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端役の王子と、存在し得なかった聖女1

「うっ……」


 痛む体を動かして、周りを見渡す。

 窓から見える景色で現在の場所を把握しようとすると、そこから広い庭に立っている聖女の彫像が見えた。


(ここ、聖女の教会?)


 窓からこうも大きく彫像が見える場所は、教会以外に存在しない。

 天使を模した飾りに縁どられた窓も、白と基調とした石造りの壁も、そこでしかありえない。


(けれど、清廉さとはとても程遠いわね)


 竜に壊されたのであろう大きな穴の開いた天井から青空が見えているのに、それではかき消せないほどの穢れた空気が満ちているのが分かる。

 だって白い壁を汚す血や、冒涜的な道具が足の踏み場もないほど転がっているのだから。


「私の魔法はね、魔物を生むものなの」


 声の元を辿ると、この教会の主が祭壇の上に座っていた。

 けれどその佇まいは生贄のような弱弱しいものではなく、むしろ捧げられる側特有の余裕あるものだった。


「因果関係が逆なのよ、聖女の存在は魔物がいないと成り立たないんだから」


 聖女の説明は、先程と違って淡々としている。

 だからこそそれは出任せなどではなく、真実なのだと信じられた。


(魔物に対抗する為に聖女が存在するのではなく、聖女が存在する為に魔物が作られているという事ね)


 聖女と言う存在は、人々を脅かす存在から守るためにある。

 であれば当然、その脅かす存在がいなければならない。

 だがそれが本当、なら一つ疑問が残る。


「じゃあ、あなたが使ってたという聖魔法は」


 聖女は予言の力を主に語られるが、それ以外にも聖魔法の使い手として知られている。

 そうでなければ、非力な少女が魔物を倒すことなどできはしない。


(一時的であればカーレクティオン様が行ったように、符で誤魔化す事もできるでしょうけど)


 それを何年も長い事やっていた、と考えるのは難しい。

 けれど聖女は大した事ではない、というように肩を竦めただけだった。


「あんなの自力で後から習得しただけよ、成り上がるのに必要だったから」

(嘘、でしょ)


 彼女にとっては本当に大したことではないのだろうが、私にとっては信じられない偉業だ。

 天からの授かり物でもない限り、一つの属性であっても魔法の習得は困難を極める。

 現に私は、魔法など一つも修められていない。


「でもね、だからこそあなたが許せないわ。親の伝手で王子の婚約者になって、追放されてもカーレクティオン様に囲われているあなたが」


 聖女の目が、すぅっと細くなる。

 あれは、こちらを確実に害そうとしている目だ。

 そして私は、未だにそれを直視できないでいる。


 怖いのではなく、言われている言葉の意味が否定できないでいたから。


(私は常に自分の力ではなく、他人の力によって守られている)


 自覚がない訳じゃない、なのにそこから脱出しようとせず甘えている。

 彼女にはそれが許せないのだろう。

 けれど、


「分からないのはこっちもですよ。そんな力があるのに、頼らなくても生きていける力があるのに。どうして、あなたは私を攻撃するんですか」


 私は確かに、色々な人に守ってもらっている。

 けれど逆に言えば、それは守ってもらう人に依存しているという事でもある。


(だから泉での戦いの後に、酷い不安に襲われた)


 カーレクティオン様から解雇されれば、親の後ろ盾もない私はどうしようもなくなる。

 もちろん力のない私にとって庇護される事は、喜ばしい。

 けれどそれとは別に、一人で自立できる事に対して憧れがあった。


(だって彼女ほどの力があれば、怯えながら生きずに済む)


 それはどんなに自由で、安らかな事だろうか。

 けれど彼女にとって、それは私と同じ価値を持たないらしい。

 答えに納得しない聖女は、口を大きく開けて甲高く叫んだ。


「やっぱり許せないわ。だからすぐには殺さない、たっぷりいたぶってから殺してあげる!」


 それ以上の会話は無用とばかりに、彼女はいくつかの呪文を口にする。

 すると彼女を中心として、四つの門が召喚された。


(も、門から魔物が出てきてる!)


