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王位継承権と動き出した黒幕2

「久しぶり、かな。オルガネーゼ」


 こちらにそう声を掛けてくるのは、フルフェルト王子だ。

 竜退治が終わったので、城に戻されたのだろう。


(カーレクティオン様に会う方が先だと思っていたけれど、まあいいわ)


 この展開なら、こちらから聞きたい事を聞いてしまえばいい。

 これからの事を考えるなら、それでもいいはずだ。


「王子、聖女様と手を組んで竜を呼びましたね」


 挨拶もなく、単刀直入に仮説を言葉にする。

 物証はないが、攻略対象者を何人も屠った事を考えると聖女の単独犯だとは到底思えない。


(そして彼女に手を貸していた権力者といえば、彼だわ)


 だからそれで間違いないだろうと、私はフルフェルト王子に詰め寄る。

 すると彼は、何故か嬉しげな顔で言葉を返してきた。


「あぁ、彼女はとても良くやってくれた」

(何、それは)


 それだけ聞けば臣下を労う王のようだが、本質はとてもじゃないがそんなものではない。

 それどころか、婚約者すら使い潰す邪王そのものだ。

 失敗した彼女がどうなっているかなんて、想像できるだろうに。


「彼女は仮にも婚約者でしょう」


 なのにそんな事をさせて、ましてそれを誇らし気に口に出すなんて。

 けれど彼にとって婚約者とは、そういうものではないらしい。


「元々宰相が利益のために仕立てたものだ、婚約さえしていればいい。それに彼女はその程度では潰れない」

(確かに政略結婚ってそういうものだし、フィーカは強いでしょうけど!)


 それにしたって、あまりにも軽薄だ。

 更に続くであろう言葉を考えれば、それはより際立ってしまう言葉でもある。


「オルガネーゼ、戻ってきてくれ。伴侶にとは言わない、けれど不自由のない職を約束しよう」

(ほら、やっぱり)


 想像通りだ。

 けれど婚約者として戻ってきてくれ、と言わないだけ彼は進歩した。

 それに提示してきたものは、私と交渉するには悪くないものではある。


「確かに魅力的な提案ではありますね」


 私が提案に対する、素直な感想を述べる。

 すると彼は話が聞き入れられた事による安心感からか、語気を強くした。


「だろう? あんな追い立てられた不安定な場所よりも」

「けれどあなたは信用できない」


 初めて、フルフェルト王子の言葉を途中で遮った。


(たったこれだけの事が言えなかったから、私は今まで拗れていたのね)


 今まで溜め込んでいた感情が解放されて、心が軽くなる。

 決して怒鳴った訳ではないけれど、自分の考えが間違いなく伝わったであろう事実は私がずっと欲しかったものだ。

 そして私に否定された彼は、二の句が継げないでいる。


「な、」


 立場上、否定される事の方が少ないのだろう。

 明らかに狼狽えている彼は目を見開いて、咄嗟に反論する事ができないでいる。

 そして追い打ちをかけるように、見慣れた姿が現れた。


「よく言ったな、オルガネーゼ」

(良かった、()()()()になってくれた)


 そう思いながら、王子の力が緩んだ隙にカーレクティオン様の後ろに控える。

 それは主人の一歩後ろにいるという立ち位置を示すためでもあったし、彼は私を守ってくれるという信頼を示すためでもあった。


「お帰りなさいませ、カーレクティオン様」

「おう。で、俺の倉庫番に手を出すとはどういう了見だ」


 私への挨拶もそこそこに、カーレクティオン様はフルフェルト王子に近づいてくる。

 追い詰められた彼の顔は、可哀想なくらい真っ青になっていた。


「どうして、遠ざけたはずなのに」

(やっぱり仕組まれたものだったのね)


 一番会いたくない人物が戻ってきてしまい、動揺が止まらないのだろう。

 わざとカーレクティオン様と私を引き離したと、彼は白状してしまった。

 だがそれも織り込み済みだというように、カーレクティオン様は鋭い犬歯を見せて笑う。


「そろそろ動くと思ったからな、まぁ兄弟の勘って奴だ」


 私の言葉を最後まで聞かずに、大体内容を当ててしまう勘のいい彼だ。

 一時期でも一緒に暮らしていた弟の考えなど、とっくにお見通しだった。


(だから私達はフルフェルト王子の策を利用して、逆に彼をおびき出した)


