第38話 魔王のお願い3
シグルや側近たちは聖魔王と聖魔女に普段から指導されている事が有る。
盲目の仮面を付けた者とウルサに対しては自分たち以上に敬意を持って接する事だ。
王国の者や元老院には関係性を偽装してあり、ウルサは一緒に修行した魔王に近い力を持つ存在で、仮面の男は三人の師匠だと教えてあるからだ。
本来はディバルが魔王城に出入りするとこは無いのだが、ファルソを連れて出入りする為に特別な処置としたのだが、本当はディバルも新しくなった魔王城を見たかったのだ。
普段から仮面の男の存在を知ってはいたが初めて目の当たりにするシグルは二人を引き連れて、以前よりは綺麗になった城内を歩く。
初めて魔王城に入るディバルとファルソは興味津々で辺りを見回していた。
城の内部も離れた場所から見ていたが、体感すると臨場感が全く違うのだ。
兵士たちの息遣いに、動き回る侍従たちはどこの城も同じ感じだ。
ただ種族が違うだけ、それだけだ。
「あのぉ、お二人が剣技の指南をされるのでしょうか?」
聖魔王から剣技の師を招き入れると聞かされていたので興味のあるシグルだ。
何故なら盲目の仮面の男に、見た目は魔物だが珍しく小柄な女性だからだ。
「剣術を教えるのは、このファルソだ」
「ええっ! こんな小さい方がぁ!?」
小さいと言ってもシグルと然程変わりない身体だ。
「こう見えても多少は強いのよ」
「はあ・・・」
見た目からは想像できないシグルは疑心暗鬼の眼差しだった。
二人は待機室に案内された。
「ここからはお前だけで行ってこい」
「ええっアルジ様は行かないのですか?」
「大丈夫だ。シグルと言う世話係も居るだろう」
「そうですけど・・・」
「心配するな。五日後に来る。それまでは魔王達がお前の面倒を見るからな」
「解りました・・・」
(あとは宜しくな。研鑽に励め)
(ありがとうございます)
聖魔王との念話で、その場から転移して離れたディバルだ。
暫くするとシグルが現れた。
「聖魔王様の準備が整いましたので参りましょうって、あれ?仮面の師匠が居ない・・・」
「アルジ様は戻られたから私だけで行きます」
初めての魔王城で謁見の間に入ったが、何となく既視感におちいるファルソだ。
何故なら雰囲気が、自らが仕える大魔王が組織する闇の帝国の謁見の間と同様の感じが有ったからだ。
「聖魔王様、ファルソ殿をお連れしました」
「お前がファルソか」
「初めまして聖魔王様。依頼により参りましたファルソと申します」
「そうか。まさか女とは思っても居なかったぞ」
「はい、私もお二方の事はアルジ様から伺っております」
「・・・では早速だがお前の力。見せてもらおうか」
謁見の間には元老院の五人が配列している。
聖魔女の指示で配下の者が魔法を使った。
すると謁見の間に配置してあった石柱が動き出した。
通常の石のゴーレムが二体と、強化型の石のゴーレムが二体だ。
通常型は物理攻撃が効き辛いが、強化型は魔法耐性も備えている。
強化型は魔物でも倒す事が難しい強さを備えているので、元老院としては魔王に享受する剣の師範として見極める為だ。
後方からゴーレムの二体が襲い掛かって来た。
ファルソは双剣を我が物として研鑽を積み、以前よりも高みに達していると自負があった。
即座に左右の手から属性の違う魔法剣を発動させた。
「何ぃっ!!魔導具も無しに炎の剣と氷の剣を出したぞ」
聖魔王が驚くが、一瞬でゴーレムと擦れ違い様に切り捨てたファルソは、奥の強化型を飛び越えたと同時に切りつけた。
「「「おおおっ!!」」」
崩れ落ちるゴーレムに驚きながら、強化型が無傷だったので驚くファルソ。
(なるほど魔法耐性か。では、これはどうかな?)
