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端役の王子と、存在し得なかった聖女3

 人間程度の存在ではどうにもならない、それしか頭に浮かばない。

 何とか何でもいいから打開策を考えようとしても、もう諦めろと頭が拒否する。

 まるで考える力を、上塗りされてしまったかのようだ。


(何も手立てが思いつかない、降臨したら終わりの存在。こんなの、どうしろっていうのよ)


 少しずつ、けれど確実に降りてくる指を私は見る事しかできない。


(終わりだわ)


 唐突だけど、きっとこれが世界の終わりだ。

 今は一部しか見えていないあれが完全にこの地に姿を現した後、そこには何も残っていないだろう。

 物理的な破壊ではなく、根源的な存在から破壊を成す者。

 本能で分かる、あれはそういうものだ。


(私にできる事は、一つもない)


 その事実に、もはや立つ気力もなく床に膝をつく。

 目は空に縫い付けられたまま、立つ事すらできない。


(何をしたって無意味なら、立つ必要だってないもの)


 結局私は彼女に勝つ事はできなかった、それが事実だ。

 逃げた先の幸福ですら、彼女に奪われる。


(自分なりに、頑張ったつもりだけど)


 彼女の執念のような努力には、勝てなかった。

 聖女とはいえただの少女が、最後は神まで召喚した。

 そんな彼女と比べれば、私の努力などないも等しいのだろう。



(けど、それが何だっていうのよ)



 彼女の努力に、私は関係ない。

 彼女がいくら不幸だろうが、私まで不幸せになる必要はないはずだ。


(死ぬ間際だからかしら、今になって逃げ続けていた事が溢れてくる)


 じんわりと、滲む涙と一緒に流れてくる。

 これは死への恐怖から来るものではなく、自分の気持ちから逃げていたツケだ。

 それを考えるべき段階は、とうに過ぎてしまっているのだけれど。


(でも、それでも諦めたくないのよ)


 溢れてきたものが、そのまま私の心を壊していく。

 今までなら飲み込んでいた、見ない振りをしていたものが、ここに来て私を駆り立てる。


(だって、まだ生きていたい)


 単純な生理的欲求だけではない。

 もちろんそれもあるけど、それだけじゃない。


(あの場所に、帰りたいから)


 最初は成り行きだったけれど、私を救ってくれた場所。

 度重なる出来事のせいで随分とぼろぼろになり、それでも未だ崩れ去らない帰るべき場所。

 そして、カーレクティオン様と一緒に居られる場所。


(……あ)


 そして私は思い出す。

 走馬灯の様に流れ始めたカーレクティオン様との記憶の一つに、私を慰めるだけではない光を。


(あれは、泉で見た光だわ)


 そこら辺で拾った、けれど邪神を倒してしまった棒切れから放たれた光。

 紛い物ではあったものの、神をも滅ぼし尽くす強い輝き。


(そうだ、相手が神だと言うのなら)


 記憶の中で瞬くそれに、希望が掘り起こされる。

 もしかしたら、望みはまだ残っているかもしれない。


(だって私も、カーレクティオン様と神に相対している)


 要素は、対象のものが経験した事から付与される。

 それなら、諦めるのはまだ早い。


(もちろん勝算は低いけど)


 そんなの、いつもの事だ。

 いつだかのカーレクティオン様を真似て、自分を説得する。

 すると勝てなくとも最後まで戦える、少なくともその手段を取る自信にはなった。


(幸い神はまだ、完全に降臨してはいない!)


