聖なる泉と偽者の神5
王城にいた侍女達からすぐに連絡が入り、届いた素材の鑑定が始まった。
「正体は神もどきの魔物だな、人を喰らう生物だ」
(やっぱりゲームの知識で知っていたとおりね。でもそれなら、もうゲーム中盤だわ)
記憶が正しければ、その魔物は中ボスに値する存在。
ゲームの進行状況に関わってくる、重要な相手。
(そういえば、攻略対象者達はどうしてるかしら)
最近はばたばたしてしまっているため、彼らの様子を見ていない。
だがゲーム通りの動きをしているのであれば、この近辺に来ている人もいるだろう。
(エンディングまでのルートはいくつかあるけど、どれにしてもここには来るから鉢合わせするかも)
もちろん全てがその通りにいくとは思っていないので、戦闘の頭数にするような真似はしないが。
「神もどきは信仰を集めて人を喰らう、そして信仰により強くなるものだ」
「戦うのはそれを崩して弱体化してからですね。でも村の人達は泉の正体を信じるでしょうか」
彼の声を聞いて、話に戻る。
今回の問題はそこだ。
私達は助けに来た存在ではあるが、現地の人から見れば土地神に害を成す者として見られてもおかしくない。
協力を仰げるものだとは考えていないが、邪魔をされるのは避けたい。
「だが村の状態を見るに、希望がない訳でもなさそうだ。という事でお前を聖女に仕立て上げるぞ」
「は?」
突然の言葉に、私は思わず顔を上げる。
すると疲労を滲ませた顔に、愉悦を同居させたカーレクティオン様と目が合った。
「今回は人の命がかかってる、お前にも業務外だが協力してもらうぞ」
「協力は全然かまいませんけど、どういうことですか。というか半分面白がってるでしょう」
顔を見れば、私でなくとも分かる。
これは碌でもないことを考えている時の人間の顔だ。
(疲れからかもしれないけれど、手口が乱暴すぎるわ)
信仰の対象を別に移して、魔物の弱体化を図りたいのは分かる。
けれど、他の手段はないのか。
そもそもうまくいくのだろうか。
「でも案外信じそうだと思わないか? お前は村の人々に水を与えた時、聖女扱いを受けていただろう」
「作ったのはあなたですけどね」
どんどん言葉を続けていくカーレクティオン様を何とか止めようと、私は「あなたこそ聖女に相応しいのでは?」と言外に伝える。
そんな事を言い出すあたり、私も疲れで頭をやられているのかもしれないが。
「しかし大半はお前が水を作ったと思ってる。そうだ、前に錬金術の話をした時の事を覚えているか?」
「属性付与の話ですねよ」
「あぁ、似たような話だ」
何が似たような話なのか。
矢継ぎ早に話題を連鎖させていく今のカーレクティオン様は、もはや役者か詐欺師の様だ。
「聖女の奇跡は俺が起こしてやるから、お前は聖女の振りして村人を説得しろ」
「そのやり方で本当に成功するんですか」
面白がりながらといえど、カーレクティオン様が言うからには必要な事なのだろう。
だが、正直抵抗がある。
奇跡の起こし方に関しては、彼ができるというのであれば疑う必要はない。
(だけど肝心の民がどれくらい騙されてくれるかが分からないのよね)
勝率が低い賭けに乗って、道化になるのは私だって避けたい。
けれど本気で疲労が頭に到達し始めているらしい彼は、それ以上の説明もなく話を打ち切った。
「結果の為に変わった手段を使う事は、錬金術でもよくある事だ」




