第39話 予選
全ての準備は順調に進み、クルシブルでは大会の予選が始まっていた。
数日前から沢山の人族が訪れて登録を済ませる者や、予選会場の周りに陣取り優勝候補を見定める者達が大勢いた。
魔王国からは正規に"五人"が登録されて予選を受ける様だ。
正規とは、聖魔王が許可し決勝まで残る事を前提に選出された者達だ。
それ以外は一般の魔物も多少の出場者がいるが、剣技を使える魔物自体が少数種族しかおらず、ほとんどが城勤めの者達だ。
魔物は力任せの攻撃が殆どで、剣を扱う者も剣技を持つかは定かではなく、一部の種族のみが剣技等を持つと認識されている。
したがって、選出された魔物はクエルノ族が多い。
十ヶ所ある予選会場には長蛇の列が並び順番に入っていく。
小さめの会場には対決の場を囲む様に観客が埋め尽くし、ギルドの職員が二人居て警備の者も三人待機している。
出場者は予選前に説明を受け始めて試合内容を知る。
「なんだ、ゴーレムを倒すだけか。簡単だな」
一概にゴーレムを見下す者は早々の退敗で消えていく。
「その一定の時間内に残れば良いのか?」
「一定の時間内に行動不能の状態にするか、大会の定めた損傷を与える事です」
「一定の時間内ってどの位だ?」
「大体五分位ですかね」
「そんなに早くかよ」
「説明は以上です。皆さんの健闘を祈ります」
軽い気持ちで参加した者達は戦々恐々だった。
ゴーレム自体は知っているが、殆どの者は一人で対峙した事は無い。
予選会場では既に戦いが見られ、後から出場する者は目の前で戦っている姿を見て参考にしている様だ。
行動不能とはゴーレムを倒す事だが、通過出来る損傷が分からなかったからだ。
次々と失格になる参加者達。
中には簡単にゴーレムを倒す者も現れて会場を沸かせたと言う。
四肢の二本を欠損させれば予選は通過出来るが、人族の参加者は自分の力量を見誤っている者が多い様だ。
一次予選は十日ほど受付し、同時進行で二次予選や三次予選が進んで行く。
大会出場者の人数が決まるまで行われるが、現在は三次予選まで進んでいた。
ディバルはこっそりと会場を訪れて観戦していた。
姿形は魔法で誤魔化し、仮面を付けたままでも普通の人族に見えるのだ。
(・・・思ってたより弱いなぁ)
予選を見ていたディバルの第一印象だ。
設定したゴーレムよりも参加者が弱いのは選別しているので問題ないのだが、次々と失格になる参加者を見て設定が強すぎたのではないかと懸念していた。
しばらくすると会場が騒めいた。
名前を呼ばれて現れた者は、一見すると少女に見える挑戦者が現れたからだ。
(そうか参加するか・・・)
ディバルは会場に現れた女性を見て納得した。
「「「おおおおおおっ‼︎」」」
試合が始まると一気に会場に響めき騒がしくなった。
それは瞬時にゴーレムを無力化させた小柄な女性だったからだ。
誰もが意表をつく結果に驚いている。
軽装備だが背中を開けているのは小さな黒い羽が見える様にしている為だ。
その羽を見れば誰もが人族では無いと判断するだろう。
だが例え人ではなくとも、その姿と笑顔を見てしまったら即座に恋の病を発病してしまうのだ。
ある大陸では一部の者からピラタ病と言われているほどだ。
そこからは魔物が続き、次々と予選を通過して行った。
二日目には幾つもの予想屋が現れて予選の結果を板に書き出しているが、予想屋が見た範囲のものなので一時予選通過は大勢居るようだ。
その中でも予想屋が推奨する参加者は大きく名前が上がっていた。
一部の予想屋は破壊魔ファルソや、殺戮少女ファルソに、暗黒天使ファルソなどと勝手に呼び名を付ける者たちも現れるほどだ。
勿論、数日後には本人の耳に入り異議を申し立ててギルドから本人公認の名として戦乙女ファルソと統一させたようだ。
数日間を経て十ニ人の本戦出場者が決まる。
予選は砂ゴーレムまで使う事となりギルドでは安心感が漂っていたが、やはり魔法を使用しないと砂のゴーレムを斃す事は困難らしく、ギルドとしては想定内だが一部の観客からはもっと剣戟を見たいとの意見が合ったようだ。
次の大会に備えて初期段階で木のゴーレムを複数召喚する事を検討するようだ。
本線出場者の十二人は全て魔法が使える者達だ。
魔、ファルソ(今回は特別に王国からの参加)
魔、バクタ(聖魔王がクエルノ族に変化)
魔、ムガル(クエルノ族)
魔、シング(クエルノ族)
魔、ドメタ(クエルノ族)
人、サーモ(グラディオ出身剣闘士)
人、グロザ(グラディオ出身剣闘士)
人、オルド(グラディオ出身冒険者)
人、エルス(グラディオ出身冒険者)
