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王位継承権と動き出した黒幕4

「なるほど、聖女が同じ転生者か」


 倉庫を追い出される前に考えていた考察を話すと、察しの良い主人はすぐに合点がいったと頷いた。

 一刻を争う事態の可能性が出てきてしまっている今、転生者について話しておいて本当に良かったと思う。


「彼女はゲームに存在しなかったですからね。てっきり最初は名前付きでゲームに出てこないだけかと思いましたが」

「お前の話を聞いていると可能性は無数にある、完全な対処は無理だっただろう」


 進み続ける会話は廊下で話すには重い内容になってしまっているが、仕方ない。

 国を守るべき聖女が英雄になるべき人間を殺し、竜まで招いた。

 そして最悪、これから起こる事態への対処をしなけれなばならないのだから。


 ここまで考えていると、不意にカーレクティオン様に腕を掴まれた。


「危ない!」

「え、わっ!?」


 無理やりカーレクティオン様に抱き込まれた直後、背後で何かが弾かれる音が聞こえる。

 急いで後ろを振り返ると、短刀を握りしめたフィーカがこちらを見ていた。


「許さないわ、オルガネーゼ。お前のせいで私の人生は滅茶苦茶よ」

「詳しくは知らんが、言いがかりって事だけ分かるな」


 隠し持っていたらしい短刀を持って対峙するカーレクティオン様の言葉に、私も頷く。

 むしろ人生滅茶苦茶にされたのはこっちの方だ。

 今は幸せとはいえ、彼女のした事が消えた訳ではない。

 だが、とうの彼女は様子がおかしい。


「聖女の役目を剥奪されたの、評判も地に落ちて私はどこにも行けない」

(でしょうね、当然の事だわ)


 どういう理由であれ竜退治に出てこなかったフィーカは、もう誰にも聖女として認められていない。

 だから全ての権限を剥奪され、どこにも行く宛がないのだろう。

 婚約破棄された日の、私のように。


「あなた、責任を取りなさい」

「責任? 俺が?」


 そして追い詰められた彼女の感情は、カーレクティオン様に突きつけられた。

 ナイフは私に向いたが、言葉は彼に向けられている。


「私と結婚しなさい」


 カーレクティオン様にとってこの状況は想定していた事だったのか、動揺は見られない。

 代わりに、今までになく真面目にフィーカに目を向けていた。


「家が許すのか」

「追い出されたわ、だからもう失うものはないの」


 そこまでいうと、フィーカは空虚に笑った。

 そして清楚な衣装の胸元に指を引っ掛け、緩く着崩す。

 すると今まで纏っていた清楚な雰囲気が、背徳的な色気に変わる。


「それにあなた、私の体は大層好みでしょう。以前抱いた時に言っていたわよね」

(あ)


 聖女の言葉で、不意に過去の記憶が繋がる。


 最初にあった私への嫌がらせをなくした、カーレクティオン様のやり方。

 聖女が侍女の姿をして倉庫に現れた理由。

 その正体が今、分かった。


「抱いたんですか」

「まあな」


 あの日の真実を彼に問うと、否定せず、悪びれもしなかった。

 そして挙句の果てに、持つべき責任まで放棄した。


「だが結婚相手には選ばない相手だ」

「最低ですね」


 いつぞやの時とは違い、今度は直接口に出して軽蔑する。

 相変わらず王族としてどころか、人として最低だ。

 けれど。


「まあ、想定の範囲内ですね」

「だろうな」


 肩を竦めてカーレクティオン様の事を許容すると、彼も知っていたとばかりに笑う。

 だって今までの彼の行動を私はずっと見ているし、彼もそれを知っている。


「だからこの程度で、私は怒ったりしませんよ」


 私達のやり取りを見ていた聖女に、そう告げる。

 確かに彼に救われたのと同じくらい、悪い部分だって私は見ている。

 当然今回やった事自体に関しては、理由がどうであれ最低以外の感情を持っていない。


 でもそれでもいいと思っているから、私は彼についていっているのだ。


(きっとフィーカは、これを切り札だと思っていたのでしょうね)


 カーレクティオン様が彼女を選ぶにしても、私が彼に怒るにしても。

 このタイミングで話題を出してきた事を考えても、外していないはずだ。

 そう思ってフィーカを見ると、やはり信じられないという表情で憤慨していた。


「そんな貧相な相手を選ぶというの? 色狂いのあなたが」


 どうせ一度も抱かれた事ないんでしょう、と言外にこちらを刺してくる彼女に余裕はない。

 だがそんな彼女に容赦なく、カーレクティオン様はとどめを刺し返した。


「お前は俺が、抱きもしない女と一緒にいる意味が分からないのか」


 それは私が彼にとって、特別だという事。

 同時に、彼女がそうではないという事。

 そしてそれを突き付けられてしまった彼女は、なけなしの理性で隠していた衝動のまま叫んでしまった。


「っ、あなたなんか死んでしまえ!」

「お前に俺が殺せるのか?」


 カーレクティオン様は、可憐な少女が泣く程度で動揺するような男ではない。

 私でも胸に来る涙ながらの訴えを、彼は分かりきった疑問で返す。

 けれど次の瞬間、聖女の表情が抜け落ちた。


「いいえ。あなたを殺すのに、あなたを殺す必要はない。代わりに彼女を殺せばいいのよ」


 カーレクティオン様に向いていた瞳が、私を捉える。

 あれだけ憎しみがあるにも関わらず愛らしいと思っていた瞳は、今は落ち窪んだ穴にしか見えない。


「っ、やめろ!」


 聖女の意図に気づいたカーレクティオン様が、私を後ろに隠して防御符を展開する。

 だが聖女の魔法はカーレクティオン様を無視して、私だけに襲い掛かった。


「カーレクティオン様!」

「オルガネーゼ!」


 カーレクティオン様の叫びも空しく、私は聖女に転移魔法を掛けられる。

 そして足掻こうとする間もなく、今度は冷たい床に叩きつけられた。

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