失われた物語と竜狩りの英雄譚3
「なるほど、だから道具に詳しかったのか。発明家の娘だからかと思ってたが」
「確かにそれもありますよ。けど、全部じゃないです」
あれから私は、自分に関する情報を洗いざらい全て吐いた。
どうして素材に詳しいか、その知識はなぜ知っているか。
自分はどこから来た人間なのか。
けれど全てを聞いても、カーレクティオン様が私に対する態度を変える事はなかった。
「それなら帰る場所があるんじゃないか」
どちらかというと、彼は新たに知った私の立ち位置の事を考えているようだ。
だがその質問に、私は首を横に振る。
「もう戻ろうとは思わないですよ、帰る方法も分からないですし」
正直な話、私に前世そのものの記憶はそんなにない。
こことは別の世界でゲームをしていた事は覚えているが、なぜ転生する事になったかも分からないのだ。
(でもそれは多分、重要な情報ではないのよね)
今までそれで困った事はないから、転生先では不要と何かに判断されたのかもしれない。
何にせよ不自由がなければ、その理由を追おうとは思わなかった。
「そうか、じゃあまだこっちにいるんだな」
「ご厄介になります」
ぺこりと頭を下げると、ようやく彼は私を膝の上から解放してくれた。
逃げられないようにという措置だろうが、落ち着かないのでこちらの方が安心する。
「それで、そのゲームではどうやって竜を倒していた?」
「そこまで信じるんですか?」
カーレクティオン様の受け入れ速度の速さに、思わずこちらが聞き返してしまう。
今までの反応から完全に信じていないとは思っていなかったが、これからの計画に情報が組み込まれるほど信じられているとも思っていなかった。
「荒唐無稽だが、お前が嘘をついているとも思えん。それに今は時間もないから、そうであるという事にして動く」
(なるほど、仮の情報として動く訳ね)
信じるでもなく、信じないでもなく。
どちらの可能性も考慮して動くのは、実に彼らしい考えだ。
「分かりました、ではこれから竜に対して知っている情報を開示します」
「頼む」
彼の私に対する姿勢が固まったため、もう私が恐れることはない。
だから気持ちが落ち着いた所で、私はカーレクティオン様に一つづつ状況を説明し始める。
多量の情報を浴びせられても、この人は的確に処理できるから気づかいは不要だ。
「まずこちらから言える事としては、個人の力では竜を倒せないという事です」
「根拠はあるのか」
提示された情報に、さっそくカーレクティオン様が難色を示す。
彼は個人戦が得意だから、可能な限り一人で戦いたいのだろう。
だが竜は、それが通用するような生き物ではない。
「最終的にトドメを刺したのは個人でしたが、弱体化に軍を用いる必要がありました。それ以外の方法だと、攻撃が通らないんです」
最終戦の勝利条件自体は、攻略対象者が今まで貯めた聖剣の力で竜を討伐する事だった。
だがその前段階として、竜の弱体化に王国軍が投入される。
ゲームではそのイベントを通らないと、竜に攻撃が通じずに強制バッドエンドになってしまうのだ。
もちろん軍人とはいえ普通の人間が竜に挑むので、人的被害はかなり大きい。
(これも攻略対象者がどうにかしていると思って放置していた場所ね)
カーレクティオン様の声では動かなくても、攻略対象者の声であれば動くだろうと甘く考えていた。
けれどゲームの話通りになっていないこの状況だと、ここも何かしらの問題が起きている可能性がある。
「ちなみに、竜はいつ頃戻ってくるんだ」
本当に個人で戦う事を許されない事を悟ったのだろう、カーレクティオン様はそれ以上抵抗せずに話題を変える。
次の議題は、次の戦いがいつになるかという話だ。
「竜は大体一月間隔で、定期的に戻ってきます」
あのゲームのラスボス戦は敵の陣地に乗り込んでいくものではなく、王国での迎撃だ。
竜は一度王国に来ると、定期的にこの国を訪れて襲撃してくる。
だからそれまでに竜を討伐する手はずを整えるのが、竜襲撃までに行うべきことである。
「なら襲ってくるまでの時間はまだあるな、先に棲処を叩ければいいが」
「それは今からだと時間的に危ういですね」
そう言いながら二人で、机に広げっぱなしだった地図を見る。
王国から竜の棲家までは、この間の泉よりも遠い。
天馬を使ってもかなり時間が掛かってしまうので、直接棲み処を襲撃するのは却下だ。
「なら罠を貼り、弱体化を狙う方が良策だ。竜の素材は倉庫にあるか?」
やはり人を使うのは極力避けたいのか、カーレクティオン様が今度は道具による弱体化を提案する。
人を使わなければ人的被害が小さくなるので、その案自体に私は異論がない。
けれどこの方法は竜の素材がある事が前提となるので、現段階では使うことができない。
「さすがに竜の素材は貴重品過ぎてないですね、簡単に狩る事もできないですし」
一応倉庫の収蔵物を思い出すが、やはり竜に関する素材はあった記憶がない。
ゲームでは竜を倒すと手に入るが、すぐにエンディングに突入してしまう。
なので素材と言うより、あれはトロフィー扱いだった。
「なら市街地で手掛かりを探すか、鱗くらいは落ちてるかもしれない」
「そうですね」
そして私達は破壊された街に降りていく。
少しでも何か救いの手立てはないか、と考えながら。
(それで市街地に来たはいいけど)
たまに聞こえてくる悲鳴や泣き声が精神を削ってくる。
襲撃の爪痕はやはり深く、建物にも人々にも強い衝撃を与えていた。
「そういえばゲームの人物達は今、何をしているんだ」
「この段階なら各ダンジョンで戦っているとかだと思います。正確な進行度が分からないですけど」
「なら関連している人物はいないか。連絡を取りたい」
であれば一人、確実に知っている人物が存在する。
ゲームで彼らと最も密接に連絡を取り、間接的に竜を討伐した少女。
このゲームの主人公だ。
「道具屋のオリディなら、彼らの行方を知っているかと」
「じゃあ道具屋近くの避難所から当たっていくか」
そして私達は、向かった避難所でオリディを見つけることができた。
だが私が思っていたよりずっと、現状は悲惨だった。
「え、彼らを知らない?」
「はい、お店に来た事ないですよ」
ようやく探し出せた道具屋の少女オリディは、攻略対象者に会った事がないと首を傾げた。
「さ、最初のイベントは?」
慌てて、私はイベントの発生条件を事細かに伝えていく。
だが彼女は忘れている訳でもなく、それはないと言い切った。
「そんなの、あった事ないですよ。私記憶力は良いんで忘れてる事はないと思います」
「嘘……!」
思わず頭を抱えて、かがみ込んでしまう。
これで攻略対象者が動いている、というのが完全に私の思い込みだと分かってしまった。
(彼らの姿を確認してたから、油断してた!)
攻略対象者がいる事は確認していた、主人公である彼女がいる事も確認していた。
けれどその後にどう動いているかは、何も確認していなかった。
「あの、私何か」
「違う、あなたは何も悪くないの。悪いのは私だから」
私は知っていた、彼女とは違って。
なのに自分の恩恵ばかりを追って、本当に必要な事を見ないようにしていた。
それがこの惨劇を引き起こしてしまった。
「それ以上何も分からんなら冒険者ギルドに行くぞ。冒険者なら恐らく情報があるだろう」
「そう、ですね」
自分の罪を自覚する度に、息が苦しくなる。
けれど立ち止まる訳にはいかない。
ここがダメなら次に行く、今の私にはそれしかできないのだから。