人、ラダー(帝国出身騎士)
人、クロス(エジェスタス出身騎士)
人、スレイブ(モナスカ出身騎士)
王国からの出場者はクエルノ族ばかりだが、剣技を得意とする種族であり、他の大会は出場せず他種族に任せる事で同意をもらい、今回の大会に臨む。
人族に対して決して敗北を許されないクエルノ族は、負けた場合は自決する制約を課し、勝利して当然の気概で臨んでいた。
予選前、秘密の修練場では三人の密談が有った。
「大会は魔法剣を使わずに出場してください」
「ええっ!! どうしてですか?師匠」
魔王だが教えを乞う以上師匠と呼ぶ事にこだわらないが、ファルソとしては困惑気味だ。
「魔法剣は強力よ。普通に切るだけで勝敗は決まるわ。だけど双剣は剣術なの。剣術あっての魔法剣よ、理解してるでしょ?」
「はい・・・」
「本来双剣は、自分より大きな敵に対して攻撃をかわしながら致命傷を与える剣技よ。魔法剣に頼らず剣技の研鑽で大会で私に勝った後だったら使っても良いわ。でも私に負けたり、私と戦う前に負けたら最初から修練のやり直しね」
「・・・では、身体強化や補助魔法は使っても良いでしょうか?」
「それは良いと思うわ。普通に魔法を使う事も有りでしょう」
「解りました」
「ところで魔王様はそのまま出場するの?」
「変化の魔法を使い、姿を変える予定です」
すっかり魔王では無く一人の弟子としての対応だ。
「流石は魔王様、変化の魔法も使えるんだ」
「私も使えるわよ」
これまで一緒に双剣の修行をしていたリオも自慢げに告げた。
「凄いわ、リオ様」
二人が変化の魔法を自慢できるのは初めての事で、王国の者にも教えていないからだ。
「じゃどんな風に変えるか変化してみてください」
「解った」
聖魔王アスラは出場する時の姿を想定して変化の魔法を使った。
何故かその横で一緒に変化の魔法を使うリオだった。
「「変化っ!!」」
体格は変わらないが顔と髪色が変わり、一本角が二本角に変わっていた。
変化の箇所は二人共同じで、本人とは別人のようだった。
王国の者であれば、全く疑う事などしないだろう。
角の本数や形に色合いは顔以上に個人差があり識別する重要な部位である。
「へぇ、割と簡単な変化だね」
「ええぇっ、結構練習したのよぉぉっ」
ファルソの何気ない一言がリオの努力を踏みにじったらしい。
「そこまで言うなら変化もお手本を見せようかなぁ」
ニヤニヤと自慢げにするファルソだ。
「是非師匠の変化を見せてください」
「どの程度か見てあげるわ、師匠」
「良いわ、じゃ私が敵を欺くときに使う変化をするわね」
精神統一し変化をするファルソ。
長い月日の元に、男性から女性に変化しても収縮する衣服の素材を開発させて、自分専用の戦闘服を使用しているファルソだ。
羽の有る背中を大きく開けて、肘と膝までの長さだが少女から成人男性まで対応する衣服だ。
「えっ、ちょっと・・・」
「か、身体が大きくなって・・・」
二人はファルソを見て驚いた。
先程まで少女が、普通の男に変わっていたからだ。
「どうだい?」
「嘘ぉぉぉぉっ!!」
「凄い、声も変わってるし!!」
実際は変化を解いたシルバが立っていた。
「まぁ、ここまで至るには結構な時間が掛かったけどね」
「どうして男なの? それも人族?」
「わたし、いや俺の居る国は人族がほとんどだからさ。獣人にも変化できるけどな」
「凄い、口調まで変わってる」
「師匠おおおおっ!! 是非変化の極意を教えてくださいぃぃっ!!」
態度が急変するリオだ。
「リオ様は男に変わりたいのですか?」
「ち、違います! もっと女性らしく・・・」
「なるほど、そんなに難しくは無いと思いますよ」
「本当ですかぁ!?」
「まあ、簡単なのは気に入った誰かの部分的な場所を真似すれば良い訳ですから」
「そうか、今までは頭の中で思い描いてたけど、見れば言い訳ね・・・」
リオはブツブツと妄想に突入していた。
「ところで師匠。ずっとそのままですか?」
「そうだなぁ、この変化は結構な魔素量使うからさ、回復するまでこのままでいたいけど駄目かな?」
「大丈夫ですよ」
「双剣はこの姿のままでも大丈夫だから。出来れば明日の朝には魔素も回復しているだろうし元に戻るのも簡単だけと」
「そうですか。なんか済みません」
「いえいえ、お二人の参考にしてもらえて良かったです。とにかく本戦に向けて鍛錬してください」
「はい!!」
ファルソの小さな翼はサキュバスを模している。
ピラタ病=戦闘で女性に負けて恋をしてしまう可笑しな恋愛病。
もしくは強い女性に恋愛感情を持つ病。




