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失われた物語と竜狩りの英雄譚7

 それからは、馬車馬の如く働いた。




「お前らも分かっているとは思うが、これは総力戦だ」


 あっという間に時間が過ぎ、決戦の時が来た。

 今は広場に集まり、カーレクティオン様が演説するのを聞いている。

 最初は彼が市民の前で演説するなんて、作戦の中にはなかった。

 だが市民にどうしてもと願われて、彼は壇上で喋っている。


「防御班は前に出て輸送班と攻撃班を守れ、輸送班は指示された道具をとにかく俺にまわせ」

「「「はい!」」」


 老若男女、様々な人の声で返事が返ってくる。

 今回この戦いに赴いたのは、市民やカーレクティオン様に協力的な王城の人だ。

 炊き出しなどに参加していた人達が自発的に集まってきたのだが、これは彼にとって随分予想外の事だったらしい。


(この期に及んでも、軍はどこの部隊も動かなかったしね)


 泉の戦いで協力要請を蹴ったように、今回も王子の命令がないからと動かずだ。

 組織であるがゆえに自由が聞かないのだろうが、他に命令できる人がいなかったのかくらいは思ってしまう。


(けれどもう、彼らの事を考えていても仕方ない)


 今は動いてくれる人の事だけ考えた方が良いだろう。

 カーレクティオン様も、その人たちの為に前に出たのだから。


「用意した場所に竜を追い込んだら、俺があの竜を殺す。だが俺は軍師でも何でもないし、お前達の命の保証はできない」


 単独行動を得意とする彼にとって、今回の集団戦は非常に分の悪い戦い方だ。

 彼は秩序的な連携を犠牲に、自由な戦い方をする。

 だから今回だって彼は最初、戦いには一人で臨もうと考えていた。


(だから誰よりも先に動いて、動き続けた。それを今は、ここにいるみんなが知っている)


 王位継承権を蹴り、綺麗ではない手段を使う事も多々ある人。

 けれど逃げずに守る為に戦う姿を実際に見てしまうと、彼がいれば大丈夫かもしれないと思ってしまう。

 手を貸せるならば、と動いてしまう。

 この広場に残った人達は、そういう人達だ。


「ダメだと思ったら逃げろ。それは正しい事だ。それでもここで戦いたいと思った奴だけがついてこい!!!」


 カーレクティオン様の言葉に、市民の声が追随する。

 それは広い王都を揺らすほどの、叫び声。

 興奮の雄叫びを上げるものも、拭えない恐怖に後押しされて声を絞り出すものもいる。

 けれど逃げる人だけは、ここにはいない。


(きっと勝てるわ)


 彼は市民の前で、今回の作戦を伝えていた。

 それは無謀な突撃作戦などではなく、少なくとも私達に勝算があると思えるものだ。


(だから、きっと大丈夫)


 信頼に値する人だと、信じられるから。

 みんながそうだと、信じているから。




 王国に降り立つ為の羽ばたきが、耳を打つ。


「――来ました!」


 再び王都を暗い影が覆い、竜が飛来する。

 こちらを破滅させる為にやってきたそれは、王都の建物が震えるほどの雄叫びを上げていた。


「防御班、動け!」

「「「はい!」」」


 カーレクティオン様の良く通る声が、市民に隊列を成せと指示を出す。

 そして竜がこちらの姿を確認する前に、防御符を持った市民が並んで壁を作成し始めた。


(防御符は魔力で壁を生成するものだけど、攻撃を弾く以外にも使えるのよね)


 彼らは自身の存在を囮にして竜を引きつけながら、作成した壁で囲い込む。

 だが全方位に壁を作って、閉じ込めた訳ではない。

 今回は、竜を壁を作っていない方向へ誘導する必要があるからだ。


(目的は、竜を決められた地点まで移動させること)


