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失われた物語と竜狩りの英雄譚4

 竜に踏み潰されて滅茶苦茶になっている冒険者ギルドのカウンターから、記録を引っ張り出して確認する。

 だが、そこに載っていたのは。


「全員死んでいる、か」

「恐らく道具不足で死亡したのでしょう」


 あの後オリディに少し話を聞いたが、彼女は本当に少しも攻略対象者と接触していなかった。

 ゲームはオリディが攻略対象者に、敵を倒す道具を渡すことでクリアしていく。

 だが彼女が言うには最初のイベントはもちろん、その後も客としてすら攻略対象者が来た事は一度もないらしい。


(だから逆に、竜がこのタイミングで来た理由も分かった)


 竜はゲームで各地に点在する中ボスから、力を受け取っていた。

 だから中ボスを攻略対象者に撃破されると、王都に来るのが遅くなっていく。

 中ボスの一つである泉の邪神は私達が倒したので、僅かには妨害できたのだろう。


(だけどおそらく、その時点で攻略対象者は全員死亡していた)


 確認こそできていないが、他の中ボスは多分まだ生きている。

 攻略対象者がどの時点で死亡したかは分からないが、オリディの話を考えれば相当序盤だ。

 つまり彼らの妨害がなかったからほぼ最速で、竜が来てしまったのだろう。


「気に病むな、お前のせいじゃない」

「でも」


 どうしようもなくなって、ただでさえ少なくなっていた口数が完全に止まってしまう。

 そのせいでカーレクティオン様に、いらない心配を掛けてしまっている。


「結局のところ、コイツらは力不足で死んだんだ。相手の事を自力で調べて道具を手に入れれば生き残れた可能性もあっただろう、それに今は落ち込んでる場合じゃない」

「……はい。そう言えば、倉庫は無事ですか」


 なんとか、何でも良いからと思って言葉を搾り出す。

 するとカーレクティオン様はすぐには言葉を続けず、顔を逸らした。


「竜に炎を吐かれて燃えている。無事な物もあるかもしれないが、竜の素材がないなら後回しだ」

「そう、ですか」


 またやった事が、裏目に出てしまった。

 倉庫が被害を受けたのもショックだが、それ以上に彼が負の側面を見せるとそれだけで不安が込み上げてくる。


(けど一番辛いのは、持ち主のカーレクティオン様だ)


 私が彼よりショックを受ける訳にはいかない。

 でも今まで短くない期間住んで、手入れをしてきた場所が壊されてしまうのはどうしても堪える。


(全部、私が疎かにしたからだ。だから何もかも滅茶苦茶になった)


 今までの悪行が、自分ではどうしようもない形になって襲ってきてしまった。

 あの時あぁすれば、こうすればという気持ちで胸が潰れそうになる。

 けれど泣いてはいけない。


(少しでも、何でもいいから手を打たなければ)


 せめて少しでも何か先に繋げないと。

 そうは思うけれど、結局自分に力がないせいでカーレクティオン様に頼らざるを得なくなってしまう。

 救いを求めて、向いてしまう視線。


 けれどその先にいたカーレクティオン様は、こちらに向かって目を見開いていた。


「カーレクティオン様?」

「竜の炎そのものが素材って事はないか?」


 ひとつ、そう呟いたカーレクティオン様の口からは次々と後から言葉が零れてくる。

 けれどその内容は、恐怖にも絶望にも彩られてはいない。


「竜の炎を採取するには本来竜に近づかなければできない。が、今回は既に燃えている」

「あ」


 そうだ、前にも言っていたじゃないか。

 要素は万物に宿る、なら素材以外だって例外じゃないはずだ。


「急いで戻るぞ、まだ炎は消えてないはずだ!」

「はい!」


 そう言うや否や、カーレクティオン様が迷いなく倉庫へ駆けて行く。

 それに追随して、私も彼を追った。





(分かってはいたけど、実際に見るとキツいわね)


