王位継承権と動き出した黒幕1
竜退治が終わってしばらくしたある日、カーレクティオン様にある書状が届けられた。
「俺を王に? 馬鹿じゃないのか」
その書類を、カーレクティオン様は適当に放り投げる。
一応それなりの立場の人から渡ってきたものなので、本来はそんな扱いをしてはいけないものなのだが。
「竜退治の功績だそうです」
床に落ちた書類を拾い上げながらそう伝えるものの、カーレクティオン様は鼻を鳴らすだけだ。
書類の内容は、彼を王にして欲しいという民からの嘆願を纏めたもの。
けれど彼は、それが気に入らないらしい。
「王は国の象徴だ、それはフルフェルトの方が向いているだろ」
そういうとカーレクティオン様はこれ以上の興味をなくしたらしく、今まで取り掛かっていたやりかけた素材の方に顔を向けた。
「市民からの要望が相当強いらしいですけど」
「竜退治で興奮した頭だからそう思うだけだ。荒事の時はともかく、平時は絶対アイツの方がいい」
カーレクティオン様が言っている事も、分からなくはない。
確かに彼は荒事には向いている。
だからといって国の象徴にしていいかと言われれば、確かにそれはまた別の問題である。
「アイツは竜退治なんかやらなくていいんだ、それは俺の役目なんだから」
扱っている素材から目を離さず、主人は喋り続ける。
天馬に乗っていた時に聞いた声のように、感情の波は感じられない。
「俺は王になんかなれないし、弟も錬金術師にはなれない。それでいいんだよ」
どこか悟ったような声。
けれどそれは妬みからなどではなく、本当にそういうものだと思っている、なんともないようなものだった。
「まあ、役割分担と言う感じですかね」
「そういう事だ、俺とお前で役目が違うようにな」
そう考えれば、納得できる。
私が素材を管理して、彼が錬金術を行う。
王子が国を統治して、彼が国の問題を取り除く。
確かに同じだ、私達と。
(それにしても、簡単に王になると言わない所には安心してしまうわ)
元々そういう人ではないのは分かっているが、立場に目が眩む事もある。
それはその立場にいる事で受けられる恩恵や、負担など様々な物だろう。
もうそういうものと関わりたくない私には、その感覚はよく分からなくなってしまったけど。
「それとそろそろ俺は外に出るからな」
そういうと、カーレクティオン様は立ち上がる。
今日の彼は、人に呼ばれて出かける予定がある。
だから私も出て行く彼に返事をして、軽く頷き返した。
「はい、分かりました」
「手筈通りに頼むぞ」
しばらくして私は、一人で倉庫掃除を始める。
けれどそれは捗らない。
犠牲にされた英雄の遺体を見てからずっと、黒幕の事を考えてしまっていたから。
(それにしても一体、誰があの竜を召喚したのかしら)
自分も頭は働かせているものの、既存のゲーム知識の中からではどうにも答えは出てこない。
となると考えられる事が一つ。
(私と同じ転生者の可能性)
ゲームの盤上から出てこないなら、ゲームの外に原因があると考えるのが自然だ。
転生者に関しては、私という前例もあるし。
それに根拠は他にもある。
(英雄になる前の彼らが殺されていたこと)
彼らが英雄たる理由は様々な困難を乗り越えて聖剣を完成させ、竜を倒したからだ。
それまでの彼らは、普通の冒険者でしかない。
それなのに彼らが殺され、竜の召喚に利用されたという事は。
(この先の展開に関する知識、つまりゲームの知識を持っていないとおかしいのよ)
もしくは、この世界に未来の事が分かる予言者でもいれば別だが。
「予言者」
ぽつり、と言葉が口から零れる。
そして私は一気に血の気が引いた。
(いるじゃない、一人)
どうしてこんな簡単な事に気づかなかったのだろう。
最初から答えは出ているも同然だったのに。
(本来知らない情報を知っている人、そして人を使える地位のある人)
「カーレクティオン様に報告しないと、」
気づいてしまったからには、無視する事はできない。
竜の事だって、甘く見ていたからあんな事態になってしまった。
(あんな事はもう、二度とごめんだわ)
けれど私は、部屋を出る事ができなかった。
カーレクティオン様のいない今、絶対に会いたくない人がそこにいたから。