魔法剣を一旦解除して、もう一度魔法剣を顕現させた。
そして数合切りつけてファルソは止まった。
崩れ落ちる強化型。
「「「おおおおおおっ!!」」」
先程よりもどよめきが大きかった。
「見ごとだ!!。是非双剣を指導してくれ」
「承知しました」
「しかし、"ファルソ殿"、先程の魔法剣は一体・・・」
「あれは別の機会に・・・それと私に敬称は不要でお願いします」
「そうはいかん。お前が簡単に倒した強化型ゴーレムは、ここに居る五大老ですら手こずる相手だ。それを意図も簡単に倒すのだからな。皆もそうであろう」
「全くだ。あの体と身のこなしで良く倒せたものよ。我らにも指南して欲しい物だ!」
メガモナスの鼻息が荒い。
「せめて聖魔王様と聖魔女様だけでも敬称無しでお願いします」
「・・・そうか。ではファルソ、別室で今後の話をしよう」
別室にて。
「しかし見事な腕だ。それに魔導具を使わずに魔法剣を操るとは
女の身で大したものよ」
「聖魔王様、女だからと偏見は感心しませんわ」
「そうだな、余りにも見事なもので驚いたのだ、許せ」
「大丈夫です。いつもの事ですから」
「ファルソさん、後から出した双剣はもしかして・・・」
「はい。神聖魔法で発動する聖なる剣です」
「何ぃ!何故魔物のお前が?」
「私の住む向こうの大陸には聖魔法王国と言う国がありまして、その国の聖騎士に任命されているからです」
「何だとおおお!」
「何ですってぇ!」
驚きの元勇者と元聖女だ。
「魔物なのにどうして聖なる魔法剣を扱えるのだ⁉︎」
「それは・・・大魔王様のお力です」
「「ええええっ‼︎」」
驚愕する二人だ。
本来、属性の反する魔法や種族は扱えないとの認識があるからだ。
その様な事を出来るのはディバルの様な存在しか居ないと思っていた二人だ。
勿論本当は違うが、自分の事を説明するのも面倒だし、親友に推しつけた"男"だ。
「それ程までの力を持っているのか、大魔王は・・・」
「はい、世界の半分は大魔王様が収める闇の支配下です」
「「!!!」」
「闇の支配下ってどう言う事かしら?」
「表向きは普通ですら。大魔王様も昼の顔で二つの国を治めてますし、親族の方々を含めれば後四つの国が有ります」
「「・・・」」
自分達の力とやっている事を比較して絶句する二人だ。
「なるほど、良く解った。もっと聞きたいが、まずは双剣を指導してくれ」
「承知しました。では聖魔王様の剣技を拝見してから指導内容を考えたいと思います」
「解った。何でも言ってくれ、修練場に行くぞ」
聖魔王の特訓は極秘扱いだ。
ファルソの事は五大老と側近しか知らないが、魔王軍の強化の為に呼び寄せた事になっている。
修練場も魔法で封鎖して聖魔女が見守る中での特訓だ。
まずは謁見の間でも見せた、城内に配置用のゴーレムと戦う聖魔王だ。
最初から魔導具を使って戦う聖魔王。
「あれは⁉︎」
「あれはアルジ様から頂戴した魔導具ですわ」
炎の魔法剣と氷の魔法剣で難なくゴーレムを倒す聖魔王。
「なるほど。では魔法剣を使わずに戦って見せて下さい」
「ゴーレムは倒すのに時間がかかるけど・・・」
「倒す事が目的じゃないよ。どれだけの技量を持っているか見たいの」
「解った」
二人のやり取りを聞いて聖魔女が魔導具を使い木のゴーレムを召喚した。
普通の剣で木のゴーレムと戦う聖魔王を観察するファルソだ。
その日、城内で訓練の内容を三人で考案し予定の日程を作り上げた。
リオが途中から自分もやってみたいと言い出して二人を困らせたが、そもそも一から双剣の利点や長所短所を教える所から始める為に一人でも二人でも同じだと考えたからだ。
勇者の時も現在に至るまで双剣で戦った事の無いアスラを双剣の素人と見抜いたファルソは、双剣の扱いを言葉で教えながら型を指導して行く事にした。
途中、職業別闘技会の最初の大会が剣技だと知ったファルソ。
「じゃ私も出てみようかなぁ」
「ええっ、俺が優勝出来なくなるよ」
「ちょっと聖魔王様ぁ!まさか本当に出る気だったのぉ⁉︎」
「あっ、いやぁ・・・ほら、仮面を付けたり変装すれば大丈夫だろ?」
「「・・・」」
呆れた顔のリオと笑顔のファルソだ。
「だったら、その大会で私を倒す事を目標にしたらどう?」
「えええー!」
あからさまに嫌がる聖魔王。
「頑張って、聖魔王様」
「・・・やってみる」
他人事のリオと、内緒で出場して優勝しようと思っていたアスラに、思いもよらぬ壁が立ちはだかった。
(やばい、仮面だけじゃダメだなぁ。角も二本にして髪色も変えた方が良いな・・・)
最悪の場合も想定する男だった。
翌日から三人での特訓が始まった。