 見慣れた倉庫が、業火で燃えている。

 その勢いは強く、所々耐え切れずに建物が崩れているのが心に刺さった。

 幸い踏み潰された訳ではないので、もし炎が消えれば中から救い出せるものもあるかもしれないが。

 だがカーレクティオン様は燃え盛る倉庫自体には目もくれず、炎の鑑定に勤しんでいる。


「調べるから離れてろ、オルガネーゼ」

「はい」


 この人は、やっぱり強い。

 あの竜に、生身で立ち向かおうとする人だ。

 画面を隔て、他者を使った自分とは訳が違う。


(だって竜を目の前にしたら、人では勝てないのだと本能が叫んだ)


 それは彼だって同じだっただろうに。


「よし、鑑定が終わったぞ!」


 それでも、彼は真っ直ぐに目的に動いている。

 この原動力は、一体何なのだろう。

 私には、分からない。


「今回は属性だけ割り出した、それ以上は時間を食いすぎる」


 そうカーレクティオン様は言うが、この状況でそれだけできれば十分すぎる。


「結論から言うと、この炎は聖属性だ」

「人を滅ぼしてるのに、ですか」


 ゆらゆらと倉庫を燃やす炎は、美しい。

 だが美しいからといって人に恩恵があるものだと限らないのは、邪神の件で良く分かっている。


(けれど、あれは邪属性だと判定された)


 ならば、この炎がそうでないというのは違和感がある。


「恐らく竜は神の御使いだからだろう、増えすぎた人類を粛清しに来たか」

「なるほど、だから人に害を成していても聖属性なのですね」


 その見方であれば、聖属性でも納得できる。

 人から見て悪でも、神から見て善ならばそう判断されるのだろう。


「なら敵は神の可能性があるんですね」

「あぁ、ゲームで神は降りて来たか?」


 そう言われて、私は記憶を掘り出す。

 数少ない自分が役立つ場所だ、しっかりと思い出さなければならない。


「いいえ、神そのものは降りてきていません」


 あのゲームの最後は、竜を倒した所で終了する。

 ゲームの設定で存在は書いてあったが、直接の登場はしていない。

 だからそれが降りてくる心配は、しなくていいはずだ。


「じゃあ試されてるか、遊ばれてるだけだな。なら今は竜をどうにかする事を考えるべき、」


 そこまで喋ったカーレクティオン様が途中で言葉を切る。

 背後から、足音が聞こえたから。


「っ」


 それを聞いて、思わず体が震えてしまう。

 明らかにそれは人の足音で、竜の足音ではないのに恐怖で敏感になってしまっている。


「下がっていろ」


 恐怖に怯えている訳ではないが、やはり警戒しているカーレクティオン様が前に出る。

 だが、近づいてくる足音とともに現れたのは複写魔法の青年だった。


「目が覚めたのですね、良かった」


 見慣れた姿を確認して、ほっと息を吐く。

 カーレクティオン様も私が気絶している時に会ったのだろう、彼の顔を見て剣を下ろした。


「そうだ、ご迷惑をおかけしてすみません」

「迷惑など。それに元々こちらが誘ったのです」


 すみません、と二人して頭を下げ合う。

 あの時の会話の続きにはなってしまうけれど、状況が状況なのでお互いに余計なことは蒸し返さない。

 そして私達の会話が途切れたのを見計らって、カーレクティオン様が会話に混ざりこんできた。


「あの時いた奴らは全員無事か?」

「無事ですが張り詰めていますね。民の怪我を治したり、炊き出しをしているのですが」


 僕も見回りです、と喋る彼の顔にもやはり疲労が滲んでいる。

 それであれば私も手伝いにいくべきだろうか。

 そう悩んでいると、複写の青年の方から申し出があった。


「良ければ彼女らにも顔を見せていただけないでしょうか、あなたが起きたのを見れば少し気が楽になると思います」

「俺も行こう、現状手詰まりだしな」


 何か手掛かりになるものがあるかもしれないと、カーレクティオン様も同行する旨を伝える。

 そして私達は三人で、彼女達がいる広場へ向かった。

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