王位継承権と動き出した黒幕3
「あなたには分からないでしょう、王位を継いでしまった無能の事など」
王子の悲痛な告白に、カーレクティオン様は同情しない。
ただ弟に、向き合うだけだ。
「分かる訳ないだろう、俺はお前じゃない」
彼の表情には、いつだって王座への未練は存在しない。
けれど今は、そこへ座る弟への感情も読めなかった。
「そもそもお前は考え方が間違っている、王は基本評価されないほうがいいのだから」
何度か私に告げたような事を、カーレクティオン様は弟に伝える。
確かに王が評価されるのは、国に何かがあった時だ。
それ以外の役目としては国の統治を行うもの、その統治の象徴となる事が挙げられる。
だからこそ彼は平和な世であるならば、フルフェルト王子の方が王に向いているという考えを持ち続けている。
「それに名声が欲しければ俺の様に野良になるなり、冒険者になるなりすれば良かっただろう」
当たり前に、カーレクティオン様は彼に告げる。
その道を選んだのは、お前だろうと。
そして為す術もなくそれを受け止めたフルフェルト王子は、傷ついたように笑みを浮かべた。
そしてここで、私も気づいてしまった。
(あ、こういう所がうまくいかないのね)
私も持たざる者なので、分かってしまった。
その論法は、力を持つ人間の乱暴なやり方だ。
「僕にそんな力はありませんよ、分かっているでしょう」
「俺だって最初はそんなものなかったぞ。ないものねだりなんだよ、結局」
私となんかよりもずっと、彼は兄と平行線だ。
(いつから、こうなっていたのかしら)
私は前提として無意識に考えていた事を、掘り起こす。
それはフルフェルト王子が、おかしくなり始めた時期の事。
本来の彼は、私やフィーカを切り捨てるような人ではなかった。
(それは私が婚約者になってからだと思っていたけれど、多分違う)
けれどその答えも出ないまま、袋小路の会話は終わりを迎えた。
「何にせよ力をつけなかったお前は、コイツを守れないし使えない」
「……っ」
フルフェルト王子の瞳が、涙が零れそうなほど強く歪む。
彼は一度も、カーレクティオン様に反撃する事は叶わなかった。
けれど彼の兄は最後に、一つだけ言葉を残した。
「だが平時に王として君臨するのは俺には無理な事だ、それじゃダメなのか」
「え」
その言葉にフルフェルト王子は、瞳を大きく見開いて顔を上げる。
けれどカーレクティオン様はそれに反応せず、背を向けて歩き出した。
「行くぞ、オルガネーゼ」
「はい」
そして声が掛けられ、私もフルフェルト王子から離れていく。
最後にフルフェルト王子がどういう人なのか、少しだけ分かってしまった。
けれどそれは、私を王子に向かわせるほどの力を持たない。
「待て、行かないでくれオルガネーゼ! 僕にはもう何もないんだ!」
離れていく私に気づいた王子の声が、王城の廊下に木霊する。
けれどその声に、もう私は縋らない。
「嫌です、私はこの人についていきます」
彼が聖女を選んだように、私はカーレクティオン様を選んだ。
意趣返しという訳ではないが、この結末は必然だろう。
(でも今になって、分かってしまった事がある)
いっそ最後まで何も理解出来なければ、何も悩まずに前を向けた。
けれど今になって見えてしまった共通点に、後ろ髪を引かれる。
彼は思っていた以上に、私とは近いのかもしれない。
(この期に及んで彼の事が知りたいだなんて、どうかしている)
今まで少しも、興味なんてなかった癖に。
「しかしお前、よく俺から逃げなかったな。心情さえ含めなければいい条件だったろうに」
王子の姿が完全に見えなくなった場所で、カーレクティオン様が話しかけてきた。
破天荒なようでいて、案外彼は人間関係を気にかけている。
そういう意味では、私の方がよほど冷たい人間だろう。
「心情を含めないでやっていけると思います?」
「いや、愚問だったな。けれどお前にだって生活があるだろう、まして独り身の女なんだ」
足元は固いほうがいいんじゃないか、とカーレクティオン様は続ける。
私はそれを聞いて、思わずため息を吐いてしまった。
(この人は本当、変な所で自分に自信がない)
彼は自分に自信はあるのだが、他人が絡む事に関しては評価が極端に下がる。
確かに彼は今まで評価が下がるような事をやってきたし、それが売りでもあった。
(けれど本人が思っているよりはずっと、彼は他者に嫌われていない)
少なくとも直接関わった人においては、評価が変わる人も多い。
かくいう私も、その一人だ。
「彼は私を守ってくれないからダメですよ、それを身を持って体験していますから」
配偶者ができたところで、あの有様では何の意味もない。
怖くて一緒にいられない、と肩を竦めながらいうと彼は一転して納得したと笑った。
「なら俺は良かっただろう、危機に瀕して助けに来る王子様だ」
もう王位継承権はもうないけどな。
そう言って、カーレクティオン様は未練なく笑う。
けれど私はそれに頷きたくなくて、首を横に振った。
(確かに彼は、この国の王になる事はないでしょう)
けれど私がカーレクティオン様に惹かれたのは、いつか王になるかもしれない人だからじゃない。
それを、彼に分かって欲しかった。
「私には王位継承権がある王子より、守ってくれる王子の方が格好良く感じられますよ」
私には、存在しないと思っていた王子様。
未来永劫結ばれる事はないだろうけど、大切になった人。
「……そうか」
そしてカーレクティオン様も、私の気持ちを素直に受け止めてくれた。
照れてはいるようだが、茶化さないで私の話を聞いてくれる。
「あ」
けれど展開が落ち着いた事で、私は本来の目的を思い出した。
(そうだ、こんな事してる場合じゃない!)
王子を挟み撃ちする為にこうして合流したが、それとは別の理由で私は彼を探していたのだ。
本来の英雄を殺した張本人、その人の名を伝える為に。
「カーレクティオン様、報告があります」
柔らかくなっていた空気を締め直す様に、私は表情を固くする。
そして同じく私の様子に気がついて表情が険しくなったカーレクティオン様に、今までの騒動に対する推測を話し始めた。




