼の気持ちを聞けて良かったと思う。


「あぁ、さよなら。オルガネーゼ」


 それを最後に、私達は別方向に歩き出す。

 もう交わらないだろうけど、それでいい。

 きちんと話す事は、できたと思うから。



「君が幸せになる事を、祈っている」





「終わったか」


 一連の話を終えて倉庫に戻ろうとすると、少し離れた場所にあった東屋の影からカーレクティオン様が出てきて飛び上がる。


「聞いてたんですか」


 一体いつから、と思ったものの彼の事だから大部分を聞いているのだろう。

 問題にならなそうだったから出てこなかっただけで、たぶん大きくは外れていないはずだ。


(それとも、また自分が出て行ったら喧嘩になると思ったのかしら)


 変に繊細な部分があるカーレクティオン様の事を考えると、あながち外れてもいないような気がする。

 もちろん私もカーレクティオン様と口論する気はないので、黙っているが。


「話しを聞く羽目になったのは、お前が戻って来ないからだ。でも、アイツの話が聞けて良かったのも確かだ」

(この人も大概不器用ね)


 ぼそぼそと言い訳の様に弁明する彼に、そう思ってしまう。

 懐に入れない人間に対しては散々な扱いをする癖に、一度そうなってしまった人に対してはとても慎重になる。

 けれどまあ、そういう所が彼の可愛げではあると思うが。


「そうですね」


 だから余計な事は言わずに、肯定する。

 確かに彼が弟の思いを聞けたのは、良かった事であると私も思うから。

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