 竜も市民に攻撃はしているが、カーレクティオン様が用意した高レベルの防御符には太刀打ちできていない。

 そして攻撃班が壁の隙間から攻撃班が道具を投げ、竜を防御符がない場所に追い立てている。

 市民に頼んだ作戦は、現在順調だ。


「よし、効いているな。そろそろこっちも動くぞ」

「はい」


 私達はというと、今まで戦況を見るために見通しのいい塔に移動していた。

 そしてもう一つ、ここに陣取った理由がある。


「行くぞ」


 あらかじめカーレクティオン様が職人に作成させた、超大型弓の前に移動する。

 ただし特殊なのは大きさだけではなく、矢が彼特製の聖剣であるという点だ。


「聖剣もまさか矢にされるとは思わなかったでしょうね」

「竜殺しに使うんだ、方法は何でもいいだろう」


 巨大な弓に設置された、カーレクティオン様謹製の聖剣。

 本来ゲームがきちんと進行していれば本物が手に入るが、今回はそうではないので別の使い方をされている。


「俺は聖剣が竜に刺さったら、魔力を流し込んで攻撃する。お前はその補助を行え」

「はい」


 この作戦の要はもちろん、カーレクティオン様だ。

 だがそれを支えるのは、ここに集まった人々全てである。

 私も今の段階ではまだ役目がないが、後ろの方で仕事が控えている。


「可能な限り、今の命令に背くな。だが、どうしてもと思った時は自分の行動を優先していい」

「それは」


 問い返すと、カーレクティオン様は真っ直ぐに私を見つめていた。

 相変わらず猛禽類のような鋭い目だが、今の私には少しの心配と決意が入り混じっているのが分かる。


「お前が俺を信じるように、俺もお前を信じてる」

「――ありがとうございます」


 そして今度こそカーレクティオン様は、竜に向けて聖剣を放つ構えに入る。

 市民が防御壁を道なりに貼ってくれたおかげで、竜は現在袋小路に追い詰められていた。

 空へ逃げるにも、翼が広げられない場所に誘導されたので難しい。

 しかもその場所自体に強力な強化魔法が掛けられているので、周りを破壊して逃げる事もできない。


「よし、今だ!」


 この大型弓は、魔法であらかじめ標的を固定してある。

 特殊なこれはまともな射手では運用できず、かといってカーレクティオン様が使うには技術が足りない。

 なので錬金術による射手能力の付与で、あの竜に限り必中するようにさせていた。

 そして貼られた防御符を無視して、竜に聖剣が向かっていく。


「刺さりました!」


 魔鷹の目を加工した双眼鏡で、聖剣が竜に刺さったのを私は確認した。

 対する竜は剣に気づく素振りすらないが、問題ない。

 この剣自体に殺傷能力はなく、現段階で竜を殺す必要はない。


「次は第二地点に移動だな」


 ここでの仕事が終わったのを確認するや否や、カーレクティオン様は私を連れて塔の下に降りていく。

 彼の言う通り、確かに私達はここでもたもたしている訳にはいかない。


「用意はいいな!」


 第二地点と呼ばれる場所は、カーレクティオン様に様々なものが手渡される場所になっている。

 だから周りには山積みにされたあらゆる物と、輸送班と呼ばれる職人や王城の人々が集まっていた。


「よし、いくぞ!」

「はい!」


 おびき出された竜の正面に立つカーレクティオン様は、持っていた杖に魔力を流す。

 そして手渡される道具を要素に変換して、弱点である人の力属性を聖剣に射出していった。


(聖剣は、多量の要素を欲する)


 聖剣は竜を殺す力を作る為に、非常に多くの要素を吸収しようとする性質がある。

 そのせいでゲームでも聖剣への調整を怠ると、攻略対象者が聖剣に体内の要素を奪われて死亡した。

 しかし今はその仕組みのおかげで避雷針のように、カーレクティオン様が打ち出す要素をその身に集めている。


「次は赤旗の場所にある道具をお願いします、その次は青旗で!」


 そして私もカーレクティオン様の言葉を聞いて、輸送班に道具を渡してもらう。

 物の場所は区分ごとに分けて、色のついた旗で見分けがつくようになっている。


(最初はこの場所に全ての道具を置いてしまおうと考えていたけれど)


 それでは、どこに何が置いてあるのかすぐに分からなくなってしまう。

 今回は錬金術による調整を行わなければいけないので、道具であれば何でもいい訳ではない。


(だからこそ道具の整理をし慣れている私が、伝令を受け負う事になった)


 そして細かい指定のあるものは、私と同じく道具の知識を多く持つオリディが走り回って調達している。

 今回の布陣は、そのような形でカーレクティオン様を支えていた。


(それにしても、竜の圧が強い!)


 二度目なのでこの間ほどの衝撃はないが、それでも酷い恐ろしさを感じる。

 存在を認識するだけで足が震え、歯の根が合わなくなる。


(もうあのお守りもないしね)


 過去に貴重品だと言われた通り、泉で壊れたお守りはもう直す事も作る事もできなかった。

 言ってしまえばもう直接的に私を守ってくれるものはない。


(けれど彼や市民の人が戦ってくれるから、大丈夫)


 竜がどこにも行かないように、周りの市民が必死に防御符で押さえつけている。

 そして少しづつ、カーレクティオン様も竜に傷を負わせていた。


(本当に総力戦だ)


 誘導の役目を終えた市民の、カーレクティオン様を応援する声が絶え間なく聞こえてくる。

 自分に向けられた訳ではないけど、それでも応援してくれる人がいるという事は安心に繋がった。


(今のところ問題ない、これなら)


 思っていたより順調な展開に、ほっと息を吐こうとする。

 だが問題は、起きずに終わってくれなかった。


「ダメです、もう必要な道具がないです!」


 オリディの悲痛な声が耳に届く。

 そしてその言葉の通り、私の手には指定した道具が届かない。


(嘘、あと少しだったのに)


 予想の中にはあった、けれど頭の中から意図的に外していた事態が起きて動けなくなる。


(だって、この作戦はここまでだもの)


 限られた時間で用意できたのはこれが最大。

 だから用意できた時間で精一杯準備した。

 こうなってしまえばもう終わりなのだから。



 けれど、一筋の光の様に聞き慣れた声が私を呼んだ。

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