聖なる泉と偽者の神4
あの後カーレクティオン様は、何とか村の人達への水を生成できた。
そして今度は、私がそれを持って配りまわる。
彼がこの辺りの空気を鑑定した結果、空気感染の可能性はないという事だった。
「あなたが聖女様ですか、オルガネーゼ様」
「いやいやいや」
先程から水を渡した相手に毎回そう言われているが、私は聖女どころか水を作ってすらいない。
本来の聖女フィーカはこの村の事を知りもしないだろうし、聖女扱いされるべき男は外で即席の井戸を作っている。
そんなやり取りを数度続けていると、聖女の役割を果たした男が戻って来た。
「一時的な生活水は確保した、しばらくしたら泉の調査に行ってくる」
「分かりました」
今まで外で動き回っていたのだろう、端正な顔が土で汚れている。
だがカーレクティオン様はそれを気にする様子もなく、今度は泉の方に走り去っていった。
「調査の結果だが、泉が穢れていた。村の人間は泉の水を飲んでいたから、病の原因は確定だ」
泉から戻ってきたカーレクティオン様が、水を配り終えた私に開口一番伝えてきた。
椅子すらない急造の倉庫なので、お互い床に座って話している。
「穢れていたって、何か流入したって事ですか?」
穢れという事は、外から何か不浄なものが入ってきたのだろうか。
それこそ毒が流されたとか、泉が呪われたなどだ。
だがカーレクティオン様は、その答えに首を振って否定する。
「いや、泉に魔物がいた。そいつが水を穢して村人を衰弱させていたんだ」
「それなら教会部隊の出番ですね」
穢れを付与する魔物が相手だというならば、浄化の力を持つ王城の部隊に頼む事が一般的だ。
彼らは呪いなどに対する専門家で、この魔物に対してはうってつけだろう。
もちろん、きちんと部隊が動けばの話ではあるが。
「お前も分かって言ってるんだろうが、アイツらは来るかどうか分からん。となると俺達がどうにかするしかない」
(やっぱりカーレクティオン様は、完全に王城関係者に頼る事を諦めているわね)
カーレクティオン様は首を横に振り、提案を却下する。
彼が少しでも休めるように、一縷の望みを掛けてみたがダメだった。
(けど、それも仕方ないか)
ここに来るまでに錬金術師だけでなく、実は様々な部隊に声をかけている。
だがフルフェルト王子派の彼らは、カーレクティオン様の事を軽視しているために動かなかった。
連絡の順序があるのだとしても、あの話しぶりだと報告すらされていないだろう。
「それと魔物は泉の中心にいた。距離があり過ぎて細かい鑑定はできなかったんだが、これが痛いな。弱点属性が分からない」
「手掛かりは一部でも問題ありませんか」
頼れないものを、いつまでも気に掛けていたって仕方ない。
だから少しでも彼の役に立てるように、頭を切り替える。
(確か、神もどきの素材は倉庫にあったはず)
素材の情報と照らし合わせながら、私は頭の中に倉庫を描き出す。
メモは倉庫に置いてきてしまったが、毎日掃除はしているから置いてある物ははっきりと思い出せた。
頭を抱えていたカーレクティオン様も、再び私に向き直って話し出す。
「不完全ではあるが、ないよりマシだ。それより素材は倉庫にあるのか」
「あります。ならば、転送する手段はありますか」
手掛かりが掴めたのなら、次はそれを手元に持ってくる方法だ。
転送魔法を使うか、道具を使うかになるだろう。
「誰かに連絡できるなら素材を転送させる事は可能だ、その為の道具は錬金術で作れる」
「じゃあこの間の掃除組にお願いしましょう」
この時の為ではないが、大掃除の後も交流がある人がいる。
彼女らであれば急ぎの用事がなければ、対処してくれるだろう。
「すぐにやってくれ、でも俺の倉庫で保管した場所が分かるのか」
「保管場所をエリア分けしてます、指定すれば大丈夫でしょう。王城倉庫と同じ区分なので問題はないかと」
完全に同じという訳ではないが、大項目にあたる部分は一致している。
ある程度棚の場所が分かれば検討がつくようにはなっているし、倉庫にはメモを置いてきてある。
場所もそう広くもないから、王城の倉庫掃除を完了させた彼らならきっと大丈夫だ。
「よくやった、オルガネーゼ」
そしてそこまで伝えると、少し安心したのかカーレクティオン様が肩の力を抜いた。
それを見て、私は少しだけ嬉しくなる。
(ちょっとは役に立てたかしら)
私は錬金術も、穢れを祓う事もできはしない。
魔法だって何も使えない、ただちょっと知識があるだけの倉庫番。
ついてきたはいいけれど、肝心な所は何もできていない。
しかもそれは、自分の我儘で行動していない部分も含まれた。
(泉が穢れた原因なら、本当はゲームの知識で分かっていた)
泉に魔物がいる、と聞いた時点で察しはついていたのだ。
それはゲームの中でも出てきた展開だったから。
(けれど下手に先回りした情報を出して、ゲームの知識がある事を知られたくなかったから黙っていた)
今回の魔物は雑魚敵と違って、数は決して多くない。
素材は倉庫にあったが、あれも実は貴重品の類だ。
だから泉の魔物について、私が詳しく知っていればおかしいという事になる。
(カーレクティオン様には、発明家の父から素材の知識を教わったと伝えてある)
だから彼の知らない素材を私が知っていることは、おかしくない。
だけど冒険者でもない私が今回の魔物の詳細を知っていれば、彼に気づかれる。
(何であれ、彼に疑われるのは避けたいわ)
知識の在り処がカーレクティオン様に知られた時、彼がどう出てくるかは未知数だ。
まして異世界からこの世界に来たとなれば、どういう反応をされるのか。
それが怖くて、彼には話せなかった。
(けれど黙っていても、きっと問題にならない。彼は自分でどうにかしてしまえるから)
その事に救われると同時に、情けなくなる。
重宝されたいと願っていながら、自分の都合で情報を隠す。
けれど隠していたことが、彼には何も影響を与えない。
(彼は今まで一人で生きていたし、これからも一人で生きていける人だから)
私がいなくても、彼は今回の事件を解決する。
そして結果としてでも誰かを救って、その人に慕われるのだろう。
(いい事なのに、そんな事は分かっているのに、それを喜べない自分がいる)
再び襲ってくる暗い気持ちに、これ以上何も考えたくなくなる。
だから私は壁に背を預けて休んでいるカーレクティオン様の隣で、膝を抱えて休んでいる振りをした。
(私、最近おかしいわ)