 地に着けていた足を引き剥がして、役割を果たした一つの門の前に近寄る。

 その門は散々燃え尽くされ、今にも倒れそうな大樹のように見えた。


(よし、この枝は折れるわね)


 焦げた土の門から飛び出す枝を、体重を掛けて折る。

 そして燻っている火の門に近づき、その中から力を失った宝石を取り出した。

 神を召喚したせいで余力のない聖女は、それを見ている事しかできない。


「今更何をするつもり?」

「無駄かもしれませんが、悪あがきを」


 枝に宝石を括りつけて、神に向けて構える。

 カーレクティオン様が、邪神に立ち向かった時の様に。


(私もあの時、杖に手を添えていた)


 ならば、私にもあの要素が残っているのではないだろうか。

 仮定ではあるけれど、試してみる価値はあると思う。


「≪ 射出 ≫」


 邪神を退散させた光景を思い描いて、それを真似してみる。

 そこから飛び出したのは泉で見たものよりも、遥かに細い光。

 いっそ絹糸のように、繊細にすら見える。

 けれど即席で作られた杖先から、確かにそれは発射された。


(どうか、届いて)


 祈りながら、伸び続ける光の先を見届ける。

 そしてそれは、ゆっくりと地上に近づいてくる大きな指先に触れた。


「うそ、なんで!」

「やっぱり」


 予想が当たって落ち着いていた私とは反対に、成り行きを見ていたフィーカが驚きの声を上げる。

 私達の視線の先では、神様の指が端から分解されていた。


(それにこの光を見れば、気がついてくれるはず)


 そう、私がこの杖を作った理由は攻撃のためだけではない。

 むしろこの後の方が本題だ。



「無事、だな。オルガネーゼ」

「えぇ、カーレクティオン様」



 ばたばたとした乱暴な足音に、いつだって危ない時に来てくれる声に、私は振り向く。

 そこには、見覚えのある杖を持ったカーレクティオン様が立っていた。


「あの光で場所が分かった、ついでに対策法もな」


 そういう彼は、荒く息を切れさせている。

 私が居る場所が分かってから、急いで駆けつけてくれたのだろう。

 そしてカーレクティオン様は私の前に立ち、慣れた手つきで杖を構えた。


「≪ 射出 ≫!」


 吼える様に叫んだ彼の杖から、辺りを眩ます光が飛んでいく。

 そしてそれは簡単に巨大な指先を突き抜けて、門の中まで到達した。


「どうして、聖剣でもないそんなボロボロの杖が!」


 聖女の悲痛な声に呼応するように、門は内側からひび割れて剥がれ落ちていく。

 誰に言われずとも分かる。

 それは間違いなく、神に与えられた傷だった。


「確かにこの杖は聖剣でもなんでもないし、そもそも杖としても殆ど終わっている」


 そう言いながらカーレクティオン様が武骨な指に握っているのは、泉で作られた棒のような杖だ。

 度重なる戦闘で消耗は激しく、小鬼にすら殴り負けしそうな状態。

 杖の先は何度も行われた魔力の噴出で真っ二つになってしまっているし、欠損したのか初めて見た時よりも長さが短い。

 見た目だけで言えば、私が持っている杖よりも更に酷い状態に見えるだろう。


「だが相手が神なら別だ、この杖は一度邪神を打ち滅ぼしているからな」

「神殺しの要素、ですね」

「あぁ、邪神討伐の際に付与された。だからこれは正真正銘の神殺しだ」


 そう、私があの光を通して伝えたかったのは場所だけではない。

 空に君臨する存在への、たった一つの手段。

 「神殺しの要素」だ。


(何も聖剣だけが、全てを解決する武器ではない)


 ゲーム中では最強武器であるものの、聖剣が存在しないルートはもちろん存在する。

 そしてルートを辿ったのが、正にこの世界だ。


(英雄は死に、聖剣は完成せず。バッドエンドと言っても差支えはない)


 けれど世界は未だ終わらず、まだ続いている。

 だから生きている人間は、今あるもので戦っていかないといけないのだ。


「まだやるか?」


 カーレクティオン様が神に向かって、もう一度杖を向ける。

 ただの人間が、本来は敵うはずもない。

 敵どころか、認識されるかどうかすら怪しいだろう。



 けれど神と称されるものは、これ以上おぞましい指をもうこちらに伸ばさない。

 それどころか、静かに降臨しかけていた姿を門の中に戻していった。

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