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それぞれの結末と、始まる物語1

 王都全体を巻き込んだ騒動から、数カ月後。

 のんびり紅茶を飲みながら、私はカーレクティオン様と話している。


「あれからフルフェルト王子は、静かに仕事をしているんですね」

「あぁ。特に問題もないし、やはり統治にはアイツが向いてる」

(この人、案外弟に甘いわよね)


 返された彼の言葉に、思わずそんな言葉が喉元まで出かかってしまう。

 だってどういう理由があれ、フルフェルト王子は竜を国に招き入れる手伝いをした大罪人だ。


(とはいえ私もその恩恵にあやかっているから、口を出す事はできないけれど)


 その依怙贔屓体質を全力で受けている私には、何も言う資格はない。

 むしろ私の方が、その恩恵に多くあやかっているのだろう。

 彼らが不仲になっている間に、カーレクティオン様の隣に一番長くいたのは私なのだから。


「そういえば、聖女はどうしたんだ」

「称号と籍を正式に剥奪されたそうです、もう予言はできませんからね」


 フィーカは国から聖女の称号を与えられていたが、その理由は予言ができるからだった。

 そして私たち転生者はその予言に該当する知識を、自分が行ったゲーム知識として持っていた。


(だから最終イベントが来てしまえば、その後の事は何も知らないのよね)


 そしてフィーカは竜を退治せずに逃げてしまった事を、予言の力がない証拠として他者に扱われてしまった。

 今まで予言の力があるからこそ、聖女は存在を認められていたのだ。

 だから彼女は当然の結末として、追放刑を言い渡された。


(けれど竜を招いた罪に関しては、王子ともども問われていない)


 あれはフィーカが引き起こした、明確な罪だ。

 けれどそれを知っているのは私達だけで、私達はその首謀者の名前を最後まで明確にはしなかった。

 理由は彼女を断罪すれば、フルフェルト王子の責任も問わなければならないから。


(ここに来て、変える首もないだろうし)


 正確にはあるのかもしれないが、私も彼ももうあれ以上騒ぎを大きくする気はない。

 カーレクティオン様はあの調子だし、私もこれ以上問題を起こさないのであればいいと思っている。

 他の罪に関しては、部外者ではなく当事者が裁くべきだろう。


「じゃあ聖女は、いつかのお前と同じく追放か?」


 そして話をしたついでと言わんばかりの適当さで、カーレクティオン様が私に問う。

 彼としては、ほぼ確認に近い問い掛けだからだろう。


(だから彼がそう聞くのも、無理はない)


 この世界で、女一人で生きていく方法は限られている。

 私みたいな状況の方が珍しいのだ、女性にこんな自由が与えられている方が。

 けれど今回の彼は、珍しく答えを外している。


「いえ、追放はされていません。城の奥にある一室で療養しているそうです」


 神を召喚した後に心神喪失状態になった彼女は、王妃としての役目を全うできないと判断された。

 だがこれまでの聖女としての功績を讃え、療養という形でフィーカをフルフェルト王子が保護したらしい。

 竜イベント以外にもある戦争イベントでその知識を生かし、被害を最小限に食い止めたという理由付けで。


「甘いな」

「そうですね、身内に甘い所は兄弟だなと思います」

「、げほっ」


 自分には理解できないと言わんばかりに白々しく首を竦めるカーレクティオン様に耐えきれず、私は茶化し返す。

 すると飲んでいた紅茶が変な所に入ってしまったらしく、彼は後ろを向いて滅茶苦茶咳込んだ。


「……そうだな」


 ようやく咳から解放されたカーレクティオン様が、なんとも苦い表情で頷いてきた。

 否定しない所を見ると、どうやら自覚はあったらしい。


「それにしても聖女様に対して、随分素っ気ない反応ですね。弟と違い過ぎるいうか」

「そういう関係だったってだけだ」


 やっと落ち着いたカーレクティオン様の声には、やはりフィーカに対する情といったものは感じられない。


(そういう意味では、彼女にとって王子は救いかもしれないわね)


 フルフェルト王子は、彼女を見捨てなかった。

 どういう理由かは分からないが、これ以上傷つかないように彼はフィーカを保護している。

 噂によると彼自ら食事を持っていったりと、甲斐甲斐しく世話をしているのだとか。

 けれどその事実はフィーカだけではなく、実は私にとっても救いになっていた。


(だってそれは彼が変わったという事だから。それにカーレクティオン様も、少しだけ変わったし)


 彼は相変わらず錬金術で生計を立てているが、今までとは少し違う内容で動いている。


(あの竜退治から彼の事が知れ渡って、街の人から依頼が入って来るようになった)


 主に竜に壊された街の修繕を行っているが、それ以外にも薬を作ったりと結構精力的に働いている。

 とはいえ未だに怪しげな場所に入り浸っているし、普通に朝帰りもしているが。


(なら、私はどうなのかしら)


 各々の結末に思いを馳せて、最後に自分へ辿りつく。

 正直、私は変わった場所が思いつかない。

 未だに一人でできる事は少なく、カーレクティオン様に依存している部分が多いから。


「ところで、もう素材は来たのか」


 茶菓子を漁る手を止め、ふとカーレクティオン様が聞いてくる。

 それを聞いて私も思い出す。

 今日は別の地域に頼んでいた素材が届く日だが、まだ回収が出来ていなかった。


「あ、確認してきますよ。私も気になりますし」


 素材は箱で届くはずだが、私が持ち運べない程重いものはなかったはずだ。

 あれならカーレクティオン様に頼まないでも、自分で動かせる。


「じゃあ頼む」


 中身を思い出した彼も同意見だったのだろう、特に何を言うでもなく私を送り出した。




 外に出て、生垣のある庭を通り過ぎようとする。

 すると食事を載せた盆を持つフルフェルト王子と、鉢合わせた。


「「あ」」


 一瞬また待ち伏せかと考えたが、反応を見るに完全に偶然のようだ。

 現に彼は所在なく視線を彷徨わせ、こちらを見ようとはしていない。


「……失礼する」


 そして、こちらにも話しかける用事がないのが分かったのだろう。

 軽く頭を下げて、背を向けようとする。

 けれど去ろうとするフルフェルト王子の背中に、私は声を掛けてみた。


「あの、一つ聞いていいですか」


 無視されるかと思ったがそんな事はせず、彼はきちんと私に体を向けてくる。

 けれど未だに、視線はまっすぐこちらに向かない。


「何でも聞くといい、オルガネーゼ。君にはその権利がある」


 私と同じ場所に立ったフルフェルト王子は、やはりカーレクティオン様に比べると華奢に見える。

 ただでさえ男性としては小さく、女としては大きい私と並ぶとより明確に強調される。

 そして最後に見た時より、痩せたように感じた。

 けれど私はそんな彼に容赦せず、ずっと気になっていた事を問いかけてみる。


「では、あなたにとって聖女様はどんな存在でしたか」

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