 聖女が失脚した後、私を取り戻しに来るだろうと考えたカーレクティオン様の策だ。


(天敵である彼が一度私から離れて、フルフェルト王子が近づいてきたら挟み撃ちにする)


 案の定、作戦は成功した。

 ただ彼が離れた直後に報告しなければならない事ができてしまったので、多少狼狽えてしまったが。


「正直目の付け所は悪くなかった、自分の力を補おうとする部分も」


 一歩一歩、カーレクティオン様がフルフェルト王子に近づいていく。

 それに合わせて彼も少しづつ下がっていくが、逃げる事には抵抗があるのか背中を向ける事はしない。

 けれどカーレクティオン様に効く攻撃はないのだろう。

 おかげでどっちつかずの中途半端な状態になっている。


「だがオルガネーゼは渡せない、これは俺の物だ」

「彼女は物じゃありません!」


 本人としても反射的に言ったのであろう言葉。

 本来なら純粋な正しさを持つそれも、今となっては誰の心にも響かない。


「人として扱ってそれなら、なお最悪だ」

「ならあなたは彼女を物扱いしていて、それが正しいと?」


 本人のとしても自分の言葉に正しさがあるとは思っていないだろう。

 けれど引き下がれない彼は、そのまま前に進むしかない。

 そして当然私は、彼に申し立てる。


「私は蔑ろにされる人となるなら、大切にされる道具扱いの方が余程良いですよ」


 どんなに綺麗な言葉を並べても、私はもう彼の元には戻ろうと思えない。

 あのまま換えの効く婚約者として扱われるのは、耐えられないと分かってしまったから。

 もちろんカーレクティオン様が、私を物扱いしたことなど一度もないが。


「それにな、お前がオルガネーゼを手に入れても今のままなら竜は倒せないぞ」

「……それは」


 なんとか反論しようと、フルフェルト王子の口がはくはくと動く。

 けれどそれは、いくら待っても音にはならなかった。

 そして兄弟だけに意味が分かるであろう沈黙が訪れる。


(竜を倒す事に、そんなにこだわる必要があるのかしら)


 この二人が喋らない理由を、私は理解できない。

 だってあの竜を倒して、民衆の願い通りに彼が王になるのであれば分かる。

 けれど彼がもう王に成る気がないのは、彼だって知っているはずだ。

 彼がそれを望むのであれば、いくらでもその機会はあっただろうから。


(ならば、彼は何を恐れているのだろう)


 私がそう疑問に思っているのが分かったのだろう。

 カーレクティオン様と目が合うと、彼は何とも言えないような表情をしながら説明してくれた。


「お前には分からないかもしれないが、今コイツは聖女よりも悔しい思いをしているんだ。コイツは下だと思っていた人間に、名声を奪われたんだからな」

(下? 彼は王子なのに)


 立場で言えば、圧倒的にフルフェルト王子の方が上だ。

 確かに実力的な所は、その通りなのかもしれないが。

 そしてその言葉はフルフェルト王子にとって、逆鱗だったようだ。


「下だと思ってなど!」


 今までの怯えも引っ込ませて、カーレクティオン様に噛みついてくる。

 けれどその程度では、彼は怯みもしない。



「そう思ったから、今更突っかかってきたんだろうが」



 決して、大きな声ではない。

 けれど彼の良く通る声に怯えて、またフルフェルト王子は体を震わせる。

 まるで追い詰められた草食獣の様だ。

 けれどカーレクティオン様はそれ以上王子を脅かさず、代わりに静かに言葉を続けた。


「補助は間違いなく必要だったが、最終的に竜を倒したのは俺の錬金術だ」


 お前はオルガネーゼがいれば、竜殺しを成し遂げられたか。

 そこまで言われると、フルフェルト王子は諦めたのか目を僅かに伏せた。

 ぼんやりとした瞳はどこかを映しているようには見えず、鈍い焦点が彷徨っている。


「それでも僕は、傀儡の王子ではなくなりたいのです」


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