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失われた物語と竜狩りの英雄譚8

「来い、オルガネーゼ!」

「――はい!」


 声の方に手を伸ばして、差し出された手を強く握り返す。

 呼ばれて近づいた場所は、竜が荒れ狂う最前線だ。

 そうでもしなければ、簡単に吹き飛ばされてしまう。


「私はどうすればいいですか」


 カーレクティオン様の元にたどり着き、簡潔に問う。


(彼が私に何を求めているか知らなければ)


 泉で戦った時も、私は独断先行した。

 結果的には正解だったけれど、今回もそうなるかは分からない。


(できるなら、きちんと話し合うべきよね)


 だってあの時、彼はもっといい案を持っていたかもしれない。

 最悪、対応策を持つ彼を邪魔する可能性だってあったのだから。


 そして指示を仰がれたカーレクティオン様は、願われた通りに指示を与える。


「俺と聖剣を支えていろ。俺には今、英雄属性がついてる」

(あの時の聖女属性のようなものね)


 先日の泉での騒動の際に、私が東の村の人に信仰されて聖女属性がついたのは記憶に新しい。

 カーレクティオン様も市民に信じられて、英雄属性がついたのだろう。


「ではそれを力に変えるのですね」

「そうだ」


 私の言葉にカーレクティオン様が頷く。

 けれど同時に、声に乗っていたらしい私の不安も悟られてしまった。

 あまり感情的にはならないようにしているが、私はいざという時にうろたえてしまう。


「お前が考えてる事は分かる、操作する本人の力を変えるなんて聞いた事もないだろう」


 確かにカーレクティオン様の言う通りではあるが、今それを言ってやる気を削ぎたくない。

 二つの気持ちが私の中でせめぎ合っている。

 でも、彼はそれすらも分かっているのだろう。

 だから彼は、私に否定をするのではなく助力を願った。


「けどやるしかない、だから」

「えぇ、私の力で良ければ使ってください」


 彼が話し終わる前に、言葉を引き継ぐ。

 彼は今まで私の盾になってくれた。

 だから今度は、私が彼の剣になりたい。




(うめき声が、近くで聞こえる)


 属性変換を開始した彼の体には、どれほどの負担が掛かっているのだろう。

 その手伝いも痛みの肩代わりもできない私は、彼の体を支える事しかできない。


(どうか、どうか)


 敵である神様には祈れない、だから彼に願う。

 けれど、事態は悪化しているようにしか見えない。


(本当にあと少し、なのに)


 今までの疲労が祟っているのだろう、カーレクティオン様の目は焦点が合わなくなっている。

 そしてその不安定な視線の先には、同じくゆらゆらと揺れる聖剣があった。


「ダメ、だな。剣が抜ける」


 自分を押さえつける市民を襲おうと動き回っていた竜の体は、ただでさえ鱗が厚い。

 聖剣が竜の体から外れるのは、もう時間の問題だろう。


(なら、どうにかしなければ)


 できることを、やらなければ。


(幸い、やる事は単純だわ)


 もちろんできるできないの問題はあるが、失敗したら全てがそこまで。

 だから今聞くべきは、それができた後の事だ。


「聖剣が抜けなければ、どうにかなりますか」

「そこさえやれればどうにかする、が」


 じゃあどうする。

 カーレクティオン様が目だけで問いかけてくる。

 それはそうだ。

 もう戦いの前に練った策は尽きているし、要の彼はもう立ち上がれない程憔悴している。


(けれど、彼が負担を引き受けてくれたから私はまだ動ける)


 私は、彼の十分の一も働けていない。

 彼に守られて、ずっとそれを享受し続けてきたから。

 だから、今こそ私が立ち上げるべきだ。


「私が聖剣を刺し直してきます」


 この動きは作戦にはない、自分の考えだ。

 勝算は考えたくない程、低い。

 けれど彼は、私の行動に苦言を呈さなかった。


「頼む」


 この戦いが始まる前に言われた通り、彼も私を信じてくれているから。




 建物を隔てて大回りして、竜に近づく。

 カーレクティオン様が指示を出してくれているのか、市民は意図を汲んで竜を撹乱してくれていた。


(目的は竜に剣を刺し直す事)


 やる事はこの上なく、はっきりしている。

 問題はそれをどこまで可能なものに落とし込めるかだ。


(まず、私は竜に登る事すらできない)


 竜の注意が逸れているので近づく事はできるが、一軒家ほどある竜に登る事はとてもできやしない。

 となれば、逆のやり方で行くしかないだろう。


(登る事が不可能なら、その場所まで落ちればいい)


 手近な建物に入って、私は階段を駆け上がる。

 ここは平地ではなく王都なので、高い建物はそれなりにあった。


(行け!)


