第37話 魔王のお願い2
ディバルはシルバと会う為に"カラコル"と言う老舗の喫茶店にやって来た。
「待たせたか?」
「大丈夫だ。紹介しよう、"俺の父方の"古い付き合いのあるディバルだ」
含みのある言い回しだが、”古参のフォーレ”はある程度事情を知っている。
「よろしくな」
「俺の右腕のシルバだ」
「こちらこそ宜しく」
「シルバ、一応言っておくがディバルは俺の相談役でもあるからお前の事も全て知っている」
事前に二人で決めていた事で、隠し事を少なくした方が良いと判断した為だ。
「えっ、マジか!?」
「大丈夫だ。こう見えても信頼できる奴だからな。そして俺たちの味方だ」
「と言うと?」
「"コレ"関係に寛大だ」
エルヴィーノは小指を立てた。
ガタッ
「よろしくお願いします!!」
立ち上がったシルバは綺麗なお辞儀をした。
"こう見える"ディバルは変わった仮面をしているからだ。
口元しか解らないが、木目で彫刻が入った仮面は目の部分に穴が無い。
不思議に思うも、自然に紅茶を飲んでいるので何も聞かないシルバだ。
「では依頼内容を話そう」
別の大陸で職業別の闘技大会を開くにあたり、配下の者に双剣の指導をしてほしいと言う依頼だった。
期間はおよそ三十日程度で、食事と宿も付いており"お小遣い"と言う報酬で何をするかは自由だし闘技大会を見学しても良いと言う条件だ。
「それで報酬額は?」
具体的な金額を提示するディバル。
「是非やらせてほしい!!」
積極的な意思を訴えかけたシルバ。
「そう言ってくれると思ったぞ。では全容を話そう」
「えっ!?」
全ての内容を聞く前に引き受けてしまったシルバに頭を抱えるエルヴィーノ。
「そんなに悲観するな。大した事では無いしお前がやってきた事に比べたら簡単なもんだ」
「はあ・・・」
改めて全容を話すが途中で何度も驚く二人だ。
「はあぁ!? 炎の魔法剣と氷の魔法剣を適性が無くても使える魔導具だとおおおおおっ!!」
「そうだ。ファルソの双剣を見て作った物だがな」
「「なにいいいっ!!」」
「うるさい、大きな声を出すな」
「アレを簡単に出せると言うのか!!」
「その為に作ったからな」
「あぐぅ・・・」
「しかもお前の原型よりも複雑な事も出来る」
「俺がどれだけ苦労して会得したと思ってるんだ」
「あの程度であれば、お前には簡単だったはずだぞ」
「うぐっ・・・」
何故知っているのか解らないが、隠し事は出来ないと諦めたシルバだ。
仮面をしているが、現大司教と風貌が似ていて国王の素性を知るシルバはディバルが長命種のエルフだと想定したからだ。
「それでな、指導する奴なんだが向こうの魔王だ」
「「はああああっ!?」」
「ちょっと何言ってんだ、あんた」
「何を騒ぐ?」
「魔王って言ったか?言ったよな?魔王だぞ。解ってんのか!?」
「ではお前の隣に居るのは誰だ?」
「陛下は・・・あっ」
本人は否定しているが、古参のシルバは知っている。
魔族の王を倒して娘を嫁にした大魔王が隣に座っている事だ。
無論、本人はそんな事は誰にも言わない。
全て嫁たちが言いふらした事だ。
今では各国の王族や古参の配下しか知らないが事実である。
「何故、魔王に剣の指導を?」
「双剣が初めてで自信が無いそうだ」
「はああああ」
深いため息を付くシルバ。
「今更嫌とは言わせんぞ」
「一応聞くけど、強いのか?」
「心配するな。大魔王よりは弱い。それに元人族だ」
「「えええええええっ!!」」
「二人共、これは内緒にしてくれよ」
驚愕の事実を知った後で追い打ちをかけて驚かされる二人。
「因みに俺の眷属ではある」
「「はあああっ!?」」
「そうだ。いっその事二人で教えてくれないか」
「「・・・」」
「いや、今のは無しだ。エルヴィーノは忙しいからな。お前の都合の良い時に来ればいい」