 彼女が先程言った事が、真実であると証明される。

 作り出された門から、有象無象の魔物が姿を現し始めた。


(私じゃまともに太刀打ちできないわね)


 排出される魔物は、冒険者であれば太刀打ちできる程度の強さしか持たない。

 けれど冒険者でない私が相手をできるほど、弱くもなかった。


(だからといって、大人しく殺される訳にはいかないけど)


 私には、帰りたい場所ができたから。

 それにいい加減彼女には、一矢報いたい。


「確かに私は人に頼ってばかりだし、人よりきっと恵まれています」

「なら、」


 私に苛立つのは彼女の勝手だ。

 きっとそうならざるを得ない過去が、彼女にはあるのだろう。


「でもそれをあなたに壊される謂われはない!」


 これが婚約破棄で追い出された直後なら、諦めていた。

 でも今は諦められない理由が、私にはある。


(それに反撃の手立てだってゼロじゃないわ)


 私には今までの経験で培われた、鑑定技能に近い力がある。

 それに問題解決に長けたカーレクティオン様と共にいた時間だって、無駄にはならない。


(戦闘や魔法に関しての技能はからっきしだけど、使えるものが一切ない訳でもない)


 ならば勝てないかもしれなくても、私は戦う事を選びたい。

 少なくとももう、言い訳を並び立てて逃げたくない。


(やるべき事は魔物の退治ではなく、儀式の破壊)


 叩くのであれば目の前にいる魔物ではなく、元である聖女の方だ。

 冒険者でも何でもない私が魔物と戦うのは、自殺行為だ。


(なら彼女に弱点属性をぶつけるべきね、どうしたらいいかしら)


 民から長年崇められてきた彼女は、聖女属性が付与されているはずだ。

 幸い召喚されている魔物は、成りたての冒険者が相手をするような下級のものばかり。

 足もそう速くはないから、部屋にある置物などを障害物として逃げまわっている間に反撃手段を見つけるべきだろう。


(聖女が人の信仰で強くなるなら邪神と同じ、けれど彼女への信仰はもうほとんどないはず)


 追ってくる魔物から逃げ回りながら、私は頭を働かせる。

 竜退治の際に姿を現さなかった彼女への評判は、惨憺たるものだ。

 噂は人々の間を流れ、今は魔物を退治した事すら嘘ではないかと囁かれる始末。


(けれどそれなら逆に、彼女はどこから力を得ているのかしら)


 信仰による力でないとするなら、別のどこかから力を借りているはずだ。

 人である限りは魔法でも錬金術でも、要素をどこからか借りなければならない。


(まさか、魔王と契約した?)


 この世界ではまだ確認していないが、ゲームでは裏ボスとして存在している魔王がいる。

 だから一瞬、そんな考えが過ぎった。

 魔物を生み出している現状だけ見るなら、それで合っていると判断してもいいだろう。


(けれど、やっぱり邪属性ではなさそうなのよね)


 要素というのは属性によって色が違うので、実は見分けやすい。

 そして邪属性と言うのであれば、泉で見た偽神と同じような色でないといけない。


(でも、彼女は聖属性にしか見えないわ)


 目に見えるほど強く湧き出ている彼女の魔力から溢れ出ている要素は、あくまでも聖属性。

 それ以外の色には、どうやっても見えない。


(やっている事が相手に対して悪でも、邪属性にならない事は竜で既に証明済みだから不思議ではないけれど)


 邪属性であろう魔王と契約すれば、さすがに純粋な聖属性になるとは思えない。

 カーレクティオン様と話していた時にも分かったが、要素と言うのはかなり簡単に付与される。

 少しでも魔王から力を得ているのだとしたら、混じりけのないその色はあり得ない。


(どちらにせよ、聖女を攻撃するのも難しそうね。なら門の対応属性で破壊に専念すべきだわ)


 幸い床に転がっている陰惨な道具は、多様な要素を持っている。

 これらはゲームで敵が使用してきたり、事件が起きた時に原因となったものだ。

 だから初めて見るものでも、付与されている属性は理解できた。


(ならそれぞれの門が持つ反対の属性の道具をぶつけて、壊していかないといけないわ)


 現在聖女は四つの門を作成し、そこから魔物を召喚している。

 門は各々属性を持っているようで、燃えているものもあれば花が咲いているものもある。

 だが即席で作られている事もあり、耐久性は高くはないように見えた。


(フィーカは魔物を生み出すのに注力しているから、こちらに攻撃はできないはず)


 彼女は相変わらず、直接攻撃してくる様子を見せない。

 ただ、何かをぶつぶつと呟いているだけだ。


(それなら、今のうちに叩くだけよ!)

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