 そして竜より高い部屋の窓から落ちて、剣の場所へ向かう。

 怖気づいたら負けだと思って、落下地点だけ確認して窓枠を蹴った。


(よし、着地は成功した!)


 躊躇せず跳んだおかげで、深く恐怖する前に、竜の背にたどり着く。

 足はしびれているし、心臓は信じられないくらい鼓動を打っている。

 けれど、揺れる聖剣は目の前にあった。


(刺され!)


 自分の全体重を掛けて、竜に聖剣を刺し直す。

 竜の皮膚は分厚く、この程度の痛みではこちらに気づかない。


(カーレクティオン様、こっちは大丈夫です!)


 再び剣が深く突き刺さったのを確認し、カーレクティオン様に手を振る。

 ちょこちょことした市民の攻撃に竜は気を取られているが、いつ気づくかは運だ。

 早く撤退したほうが良いだろう。


「よし、ここからは任せろ!」


 そしてカーレクティオン様の言葉に呼応して、王都全体の建物が淡い光を放った。

 あれは要素が抽出される時の輝きだ。


(道具の代わりを、建物で代用したのね)


 泉の戦いの時、倉庫から聖女属性を奪って射出したように。

 今回は王都から属性を奪って、聖剣に集めるのだろう。


(代々続いてきたこの場所は今、人を守る為の力になる)


 長い時間人の営みを見守ってきたものが、カーレクティオン様の下に充填される。

 そして力を奪われた王都は、咆哮のような音を立てて崩れ始めた。


「もう大丈夫だ、離れろ!」

「はい!」


 カーレクティオン様の声を聞いて、私は竜の背中から離脱する。

 もうここまで来れば、あとは逃げるだけだ。

 鱗などに体をぶつけながら、私は竜の尾を滑り落ちる。

 けれど、そう簡単には終わってくれない。


「――――――――――――――――――!」

(まずい!)


 竜から降りたところで、遂にこちらに気づいてしまった。

 私の気を失わせた、あの瞳が私だけを映す。

 そして巨大な体を捻って、鋭い爪をこちらに向けてきた。


「させません!」


 けれど、その爪は私には届かなかった。

 オリディが私の前に出て、小さな盾で竜の攻撃を防いでくれたから。


 そしてその盾に描かれた紋様に、私は見覚えがあった。


「それって」

「冒険者さん達の遺品、聖盾です。不完全なんで、こんな形にしかできなかったですけど」


 不完全の言葉の通り、あの一撃で少女の持つ盾は簡単に消し飛んだ。

 けれど普通の盾なら、守る事もできなかっただろう。


「あの後に冒険者さんたちの事を調べたんです、私には何ができたんだろうって」


 あれから彼女はずっと気にしていたらしい。

 私が取り乱した、あの時の事を。


(申し訳ないわ)


 彼女は何も悪くない、悪いのは知っていたのに動かなかった私だ。

 本来の主人公は、私のせいで始まりにも立てなかった。

 なのに彼女は自分で考えて動き、私を守ってくれる。


「冒険者さんたち、聖剣が作れなかったら聖盾を作ろうって思っていたみたいなんです。竜は自分達が刺し違えなければならないけど、王国は聖盾で守れるからって」

(ベストエンドじゃなかった時の話ね)


 この世界の下地になっているゲームは、いくつかの結末が用意されている。

 その中には聖剣が完全に完全しなかった場合、攻略対象者が竜と刺し違える結末もあった。


(だけどその場合でも、王国は聖盾で守られる)


 竜を殺す力はないが、その攻撃を無効化する盾。

 根本的な解決はできない分、聖剣よりも作成難易度は低い。


(もちろん聖盾を使う終わり方をした場合、攻略対象者は助からない)


 だが、彼らはそういう選択をできる人達だった。


「会う事もできなかったけど、きっと力を貸してくれる人達だと思ったんです」

(そうね、その通りよ)


 ゲームでしか、画面越しでしか関わりのなかった人達。

 自分が救えたかもしれない、もっと言えば怠慢で殺してしまった英雄達。


(彼らに、少しは報いれるだろうか)


 少しは、許されるだろうか。

 そう問いかけてみても、返す人はいない。

 この物語は、私が知っているものとはもう完全に別のものになってしまったから。



 ――そして竜狩りは、遂に終局を迎える。

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