全ての事象を盗み見されている事を思い出すディバル。
「・・・」
高速思考で妻たちに対しての言い訳を考え中の男。
「それとも俺から闘技大会を観戦する為に招待状を送るか?」
「それが良い!!」
即決だった。
「ではそうしよう。いつから行ける?」
「数日待って欲しい。あと行ったきりか?」
「戻りたいときに戻っても良いし、定期的に行き来する様に決めた方が良いなら、そのようにするぞ?」
「是非そうして欲しい。一応、こっちの仕事も有るからな」
「解った。では五日訓練して二日休みだ。その二日をどうするかはお前の自由だ」
「確認だが報酬は全額後払いか?」
「必要ならば、先に半分入れとくぞ」
「頼む。この依頼、改めて引き受けた」
下心が顔に出ているシルバだが、忠告は"上司"がすると思い何も言わないディバルだ。
「ところでファルソの姿を見せて欲しいが・・・」
「ここでか? 着替えも無いし、ちょっと厳しいな」
「では待ち合わせの時を楽しみにしよう・・・それから俺の事だが、向こうでは偽名を使っているからお前たちも合わせて欲しい」
「何と呼べば良い?」
「アルジと呼ばれている」
「解った。これからはアルジ殿と呼ばせてもらおう。シルバも合わせてくれ」
「解った」
重要な話が終わり聖魔王の願いを叶えてやれそうだが、これからが本題のシルバとエルヴィーノだった。
「それで、向こうの女性はどうなんだ?」
「どうとは?」
「美人とか可愛いとかさ・・・」
「なるほど。しかし好みは人それぞれでは無いのか?先に答えを知ってしまえば、その時の喜びも半減するぞ?」
「確かに一理あるが、失敗を回避するためにも事前情報は重要だと思うぞ」
「ククククッ。フォーレらしいな」
「今はシルバだが」
「そうだった。すまんすまん。では取って置きの情報だ」
顔を寄せる三人。
「向こうには大きな国が五つ有る。どこかで万が一ハズレだったとしても・・・」
「確かに、それぞれの街を散策して楽しむのも有りか・・・」
実際にはシルバの知りたい情報を持っていないディバルだ。
「では待ち合わせの日に。行先にはクエルノ族と獣人が待っているからな」
「おおおっ」
こちらではクエルノ族と獣人族は別々の国を持っているが、向こうでは纏めて魔王国であるが、その事を知るのは現地についてからのシルバだった。
“王都イグレシア”の絶景が見える丘公園にて、待ち合わせの時その場所で立っているディバルに近寄って来た少女らしき女性が居た。
「お待たせぇ、戦乙女のファルソでぇす」
「・・・確かに可愛いな。その容姿で強ければクエルノ族が恋の病に侵されるのもうなづける」
「・・・もう嫌な事を思い出させないでくださいよ、アルジ様ぁ」
「・・・変化すると人格も変わるのか?」
「演技ですよ、演技!」
「凄い才能だな・・・」
マジマジ見るとシルバよりも身長が低いし骨格も違い声も違うのだから、変身魔法の劣化版だとしても、大量の魔素を使いここまで変化の魔法を使いこなすシルバを認めるディバルだ。
何よりも女性に成りきっている感が半端無いのだ。
話し方に仕草は、誰が見ても可愛い少女を演じている。
「転移は俺と一緒の行動だ。では行くぞ」
一瞬で景色が変わり、ファルソの目に入ったのは禍々しい攻撃的な城が聳え立っていた。
転移した場所は魔王城の境内にある巨木の下で、直ぐに聖魔王に念話したディバルだ。
すると配下の者に案内させるらしく待機する事になった。
そして王城から全力疾走してくる者が居た。
「ハアハアハアッ、お迎えに参りました。ご案内します」
若い人狼族の女戦士は名をシグルと言い、普段は聖魔女の護衛をしている。
護衛の人狼族シグルはアルゴス・エルギ・ノーザ(獣人族代表)の娘。




